2021年4月に開催された上海モーターショーで「クラウン」の名前が冠されたSUVとミニバンが登場しました。これまでの高級セダンというイメージとは大きく異なるクルマですが、クラウンを展開するトヨタは今後どのような展望を見据えているのでしょうか。

中国で登場したふたつの「クラウン」

 トヨタが誇る高級セダンとなる「クラウン」ですが、2021年4月に開催された上海モーターショー2021では、一汽トヨタからSUVの「クラウンクルーガー」とミニバンの「クラウンヴェルファイア」が相次いで発表されました。
 
 日本のユーザーからは「クラウンブランドの軽視」という声も出ていますが、今後クラウンという伝統ある車名はどうなっていくのでしょうか。

 いうまでもなく、「クラウン」はトヨタが誇る高級セダンの名です。また、クラウンは国産車のなかでももっとも長い歴史を持つクルマのひとつであり、原則としてセダンおよびセダンベースの派生車種にのみ、その名が与えられてきました。

 海を隔てた海外市場の話とはいえ、SUVやミニバンに「クラウン」の名が与えられたことに、少なからず違和感を覚えた人は多かったようです。

 2020年末には、「次期クラウンがクロスオーバー仕様になるのではないか」という報道が飛び出したことでも話題になりました。

 しかし、上海モーターショーで登場した2つの「クラウン」は、簡単にいえば「ハイランダー」と「ヴェルファイア」にクラウンバッジを付しただけのものであり、次期クラウンを示唆しているとはいい難いものです。

 中国では、原則として現地の自動車メーカーと合弁企業を設立したうえでビジネスすることが求められているため、トヨタの場合は第一汽車と合弁した「一汽トヨタ」、そして広州汽車と合弁した「広汽トヨタ」という2つのトヨタの販売会社ならびブランドが存在しています。

 クラウンクルーガーの例でいえば、本来の「ハイランダー」という名称は広汽トヨタで使用しているため、一汽トヨタ用には別の名称を与える必要がありました。

 広大な国土を持つ中国では、一般的に、上海や広州に代表される沿岸部および南部のほうが海外文化を採り入れてきた歴史的背景から革新的であり、一方、北京に代表される内陸部は比較的保守的であるといわれています。

 そうした事情から、広州を中心に沿岸部および南部に強い広汽トヨタが、グローバル名のハイランダーを使用し、内陸部に近い一汽トヨタが、日本における伝統的な名称である「クラウン」の名前を使用することにしたというのは想像に難くありません。

 歴史と伝統を重んじる中国の人々には、クラウンの「王冠エンブレム」はとても輝いて見えることでしょう。

 中国市場で「クラウン」という名称を使用することに、ビジネス上のメリットがあることは理解できる一方で、日本が誇る高級車として長い歴史を育んできた伝統ある名称を、海外で安易に使うことに抵抗がある人も少なくないでしょう。

 クラウンは、日本の自動車文化を代表する歴史的名車といっても過言ではなく、当然といえば当然です。

 トヨタとしても、そのようなネガティブな意見が生まれることは想定していたことでしょう。

 それを加味しても、ビジネス上のメリットがあるといえばそれまでですが、筆者(瓜生洋明)にはそれ以上の意味、すなわちクラウンの存続という大きな狙いがあるとも考えています。

 前述の通り、「次期クラウンのクロスオーバー化」が噂されるほど、現在ではSUVがクルマの基本になりつつあり、裏を返せばセダンの地位が弱くなっています。

 そうした背景と、後述の事情によってクラウンは非常に厳しい立場に立たされています。

 例えば、高齢化社会のなかで、クラウンユーザーの平均年齢は高止まりしており、かつてのように「いつかはクラウン」という憧れの対象とは見られなくなりつつあります。

 さらにいえば、レクサスの存在により、国産最高級セダンという立ち位置も微妙なものとなっています。

 そして、何より深刻なのが、クラウンが原則として国内専用車であるという点です。

 現在の自動車産業では、プラットフォームや各種部品を共有することで、スケールメリットを出す手法が一般的であり、細かい仕様の変更はあれど、同じクルマをできる限り多くの地域で販売したいというのがメーカー側の基本的な考えです。

 しかし、国内専用車であるクラウンの場合、日本国内市場だけでの需要で利益を得る必要があります。

 いかに利益率の高い高級車とはいえ、少子高齢化が進む日本市場の動向を見ると、中長期的には厳しい状態が続くと思われます。

 一方、販売不振を理由に、長年積み重ねてきた「クラウンブランド」を捨て去るのは得策ではありません。

 すると、クラウンが生き残るために必要なのは、日本国外でも販売できるようなモデルへと生まれ変わり、現代に即した高級車となるしかないという道筋が見えてくるのです。

 いうまでもなく、中国は世界最大の市場です。次期クラウンを、中国でも売れるクルマに仕立てられれば、クラウンブランド存続の可能性は一気に高まるでしょう。

「クラウン」の名前を使ったのは、クラウン存続のため?

 次期クラウンのクロスオーバー化という話題は、そうした流れから登場したものと考えられます。

 そのうえで、今回のクラウンクルーガーやクラウンヴェルファイアについて、改めて考察を加えると、トヨタは「クラウン」を単なるモデルの名称としてではなく、トヨタにおける高級車を表すサブブランドとして育てたいという狙いを感じます。

 ちょうど、「GR」がトヨタのスポーツモデルを表すサブブランドとなっているように、「クラウン」はトヨタの高級車(上級仕様車)を表すサブブランドとなっていくのではないでしょうか。

 数年内に登場すると予想される次期クラウンが、もし仮に中国市場を意識したグローバルモデルへと生まれ変わるのであれば、中国市場における「クラウンブランド」の中核的モデルとして大々的に登場することは間違いないでしょう。

 ブランドというのは一朝一夕に育つものでなく、確固たる戦略のうえで、莫大な時間をかけて育まれるものです。

 つまり、トヨタは「クラウンブランド」を軽視しているために中国市場でクラウンの名を用いたのではなく、「クラウン」の名前を存続させるための方策だったのだと筆者は考えています。

 そういった意味で、今回登場したふたつの「クラウン」は、将来の「クラウンブランド」戦略における重要な試金石といえるかもしれません。

※ ※ ※

 クラウンの歴代モデルのなかには、中国で販売されていたものも存在します。

 しかし、基本的には日本向けのクルマを、中国市場でも販売していたというものであり、比較的セダン人気の高い中国でも、それほど多くは売れなかったようです。

 しかし、もし筆者の狙い通り、次期クラウンがグローバルモデルとなるなら、中国をはじめとする各市場のニーズを徹底的に汲み取ってくることでしょう。

 トヨタの「お家芸」によって、クラウンが世界各地で愛されるクルマへと生まれ変わるのかどうか、楽しみで仕方ありません。