毎年、世界各国で開催される国際モーターショーですが、2020年は新型コロナウイルスの影響により、中止または延期を余儀なくされています。一方で、9月26日から中国で北京モーターショーが開催されました。世界中がコロナ禍の影響を受けるなかで北京モーターショーが開催された背景や盛り上がりに欠ける要因とは、なんなのでしょうか。

見直される「国際モーターショー」の価値とは

 2020年9月26日に開幕した北京モーターショーですが、例年ほどの盛り上がりは見られないようです。もちろん新型コロナウイルスの影響があることは間違いありませんが、それだけが原因ともいえないようです。

 新型車やコンセプトカーが百花繚乱するモーターショーは、いつの時代も多くの自動車ファンを魅了します。

 世界を見れば大小数え切れないほどのモーターショーが開催されていますが、2020年はそのほとんどが新型コロナウイルスの影響を受けて、開催延期もしくは中止となりました。

 モーターショーの規模は、開催地の市場の大きさに比例するといわれるように、世界最大の新車販売市場である中国でおこなわれるモーターショーには多くのブランドが出展します。

 なかでも、偶数年に開催される北京モーターショーと奇数年に開催される上海モーターショーは、世界最大級の規模を誇ります。

 偶数年である2020年は、例年通りであれば2020年4月に北京モーターショーが開催される予定でしたが、新型コロナウイルスの感染が拡大していたことから開催は延期され、5か月遅れの9月26日から開催されることになったのです。

 ただ、9月26日から27日に開催されたメディアデーの様子を見ると、例年通りの盛り上がりとはいえないようです。その主たる理由が、新型コロナウイルスの影響であることはいうまでもありません。

 中央政府の置かれている北京で開催されることもあり、例年通りであれば、各自動車メーカーの首脳陣がプレスカンファレンスに登壇し、日本の永田町にあたる中南海へ向けたメッセージを送ることが多くありますが、今年はそうした様子がほとんど見られませんでした。

 新型コロナウイルスの収束をアピールしたい中国ではありますが、実際にはまだまだ入国が厳しく制限されていることが原因です。

 日産は内田誠社長兼CEOがオンラインという形で登壇しましたが、モーターショーならではの「ライブ感」は薄かったといえます。また、ワールドプレミア、すなわち世界初公開のモデルが少ないことも盛り上がりに欠ける一因といえます。

 そのモデルをどの市場でワールドプレミアするかはその市場の重要度の指標になりますし、モーターショーにおけるワールドプレミアの台数はそのショーの規模を測る目安になります。

 しかし、新型コロナウイルスの影響で、人の移動や物流が制限されたことで、とくに海外ブランドのワールドプレミアが少なかったように思います。

 日系ブランドでは、ホンダが「SUV:e concept」や「CR-V PHEV」を世界初公開するなど気を吐きましたが、トヨタや日産からはワールドプレミアは見られませんでした。欧米ブランドも同様に、既存のモデルを展示するブランドがほとんどでした。

 もちろん、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大という未曾有の事態のなかでおこなわれるモーターショーであることから、例年通りの開催は難しいのは当然でしょう。

 むしろ、この状況下でもモーターショーを開催し、国内を中心に多くの来場者を集めていることを見ると、中国という市場の底力を感じざるを得ません。

 一方で、もしこのまま新型コロナウイルスが収束に向かっていけば、2021年のモーターショーはまた賑わいを取り戻すのでしょうか。

 現地の自動車メディアでは「2021年の上海モーターショーは2020年の北京モーターショーに比べて勢いを増すだろう」と分析していますが、それと同時に、新型コロナウイルスとは別の理由で、かつてほどの賑わいを見せることは難しいかもしれないと論じます。

 その理由は、北京/上海モーターショーそのものの価値が見直されているためです。モーターショーには、大きくわけて、そのブランドの方向性を示したり戦略を発表する場としてのビジネスショーとしての機能と、現地の消費者に対して新車を販促するコンシューマーショーとしての機能があります。

 北京モーターショーのような国際的なショーは前者、後述する成都モーターショーのようなローカルショーは後者の性格が強くなります。

 世界中のブランドが中国市場に注力するのは、当然中国では多くの新車が売れるためです。ブランドのビジョンを伝える場としては、たしかに北京や上海などでおこなわれるショーのほうが注目度は高いといえますが、新車を販促する場として見ると、実は地方都市の方が潜在能力が高いとのです。

 およそ14億人という世界最大の人口を有する中国ですが、北京や上海のほかにも長春、重慶、成都、武漢、広州といった巨大都市を抱えています。

 これらの都市には、それぞれ世界的な自動車メーカーの工場が置かれていることもあり、毎年モーターショーを開催しています。

 北京や上海のモーターショーと異なり、基本的にはあくまで販促をメインとしたローカルなショーではありますが、その分現地の消費者へのアピールの場として機能しています。

 とくに、広州のある広東省は1億1500万人、成都のある四川省は8380万人もの人口を抱えるなど、中国国内でも最大級の市場です。実際の消費者にダイレクトにアピールする場としては、こうしたローカルモーターショーの方が自動車ブランドにとって見れば魅力的なのかもしれません。

 広州や成都のモーターショーは「ローカルショー」という位置づけではありながらも、実際にはかなりの規模があり、ワールドプレミアの場として選ぶブランドも増えつつあります。北京モーターショーでワールドプレミアが少なかった理由のひとつには、2020年7月に成都モーターショーが開始され、そこではじめて出展されたモデルも多かったということもあると考えられます。

ブランド側も「モーターショー」に魅力を感じていない?

 それ以外にも、ブランド側がモーターショーそのものに価値を感じなくなってきたという背景もあります。

 中国では、20代から30代の比較的若い層がおもな自動車購入層とされていますが、これらの世代の人々は、目新しいものを好む傾向があります。

 また、雨後の筍のように登場しているEVスタートアップや、自動運転など最新技術をアピールしたいブランドは、CESアジアのようなエレクトロニクスショーへも出展するようになりました。

 新しい物好きな若い層と、最新の自動車技術の相性は良く、モーターショーよりも魅力に感じるブランドもあったようです。

 また、これは中国だけに限った話ではありませんが、モーターショーのコストパフォーマンスの悪さも課題といえます。

 とあるブランドの幹部は次のように話します。

「モーターショーに出展すると、ブース設営や車両の搬入、広報宣伝素材の制作、そして人件費などを合わせて、中堅ブランドでも数億円、グローバルブランドなら10億円以上もの予算が必要です。

 しかし、それだけの予算を投入しても来場者がブースに来てくれるとは限りません。また、プレスカンファレンスも15分程度で、メディアの方もすぐ次のプレスカンファレンスへ行ってしまいます。

 さらに、会場の制約もあり、ブランドアイデンティに沿った展示や来場者へのおもてなしができない可能性もあります。

 もし数億円の予算を投入するなら、自分たちで会場を用意し、メディアや顧客を招待したほうが、じっくりとブランドやモデルの魅力を伝えることができると思います」

 クルマの性能が進化したことで、従来のガソリン車などでは機能的な差は少なくなってきているといわれています。

 その分、そのブランドが持つ世界観やイメージが新車販売において重要な意味を持つなかで、せわしないモーターショーのなかで発信するよりも、自社でイベントを企画したほうが、より深く適切にブランドの魅力を伝えられるということのようです。

※ ※ ※

 2020年の北京モーターショーが、新型コロナウイルスの影響を大きく受けていることは疑う余地のないことです。

 しかし、すべての原因をコロナに帰着させてしまうのは危険です。新時代のモーターショーを業界全体でつくりあげていかなければならない時が来ているのではないでしょうか。