熊本県などが新たな企業誘致戦略を模索している。熊本地震の影響で2016年度の立地件数は21件で前年度比4割減と2010年度以降、最低水準。「地震と無縁」を売りにした戦略は転換を余儀なくされた。熊本地震によるマイナスのイメージを拭い去り進出を促そうと、地震への備えや、被災から事業再開までの経験を新たなアピールポイントにする考えだ。

 「地震察知システムをみんなで構築しましょう」。2日、誘致企業や市町村でつくる県企業誘致連絡協議会が熊本市で開いた総会。ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング(菊陽町)の川下信孝ファシリティ部門長が、参加約80団体に呼び掛けた。

 同システムは、複数の地震計をネットワーク化し、初期微動(P波)を捉え、主要動(S波)に備える仕組み。同社は17年度末までに地震計を設置する予定だ。地震計の設置企業が増え、揺れをキャッチする網の目が細かくなるほど精度は高まる。県企業立地課は「整備が進めば企業誘致にプラスに働く」と同システムの周知を後押しする。

 県と協議会は、被災から事業再開までの経験も「回復力」として訴える。アイシン九州(熊本市南区)など、被災した大手誘致企業の復旧過程を記録した冊子を3月末に2千部作成した。

 県外企業に“セールス”に回る県職員は必ずこの冊子を持参。重要な事業を早期復旧するための事業継続計画(BCP)への意識が県内企業の中で高まっており、「企業ネットワークの回復も早い」という強みとして強調している。

 もっとも震災復旧が優先される中、県の企業誘致の予算は限られている。16年度当初は5400万円を確保したが、17年度は20%減の4300万円。17年度からインターネット関連事業への補助要件を緩和したり、小規模な研究開発向けの補助制度を新設したりしたが、小粒感は否めない。

 そこで県が期待するのが、今国会で成立した「地域未来投資促進法」だ。熊本地震の被災地での設備投資に対して減税措置を講じる内容が盛り込まれており、県は積極的に情報発信している。

 復旧・復興需要の高まりで顕在化している人手不足対策にも乗り出している。17年度から高校や大学の就職担当者と進出企業の人事担当者の情報交換会を複数回催し、人材確保のネットワーク作りを支援している。

 「半導体や自動車関連メーカーが集積しており、今後のビジネスにつながる」。5日に菊陽町と工場新設の立地協定を結んだアルミ製品製造のSUS(静岡市)の石田保夫社長は熊本の魅力をこう指摘した。これまでの誘致活動の積み重ねを生かすためにも、新たな誘致戦略の重要性が増しそうだ。(田上一平)