自動車の心臓部といえばエンジンです。エンジンには時代の流れとともに新しい技術が投入され、進化を続けていますが、同時に消えていったエンジンがあります。そこで、これまでに誕生したエンジンのなかで、注目されつつも消えていったものを5つピックアップして紹介します。

話題になったにもかかわらず消えていったエンジンたち

 かつて、自動車の動力源といえば、ガソリンエンジン(火花点火機関)とディーゼルエンジン(圧縮着火機関)しかありませんでした。

 ところが、いまではモーターとエンジンを併用したハイブリッドや、モーターだけで走る電気自動車が実用化され、動力源は多様化しています。

 自動車の動力源は時代とともに進化していますが、その影で消えていった技術もたくさんあります。そこで、これまでに誕生したエンジンのなかで、注目されつつも淘汰されていったものを5つピックアップして紹介します。

●ホンダ「CVCC」

 1973年にホンダが「シビック」に搭載した「ED型」CVCCエンジンは、パスすることは不可能とまでいわれていた、アメリカの排気ガス規制、通称「マスキー法」の規制値を、世界で最初にクリアしたエンジンです。

 CVCCエンジンは専用のバルブを持つ副燃焼室に、通常より濃い混合気を吸入させることで確実に点火させて、それを火ダネとして主燃焼室内の希薄混合気を燃焼させることで、排気ガスに含まれる有害物質を少なくすることに成功しています。

 当時は、排気ガスの浄化に複雑なシステムを用いた酸化触媒が必要といわれていましたが、排気ガス対策をエンジン本体の改良だけで実現したことは快挙でした。

 こうしてCVCCが認められたことは、ホンダの本格的な北米進出の足がかりとなります。

 一方で、1980年代になると、燃焼技術の解析が進んだことや、安価で効率が良い触媒が開発され、CVCCのような手法は必要ではなくなり、ホンダも通常の燃焼方式を採用するようになったため、CVCCは使われなくなりました。

 しかし、シビックとCVCCエンジンは米国自動車技術者協会からは「1970年代優秀技術車」に選ばれ、社団法人自動車技術会の「日本の自動車技術180選」にも選出。2007年には日本機械学会が「機械遺産(6号)」にも認定されるなど、その功績が讃えられています。

●ダイハツ「1リッターディーゼルエンジン」

 ダイハツは、トヨタ「パブリカ」のOEM車として販売されていた「コンソルテ」の後継車として、FF化による広い室内空間をもったコンパクトカー「シャレード」を1977年に発売します。

 搭載されたエンジンは、現在の1リッタークラスで定番の3気筒をいち早く採用。軽量コンパクトな1リッター直列3気筒OHCで、3気筒エンジンが抱える振動の問題も、バランサーシャフトにより解決していました。

 世の中はオイルショックによる省エネブームという背景があり、経済性に優れるシャレードは一躍人気車となります。

 そして、1983年にモデルチェンジした2代目では、乗用車用としては当時世界最小排気量の、1リッター3気筒OHCディーゼルエンジンを搭載した「シャレードディーゼル」をラインナップ。よりパワフルなディーゼルターボエンジンも登場しました。

 ところが、ディーゼルエンジン固有の振動や騒音、排気ガスの黒煙の克服が難しいことと、ガソリンエンジンの高出力化が進んだことで、1993年に4代目シャレードにモデルチェンジした際に、ディーゼルエンジンは消滅しました。

 しかし、ディーゼルエンジンは小排気量化には向いていないにもかかわらず、開発にチャレンジしたダイハツの技術力は評価されています。

 なお、現在は排気ガス規制の強化もあり、小排気量ディーゼルはコスト的にコンパクトカーへ搭載するのは困難な状況です。

●三菱「GDIエンジン」

 1996年に発売された三菱「ギャラン/レグナム」は、「GDI(Gasoline Direct Injection)」と名付けられた量産車では世界初となるガソリン直噴エンジンを搭載し、話題になりました。

 直接シリンダー内に燃料を噴射することで理論上は燃焼効率を高くすることができ、低燃費化や異常燃焼の抑制、有害ガス低減、出力向上も期待できる優れたエンジンとして話題になりました。

 しかし、三菱のGDIエンジンは、特殊な専用部品の使用によるコスト高や、未燃焼のガソリンによりススが出やすくエンジンオイルの劣化が早いこと、走行条件によっては有害物質を除去しきれないなど、さまざまな課題を抱えていたことで、搭載車は徐々にラインナップから姿を消していきました。

 そして、三菱は直噴ガソリンエンジンの開発をやめ、スタンダードなガソリンエンジンと、ハイブリッド、クリーンディーゼルの開発にシフトします。

 現在は他メーカーにより技術開発が進み、ターボエンジンでは多くのクルマが直噴を採用しています。

唯一無二のエンジンは復活なるか!?

●マツダ「ロータリーエンジン」

 1967年にデビューしたマツダ「コスモスポーツ」は、コンパクトで流麗な2シータークーペで、フロントに世界初の実用量産型ロータリーエンジン「10A型」を搭載していました。

 ロータリーエンジンは、一般的なレシプロエンジンのようにピストンの往復運動を、クランク軸を介して回転運動に換える必用がないことで、振動や騒音が少なく、回転上昇もスムーズです。

 コスモスポーツの発売以降、世界中でロータリーエンジンの動力性能が高く評価され、マツダは小型車から高級車、マイクロバスに至るまでロータリーエンジン搭載車をラインナップしました。

 しかし、オイルショックを境に燃費の悪さから「ガスイーター」と酷評され、マツダはロータリーエンジンを特別なスポーツカー用のみにスイッチせざるを得なくなりました。

 ロータリーエンジンは部品点数が少なく、軽量コンパクトという特徴があり、スポーツカーには適したエンジンということで、「RX-7」そして「RX-8」に搭載されました。

 一方で、改良が進みつつも燃費の劇的な改善は難しく、2012年にRX-8の生産終了に伴って、ロータリーエンジンも消えてしまいました。

 いまでは再びロータリーエンジンの長所が見直され、電気自動車の発電用エンジンとして将来的に復活するとマツダからアナウンスされています。

●トヨタ「V型12気筒エンジン」

 一般的にレシプロエンジンは気筒数が多いほどスムーズな回転となり、振動や騒音が低減されます。そこで、1960年代からトヨタ「センチュリー」や日産「プレジデント」といった高級車は、V型8気筒エンジンを搭載していまいた。

 長期間、両車にはV型8気筒エンジンが採用されてきましたが、1997年に登場した2代目センチュリーに、日本の市販乗用車としては史上初で唯一のV型12気筒エンジンが搭載されました。

 センチュリー専用に開発された、5リッターV型12気筒「1GZ-FE型」エンジンは、最高出力280馬力と控えめなパワーでしたが、6気筒ずつ制御することが可能だったため、万が一片方のバンクに不具合が生じても、もう片方のバンクの6気筒が機能して走行し続けられるよう設計され、まさに要人のためのクルマに相応しいエンジンとなっていました。

 この国内唯一の乗用車V型12気筒エンジンは、2018年にセンチュリーがフルモデルチェンジした際にV型8気筒ハイブリッドにスイッチされて、市販車からは消滅してしまいました。

 しかし、天皇陛下がお乗りになる御料車「センチュリーロイヤル」に、このエンジンが搭載されており、まだまだ活躍し続けることでしょう。

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 ハイブリッドや電気自動車の普及により、純粋なエンジン搭載車は減少傾向にあります。しかし、まだまだ内燃機関の開発は続いており、すぐに無くなることはないようです。

 いまでは現役を退いた、ある技術者は「エンジンの魅力は、生き物のように振動と音、熱を発するところ」といいます。

 昔はエンジンを始動することを「火を入れる」と表現していましたが、どんなに電子制御化進んでもアナログな一面は変わらないのではないでしょうか。