異母姉の金雪松氏の声

 北朝鮮情勢ウォッチャーには、北朝鮮の4月はイベントの多い時季であり、いつミサイル実験や核実験をするのかと気になる人も多いだろう。

 そんな折、ここ数日、日本や韓国のメディアでは、北朝鮮のある女性が注目されて話題になっている。

 その女性は、今年2月26日に北朝鮮で開催された初級党初期大会でひな壇の金正恩(キム・ジョンウン)総書記に演説文を差し出した女性である。

 最近の4月13日には、平壌の「普通江川岸段々式住宅区」の竣工式でテープカットする金正恩総書記の舞台の後方から見つめる女性がいた。どうやら金総書記の視察に同行もしているのがわかった。

 金正恩総書記と同じ舞台で立てる近しい女性としては、まず夫人の李雪主(リ・ソルジュ)氏、さらには、妹の金与正(キム・ヨジョン)党副部長がいる。

 しかし、マスコミなどが注目しているのは、この女性が金日成(キム・イルソン)バッジをつけずに普通のブローチをしており、一般の党員ではないようなただならぬ雰囲気があるので、異母姉の金雪松(キム・ソルソン)氏ではないかということだ。

儒教思想的に10歳上の姉は考えづらい

 「白頭の血統」と言われるロイヤルファミリーについて、北朝鮮は多くを公表していない。

 金雪松氏についても、故金正日(キム・ジョンイル)総書記が1973年に党宣伝部でタイピストをしていた金英淑(キム・ヨンスク)という名前の13歳年下の女性と結婚し、翌年の1974年12月30日に生まれたのがこの雪松という説がある。

 この話が真実なら、1984年生まれとされる金正恩総書記とは10歳の差があり、今年48歳になる。

 筆者の個人的な分析と見解ではあるが、限られた少ない画像から見てもこの女性は48歳という中年女性ではなく、金正恩総書記と同世代のような、まだ比較的に若い印象を受ける。

 儒教思想が根深く残っている北朝鮮では、10歳も年上の姉に小間使いのような仕事をさせるだろうか。妹の金与正党副部長なら理解できる。

何かしらある北朝鮮側の意図

 そもそも、金雪松という女性を特定できたものはない。

 また、故金日成主席が亡くなる前に看護師に産ませた子供の話もあり、まだまだ、表に出てきていない(出てこれないというのが正しいのかもしれない)人物もいるので、金雪松氏だと特定するのは難しい。

 はたまた、金正恩総書記の愛人との噂(うわさ)のある牡丹峰楽団の元歌手の玄松月(ヒョン・ソンウォル)党副部長に次いで第2(!?)の存在の可能性もある。

 色々な憶測が飛び交う。ただ、このように報道されるようになったことについて考えると、北朝鮮側の何かしらの意図があるのは確かである。

 彼女は今後も表舞台に登場することはあるだろう。

 北朝鮮では、女性の台頭が政治的な要因にどう関わってくるか、引き続き注意深く見極めていく必要ある。


宮塚 寿美子(みやつか すみこ)
國學院大學栃木短期大學兼任講師。2003年立命館大学文学部卒業、2009年韓国・明知大学大学院北韓学科博士課程修了、2016年政治学博士取得。韓国・崇実大学非常勤講師、長崎県立大学非常勤講師、宮塚コリア研究所副代表、北朝鮮人権ネットワーク顧問などを経て、2014年より現職。北朝鮮による拉致被害者家族・特定失踪者家族たちと講演も経験しながら、朝鮮半島情勢をメディアでも解説。共著に『こんなに違う!世界の国語教科書』(メディアファクトリー新書、2010年、二宮皓監修)、『北朝鮮・驚愕の教科書』(宮塚利雄との共著、文春新書、2007年)、『朝鮮よいとこ一度はおいで!−グッズが語る北朝鮮の現実』(宮塚利雄との共著、風土デザイン研究所、2018年)、近共著『「難民」をどう捉えるか 難民・強制移動研究の理論と方法』(小泉康一編者、慶應義塾大学出版会、2019年の「「脱北」元日本人妻の日本再定住」)。