2021年に入り、米アップルが開発中と噂される「アップルカー」(仮称)を韓国ヒュンダイが生産するというニュースが報じられました。自社で工場を持たない企業であるアップルは、自動車業界へ参入する場合も生産委託をおこなうと見られていますが、日本企業は生産に携わることができるのでしょうか。

電池開発で実績のある韓国

 2021年の年明け早々「アップルのEV(電気自動車)を韓国ヒュンダイが生産する」というニュースが世界を駆け巡りました。

 韓国やアメリカのメディアによりますと、ヒュンダイは自動運転が可能なEVに関してさまざまな企業からオファーがあり、そのうちの1社がアップルであると、ヒュンダイは当初認めていたものの、短時間で修正文を公開したと報じています。

 これが、アップルへの配慮だったのかどうか、現時点では不明です。

 ヒュンダイといえば、中国のIT大手バイドゥ(百度)が進める自動運転EV戦略「アポロ計画」で中心的な役割を果たしています。

 また、EVなど電動化についても積極的に量産している状況です。

 これまでの流れを振り返ってみると、ヒュンダイは2010年代中頃から電動化の強化を打ち出すようになりました。

 筆者(桃田健史)が2015年4月に韓国・ソウルモーターショーを取材した際、4ドアセダン「ソナタ プラグインハイブリッド」や燃料電池車「ツーソン iX フューエルセル」を軸足に「EV事業を世界市場で積極的に拡大する」との発表をしています。

 2016年3月のスイス・ジュネーブショーでは、電動化ブランド「IONIQ」を公開。ヒュンダイ関係者は「EVを活用したシェアリング事業も着手する」と意気込みを語っていました。

 直近では、2020年の北米モデルとして、IONIQのハイブリッド、プラグインハイブリッド、そしてEVを販売。個別モデルでも「ソナタ ハイブリッド」、「ソナタ プラグインハイブリッド」、SUVのEV「コナ エレクトリック」、そして燃料電池車「ネクソ」があります。

 この他、ヒュンダイグループのキアでも、コンパクトSUVの「ニロ」がハイブリッド、プラグインハイブリッド、EVを取り揃えており、さらにミッドサイズSUVの「ソレント」にハイブリッドがあるなど、ヒュンダイ関連の電動車ラインアップは実に豊富です。
 
 EV開発で重要な電池については、韓国はドイツメーカー向けにサムスン電子、GMなどアメリカメーカー向けにLG化学と、2000年代後半から2010年初頭にかけて本格化した自動車向け大型リチウムイオン二次電池の開発・生産が盛んで、EVに対する十分な知見があります。

 こうした韓国での社会状況を踏まえると、アップルがヒュンダイにEV生産を委託するという話は、自動車業界関係者にとって十分納得がいくところです。

 そもそも、アップルは商品の企画と設計をおこない、生産は外部企業に任せる、いわゆるファブレス企業(工場を持たない企業)で、その象徴的な例がiPhone生産を受託している台湾の鴻海精密工業(フォックスコン)です。

 アップルとしてはEVについても自社生産工場を建設せず、iPhoneなど既存商品と同様に生産の外注先を探すという図式を考えると、今回のヒュンダイとの連携の“噂”に真実味があります。

アップルが日系メーカーと組む可能性は?

 ヒュンダイのほかに、例えば日系メーカーに対するアップルからのEV生産依頼の可能性はどうでしょうか。

 ここから先は、EVや自動運転の関連取材を世界各地で継続的に続けている筆者としての個人的な想像です。

 まずは、日産です。

 世界初の大量生産型EV「リーフ」を世に出し、ゴーン体制後のV字回復で「アリア」への期待が高まるなど、世界を代表するEV開発・生産の大手です。

 ただし、電池技術については、2007年にNECなどと共同設立したオートモーティブエナジーサプライを2019年に中国の環境関連企業エンビジョンに売却しているため、仮にアップルからのEV生産依頼があった場合、電池供給を含めて受注の窓口を日産で一本化できるのか、疑問が残ります。

 また、自動運転技術については、米半導体大手インテル傘下となったイスラエルのモービルアイとの連携が強く、アップル独自開発の自動運転アルゴリズムなどをどう盛り込むのかで、各方面との調整が必要になるでしょう。

 次に、ホンダは、米GM主導で中大型乗用車プラットフォーム「アルティウム」で連携しており、使用するリチウムイオン二次電池は韓国LG化学製です。アップルからのEV受託は難しいという印象です。

 そして、トヨタですが、よくよく考えてみると、アップル自動運転EVと連携する可能性はゼロではないと思えます。

 トヨタはこれまで、IT大手GAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)と個別案件で付き合いがあります。

 アップルについては、日産やホンダも同様ですが、スマホと車載器の連携システム「Apple CarPlay」を採用しており、トヨタとアップルは中立的な付き合い方に思えます。

 EVについては現時点で、中国での新エネルギー車(NEV)規制対策として、「C-HR EV」やレクサス「UX300e」、また国内での新規市場である超小型モビリティで「C+pod (シーポッド)」を投入するなど、国や地域の社会情勢に応じたピンポイントでの開発・生産をおこなっています。

 そのうえで、インド市場ではスズキ向けにトヨタが主導でEV開発をおこなうことで準備が進んでいますし、また北米市場を主体に想定していると思われるスバル向けEV開発を進めていることもスバル側から公表されています。

 こうした他メーカーと連携するという視点でのEV開発・生産に関するノウハウに加えて、自動運転開発ついてもシリコンバレー企業出身者も多いトヨタ・リサーチ・インスティテュート(及び、同アドバンスド・デベロップメント)ならば、アップルとの相性も良いように感じます。

 繰り返しますが、これはあくまでも筆者の想像です。

 そうとはいえ、周知の通り、いま「100年に一度の大変革」の真っただ中にいる自動車産業界。これから先、何が起こっても不思議ではないと思います。