前回(2018年)の5倍以上の文字数

 「金正恩(キム・ジョンウン)総書記が書簡で、朝鮮総連(在日本朝鮮人総連合会)の活動にこれほど踏み込んだのは、今回が初めて。総連も驚いたのではないか」

 こう話すのは、朝鮮総連の事情に詳しい朝鮮半島研究者のN氏。

 金正恩総書記は、5月末の朝鮮総連の第25回大会似合わせて書簡を送付したが、これがなんと1万字をこえる長文。

 前回の第24回大会(2018年)の正恩氏の祝賀文が約2000字であったことを考えると、5倍以上の文字数だ。

 だが、N氏が驚いたのは、文章の量ではなく、異例とも言える書簡の内容であった。

「キムチ作りやチマチョゴリを伝承」

 正恩氏による書簡の題名は、「各階層の同胞大衆の無限の力によって総連隆盛の新時代を切り開いていこう」となっている。

 最大の特徴は、正恩氏が、同胞の権益擁護や民族教育を強調する中で、総連の具体的な課題や行動方針を示したことだ。

 例を挙げると、次のような記述が登場する。

・同胞生活相談所の運営を正常化し、結婚、就職、高齢者、障害者問題をはじめ、同胞たちの生活上の要求にこたえる。
・地震と津波、台風がしばしば発生する日本で、各級機関と学校、同胞の家屋の耐震性を確かめて対策を講じる。
・朝鮮学校の学生数を増やす。朝鮮大学校の事業をさらに改善・強化する。
・キムチ作りなどの民族料理を伝承する。
・在日朝鮮人女性と朝鮮学校の女学生の間でチマチョゴリを着るのを同胞社会の立派な風潮とする。
・朝鮮新報社と朝鮮通信社は、新聞とインターネットを通じてより多くの同胞に祖国と同胞に関するニュースを迅速に伝える。

金正日時代にも前例のない書簡

 このように、書簡はあまりにも具体的でもはや行動綱領とも言える内容であった。北朝鮮の歴代最高指導者の公開書簡でこれほど具体的に言及したものは見当たらない。

 たとえば、総連で重視されている書簡の中に1995年の金正日(キム・ジョンイル)総書記の書簡がある。

 金正日氏が、総連結成40周年に際して送付した「在日朝鮮人運動を新たな高い段階へ発展させるために」という書簡だ。

 約1万1000字の長文の中で、総連活動や在日朝鮮人運動の思想、課題を広く示している。

 この書簡は、「総連の進むべき道を示した」とされ、現在でも総連で重要視されている。だが、この1995年の書簡でさえ、今回のように具体的な課題にまで踏み込むものではなかった。

総連重視を強調する金正恩氏

 今回の異例となった1万字の書簡は、正恩氏が推進する同胞重視政策の流れの中で出されたものだ。

 正恩氏は近年、在日コリアンをはじめ、海外同胞の結束を呼びかけている。

 書簡でも「総連重視、海外同胞重視は我が共和国の永遠なる国策」と強調。

 今年2月に成立した海外同胞権益擁護法に基づき、在日同胞の権利を保障すると約束している。

 その上で、「海外での統一戦線の中心軸の役割を果たすべき」と要請し、朝鮮総連の働きにも期待を寄せた。

民団との「共同運動」の必要性に言及

 一方の朝鮮総連としては、このレベルの書簡が正恩氏から寄せられたことは、ある意味で予想外だったのかもしれない。

 総連は、金正恩総書記から指導を受ける立場にあるので、正恩氏が言及した課題や方針は、当然、何らかの形で受け止める必要がある。

 だが、今回の全体大会の報告文を読むと、正恩氏が書簡で「総連の新時代」の課題として挙げた内容に対応しきれていない部分があるのだ。

 また、正恩氏は、民族運動と関連して、在日本大韓民国民団(民団)との「共同運動」の必要性にも言及したが、総連としてどのように対応するかも不透明である。

 今後、朝鮮総連は、今回の異例の書簡に基づき、各種会議で検討を進めるものと予想される。

八島 有佑