「ファンダム政治」からの脱却を叫ぶ

 韓国では3月の大統領選挙に続き、6月1日の統一地方選挙でも、進歩系の野党「共に民主党」が大きく敗北して議席を失った。

 そこで同党内で叫ばれているのが「ファンダム政治」からの脱却だ。

 朴志玹(パク・ジヒョン)が、旗振り役となっている。朴は、性犯罪の告発で有名になり、共に民主党の再建を目指す共同非常対策委員長に起用された。

 朴は、思い切った世代交代を求める一方で、ファンダム政治の一掃を訴え、この言葉が流行語となった。

 韓国の政治番組で、この単語が出ない日はない。

熱狂的ファンを意味する言葉

 「ファンダム」は、「fan」と、kingdomやfreedomなどに使われている接尾辞の「dom」を組み合わせた造語だ。

 元々はアニメ、スポーツ、アイドルなどの熱狂的なファン集団を指す言葉だった。

 自分たちが支持する相手を守るためには、時に過激な行動もいとわない。韓国のアイドルの中には強固なファンダムを持っている人が多い。

 人気アイドルグループ「防弾少年団(BTS)」のファンは「ARMY」と呼ばれ、BTS人気を盛り立てている。

 政治の世界で使われるファンダムは、ポピュリズムとは違う概念だ。

 自分たちの支持者だけを喜ばせる政治の意味で、もちろん、否定的な意味合いで使われている。

特定人物を神格化し相手を悪魔視

 現在、野党となった共に民主党は、韓国の民主化闘争を主導した人権弁護士や活動家が中核を占めていた。

 公正、公平を目指す共に民主党が行うことはすべて正しく、保守政党が行うことはすべて間違いだとする一部の支持者が、同党を支えてきた。

 前大統領の文在寅(ムン・ジェイン)氏は、最大の恩恵を受けた人だろう。

 こんな民主党に対しては、韓国紙も手厳しい。

 「政治ファンダムが危険なのは、特定人を絶対化して神格化するからだ。これは討論と妥協・交渉を基本原理とする民主主義とは正反対だ」

 「このような雰囲気では、競争相手と相手陣営は存在してはならない『悪魔』として扱われる。違いを容認しない文化で民主主義は生き残ることができず、窒息死するだろう。民主党に『民主』がない。地方選挙が民主党に投げかけた厳しい課題だ」(韓国紙、中央日報イ・ジョンミン論説室長)

 共に民主党の文在寅政権が日本に厳しかったのも、ファンダム政治の1つの現象と考えられそうだ。

若者票の奪い合いで分断広がる

 ファンダム政治の犠牲者は、韓国の若者層だと指摘されている。

 共に民主党は、同党の鉄板支持層である女性を意識したフェミニズム政策を打ち出し支持を広げた。

 しかし、保守系の「国民の力」は、これに対抗して不満を強める若い男性に向けた政策を発表し、世代間の対立が広がっている。

 今回の統一地方選で行われた放送3社による共同出口調査によれば、イデナムと呼ばれる20代男子の65.1%は国民の力を、イデニョと呼ばれる20代女性の66.8%が民主党に投票しており、支持政党が真っ二つに割れた。

 30代の男性の場合も58.2%は国民の力を支持したが、56.0%の女性は票を民主党に入れた。過去の選挙では見られなかった分断現象だ。

 若者票は流動化しやすいため、各党も「ファン」を手放そうとはしない。

 ファンダム政治は、これから韓国政治のキーワードになりそうだ。


五味 洋治(ごみ ようじ)
1958年長野県生まれ。83年東京新聞(中日新聞東京本社)入社、政治部などを経て97年、韓国延世大学語学留学。99〜2002年ソウル支局、03〜06年中国総局勤務。08〜09年、フルブライト交換留学生として米ジョージタウン大に客員研究員として在籍。現在、論説委員。著書に『朝鮮戦争は、なぜ終わらないか』(創元社、2017年)、『金正恩 狂気と孤独の独裁者のすべて』(文藝春秋、2018年)、『新型コロナ感染爆発と隠された中国の罪』(宝島社、2020年・高橋洋一らと共著)、『金正恩が表舞台から消える日: 北朝鮮 水面下の権力闘争』(平凡社、2021年)など。

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