バブル時代の象徴であり、誰もが憧れたフェラーリ「テスタロッサ」。フラッグシップモデルでありながら、フェラーリとしては生産台数が多かったということもあり、意外と入手しやすいプライスで流通しているが、カタログモデルにはなかったオープンモデルも存在している。

80年代カルチャーの代表「テスタロッサ」

 フェラーリ「テスタロッサ」は、近代フェラーリを代表する名作であるとともに、「ヤングタイマー」と呼ばれる1980−90年代のネオ・クラシックカーの中でも、とくにアイコニックなモデルといえるだろう。

 テスタロッサは1984年パリ・サロンにおけるデビューの瞬間からセンセーションを巻き起こして以来、この華やかな時代のカルチャーを体現するものとして、映画やドラマ、あるいは当時大流行したミュージックビデオなど、さまざまなステージを飾ってきた。

●1987 フェラーリ「テスタロッサ・スパイダー by ストラマン」

 テスタロッサは、生産過程において幾ばくかの進化は施されたものの、持ち前の未来的なオリジナルデザインは、最終型「F512M」として1996年をもって生産を終えるまで、さらには現在に至るまで、輝きを失うことはなかった。

 一方、180度V型12気筒4.9リッターのティーポF113Aエンジンと、今となっては懐かしいシフトゲートつき5速マニュアルトランスミッションの組み合わせは、ダイレクトなドライビングプレジャーと爽快な12気筒サウンドを、現代のエンスージアストにもビシビシと伝えてくる。

 そんなテスタロッサは、総計7177台が生産されたといわれるヒット作ゆえに、現在のクラシックカー・オークションにおいてもかなりの頻度で出品されている。

 しかし、クラシックカー/コレクターズカー・オークション最大手のRMサザビーズ社が2021年初の大規模オークションとして開催する「ARIZONA」オークションに出品されるテスタロッサは、この上なくスペシャルにして「アメリカンな」1台なのだ。

 アメリカでは避寒リゾート地として知られているアリゾナ州スコッツデールでは、毎年1月中旬から下旬にかけて複数の有力オークションハウスが結集し、世界のクラシックカー業界の1年を占う競売が大挙しておこなわれている。

 それは、新型コロナウイルス禍の真っただ中にある2021年も変わることなく、「ボナムズ」や「バレット・ジャクソン」、「グッディング&カンパニー」などの大手各社が、インターネットを活用したオンライン型を中心に競売をおこなうことになっているようだ。

 そんな中、RMサザビーズ社はスコッチデール市内の自動車愛好家向け会員制クラブハウス&車両ストレージ施設「OTTO CARCLUB」を会場に、COVID-19感染対策のために入場制限をおこないつつ、メインはオンラインとする大規模オークションを開催することになった。

 その多彩な出品車両たちから、まずVAGUEが注目したのは、ここで紹介するフェラーリ・テスタロッサのスパイダー仕様である。

ピニンファリーナに別注スパイダーをオーダーした人物とは?

 フェラーリ・テスタロッサについては、1960年代以来のフェラーリ製ベルリネッタの慣例を外れ、ピニンファリーナがデザインワークだけではなく、ボディ/インテリアのコーチワークまで担当していた。

 そして、オープンモデルが一時的に激減していた時代ということもあって、正規モデルのボディタイプは、クローズドの「ベルリネッタ(とくにスポーティなクーペ)」のみとされていた。

●1987 フェラーリ「テスタロッサ・スパイダー by ストラマン」

 しかし、フェラーリおよびピニンファリーナのオフィシャルとして、1台だけスパイダー版が製作されている。

 フィアット・グループの会長を長らく務めるとともに、前世紀後半のヨーロッパにおけるセレブレティの代表格としても知られた偉人。そして、数多くの特注フェラーリをピニンファリーナとともに生み出してきた「アヴォカート(弁護士)」こと故ジャンニ・アニエッリが、自身のフィアット会長就任20周年を記念して、ピニンファリーナにテスタロッサをベースとするスパイダーを特注したのだ。

 フェラーリのアーカイブによると、この記念プロジェクトは1986年2月27日にスタートされ、4か月後に完成・納車されたとのことである。

 もともと世界の憧れとなっていたテスタロッサ。しかも、さらにスペシャルなオープンモデルは、当時のアーケード版レースゲーム「SEGAアウトラン」にも登場するなど、世界で1台だけのスパイダー版は大きな反響を巻き起こすことになった。

 ただ、ピニンファリーナは公式には「一品製作」を謳いつつも、主にアヴォカートと親しい友人たちを中心とした特別な顧客の追加オーダーを受け付け、秘密裏にもう数台のスパイダーが製作されたともいわれている。

 そして、チューニングカーでも有名な「ケーニッヒ(Koenig)」、のちに独自開発のコンプリートカー生産にも乗り出す「ローレンツ&ランクル(Lorenz & Rankl)」らドイツ勢に加えて、アメリカの「ストラマン(Straman)」などのスペシャルコーチビルダーも、裕福かつ特別なクルマを熱望する顧客のために、テスタロッサのルーフを取り去ったスペシャルカスタムカーの製作に乗り出してゆく。

 RMサザビーズ「ARIZONA」オークションに出品される、ネロ(ブラック)外装/クオイオ(ナチュラルレザー色を再現したライトブラウン)内装のテスタロッサ・スパイダーも、そんなテスタロッサ・カスタムのひとつだ。1987年型のスタンダード・テスタロッサをベースに、北米ストラマン社がモディファイしたスパイダーなのだ。

米国でカスタムされた「テスタロッサ」の最低落札価格は?

 ストラマンは、カリフォルニア州コスタメサに本拠を置く有名なコーチビルダーで、オープンカーへの改装を得意としていた。同社のカスタマイズの対象はフェラーリだけでなく、例えば日本の「日産300ZX(Z31系フェアレディZ)」や「ホンダ・バラード・スポーツCR-X」などのオープン版も一定数をシリーズ製作し、1984年には日本のカーグラフィック誌に取り上げられることもあった。

●1987 フェラーリ「テスタロッサ・スパイダー by ストラマン」

 いずれのストラマン製オープンモデルも精度と品質の高さをアピールしていたようだが、とくにテスタロッサのコンバージョンについては、FRP製のリアデッキや複雑なリンクを用いたソフトトップなどを独自にデザインしている。また安全性も十分に考慮されていたこともあって、当時のオーダー主には14万ドル以上の請求書が発行されていたという。

 今回の「ARIZONA」オークションは、ストラマンが製作した12台のテスタロッサ・スパイダーのうちの1台。さらにネロ(黒)ボディの個体は2台のみといわれている。

 RMサザビーズ社の公式WEBオークションカタログの写真を見る限りでは、内外装/メカニカルパートともに美しいコンディションで、一部ながら整備記録も残されているという。

 この魅力的でユニークなテスタロッサについて、カタログでは「オープントップのスパイダーの身上であるドライビングの爽快感。アイコニックな1980年代的スタイリング。そして伊米共作の優れたコーチビルドクォリティを兼ね備えている」と謳いつつ、12万5000ドル−17万5000ドル、日本円に換算すれば約1300万円−約1815万円というエスティメート(推定落札価格)を設定している。

 もしもエスティメート上限の1800万円超えで落札されるなら、現在世界の市場に出回っているスタンダードのテスタロッサ(ベルリネッタ)たちのもっとも高い価格帯に匹敵することになる。

 この種のカスタムカーは、往々にしてスタンダードよりも安めのマーケット評価を受けがちであるが、アメリカの著名スペシャリストが手がけたハイエンドの1台に、アメリカのバイヤーたちはいかなる審判が下すのか? 実に興味深いオークションになりそうである。