知っているようで知らない自動車専門用語の基礎知識をあらためて解説。ターボチャージャーとスーパーチャージャーの違いについて説明しよう。

ターボとスーパーチャージャー、その違いとは

 フィーリングを楽しんだ自然吸気エンジンはすっかり姿を消し、かつては高性能車やスポーツカーに搭載されていたターボエンジンだが、現在では小排気量エンジンにターボを組み合わせるケースが多くなった。

 たとえばメルセデス・ベンツの場合、ひと昔前は「E350」といえば3.5リッターエンジン、「E250」といえば2.5リッターエンジンを搭載していたが、いまは「E200」は1.5リッターターボ、「E300」は2リッターターボといったように、小排気量エンジンにターボチャージャーを組み合わせている。

 ではこの「ターボチャージャー」と、似ているようでちょっと違う「スーパーチャージャー」というのは、一体どういうものなのだろうか。両者の違いについて解説しよう。

 まずはスーパーチャージャーとターボチャージャーがどうして生み出されたのか、歴史の話からはじめよう。

 もともとスーパーチャージャーやターボチャージャーという過給器は、航空機の発達から生まれたものだ。

 ライト兄弟が飛行機に原動機を搭載し、その動力で離陸して人力で操作することで飛行をしたのは、1903年のことだった。

 その頃の航空機はせいぜい高度100m程度を飛行しているだけだったのだが、搭載されているエンジンの高性能化、機体の高性能化に伴って飛行限界高度はどんどん高くなっていった。

 そこで問題となったのが、高度が上がると空気が薄くなるということだった。
山に登る人は体感したことがあると思うが、高度が高くなると空気が薄くなり、そのぶん酸素量も少なくなる。

 当時の航空機に搭載されていたエンジンは、現代の自動車でもメインの動力源となっているレシプロエンジンだった。これは空気と燃料を混ぜた、混合気をエンジン内部で燃焼させ、それによって動力を得ている。

 ところが、高度が高くなって空気が薄くなり酸素量が減少すると、そのぶん適切に燃やせる燃料も少なくなってしまうので、出力が大幅に低くなってしまう。

 それを解決するために考え出されたのが、スーパーチャージャーというシステムである。これは、エンジンの動力の一部を使ってコンプレッサー(圧縮器)を動かすことで、空気を強制的に圧力を掛けて燃焼室に送り込む、というものだ。

 これにより、高度が高くなって酸素量が減少しても、機械的に圧力を掛けられ高い密度となった空気を供給できることから、低高度の時に近い出力を得ることが可能になった。そのためスーパーチャージャーは、第ニ次世界大戦時の航空機には、ほぼ例外なく採用されるようになっていった。

 クルマだと、1929年に製造されたベントレー「4 1/2リッター ブロワー」にスーパーチャジャーが搭載され、レースシーンで活躍したことは有名だ。

 ところが、スーパーチャージャーには、弱点があった。それはコンプレッサーを駆動するために、エンジンの動力を利用しているということだ。

 航空機が飛躍的に進化を遂げていた大戦期、より大きな出力を求めたエンジン開発が続くなかで、航空機は高度1万mを超える高さでの飛行が現実のものとなっていった。そのとき、スーパーチャージャーによる過給では、動力ロスの大きさが問題となり、高高度での飛行が難しくなってしまったのだ。

 そこで考えられたのが、エンジンが排出している排気ガスの力を利用してコンプレッサーを駆動する、ターボチャージャーというシステムだった。これは、それまでは無駄に捨てられていた排気ガスのエネルギーを利用してコンプレッサーを動かすため、エンジンの動力に対してほとんど影響なく過給をおこなうことができる。

 ただし、問題がないわけではなかった。エンジンの動力を使って駆動するスーパーチャージャーと違い、排気ガスでは動力源としてパワーが小さく、より効率的に排気ガスのパワー利用するために、タービンの摺動抵抗をなるべく抑えるべく高い工作精度が必要となった。また、コンプレッサーは1分間で数万回転するため、高品位な潤滑油も必要となる。

 さらに、高温の排気ガスをタービンの羽根に吹きつけて回転力を得るという構造から、耐熱素材の使用は必須となり、そうした素材を開発するための技術力も必要となった。

 そのため70年ほど前、航空機のレシプロエンジンに搭載するターボチャージャーを実用化していたのは、アメリカなど一部の国のみで、日本では精力的に試験はおこなっていたが、実用化にはいたらなかった。

市販車でターボを装着したのはBMW「2002ターボ」だった!

 すでにレースで使われていたターボ技術を応用し、市販される自動車のレギュラーモデルとしてターボエンジンを初めて搭載したのが、1973年に登場したBMW「2002ターボ」だった。

 国産車では1979年、日産430型「セドリック/グロリア」がターボエンジンを搭載。「スカイライン」や「ブルーバード」にもターボエンジンを搭載したモデルを設定することで、当時はターボの日産、ツインカムのトヨタ、などといわれていた。

 現代では、ターボによって空気のみを圧縮し、燃料はシリンダー内部に直接噴射することで異常燃焼を防ぐ技術や制御方式が発達したことから、小排気量エンジン+ターボという組み合わせで大排気量車並みの出力を得るダウンサイジングコンセプトを採用したエンジンが自動車用エンジンのメインストリームとなっている。

 ちなみに、気体というのは圧力を掛けると熱を発生する、という性質がある。機動戦士ガンダムの第5話で、ザクが大気圏突入の際に燃え尽きてしまったのは、超高速で落下するザクによって空気が圧縮されて熱が発生し、結果としてザクの機体の温度が上昇してしまったためだ(摩擦熱ではない)。

 ところがもうひとつ、気体は温度が上がると膨張する、という特性も持っている。

 そのため、ターボチャージャーやスーパーチャージャーによって圧力を掛けてエンジン内部に空気を送り込もうとすると、その空気は温度が上がり、そして膨張する。そのため、効率良く空気を送り込むためには、吸入気を冷却する必要がある。

 そこで装備されるのが中間冷却器、いわゆるインタークーラーというものだ。このインタークーラーも、航空機から技術導入されたものといっていいだろう。吸気を冷やすために空冷式、水冷式など、さまざまな方式が考えられた。

 航空機の場合、空冷式エンジンでは水冷式は採用できないため、必然的にインタークーラーも空冷式となったが、これは空気抵抗が増大するという弱点がある。

 水冷式エンジンを搭載している場合には水冷式インタークーラーも搭載できるが、エンジンの熱に加えて吸気冷却もおこなう関係上ラジエーターの大型化が必要となり、やはり空気抵抗増大を引き起こす可能性がある。

 しかし、その空気抵抗増大をものともしないような、大出力を得られるエンジンを搭載しているのであれば、これは弱点とはならない。

 では、それほど出力が大きくないエンジンの場合はどうしたらいいのか。この解決法が、水メタノール噴射という冷却方法だった。

 これは吸気に対して、メタノール溶液を噴射することで、液体が気化するときにまわりの熱を奪う、気化潜熱を利用して吸気を冷やすというもの。

 空冷式の航空機エンジンが主流で、オクタン価の低いガソリンを使用せざるを得なかった日本や、水冷式航空機エンジンが主流ではあったが、やはりオクタン価の低いガソリンを使用せざるを得なかったドイツでは、この水メタノール噴射による吸気冷却が実用化されていた。

 2016年に発売されたBMW F82型「M4 GTS」に採用されたウォーター・インジェクション・システムの大元にあるのはこの水メタノール噴射といえる。

『技術の進化はそれまで常識とされていたものの積み重ね』という言葉がある。現代のクルマに使われている技術は、元をたどれば過去の技術者がトライして失敗してきた、さまざまなアイディアの積み重ねによるものなのだ。