ロールス・ロイスが製作した一点モノ「ボート・テイル」には、ボヴェが製作した一点モノの時計がセットになっていた。こだわり抜いた時計の詳細を紹介する。

世界に1台のクルマに世界にひとつの時計

 ロールス・ロイスが新たに設立したスペシャルコーチビルド部門「ロールス・ロイス・コーチビルド」の第1作「ボート・テイル(BoatTail)」が2021年5月27日に発表された。そのファイシア(ダッシュパネルの上縁)中央には、完全に新規開発された「ボヴェ(Bovet)1822」製ウォッチを収めることができるホルダーが設けられていることはすでに既報したとおりだ。

 ボート・テイルの発表時には、この専用ウォッチに関する情報も、まもなく解禁となることが謳われていたのだが、このほど待望の詳報がリリースされることになった。

 自動車界における世界最高級ブランド「ロールス・ロイス モーターカーズ」、そしてスイスのマスターウォッチメーカー、「ボヴェ」こと「BOVET 1822」のコラボレーションは、R-Rボート・テイルとその注文主のために、きわめてユニークな時計のペアを生み出すことになった。

 この野心的なプロジェクトは、R-Rとボヴェに共通する卓越性や精度、ヘリテージや芸術性、そして革新とディテールへのこだわりを完全両立したことを示す壮大なデモンストレーションといえるだろう。

 世界に誇るふたつの「ハウス・オブ・ラグジュアリー」を手がけてきたデザイナーやエンジニア、職人技が結集し、デザインの起案からエンジニアリング、彫刻、ミニチュア絵画、オーダーメイドのムーヴメント、ケースが完成するまでに、控えめに見積もっても約3000時間を要したという。

 時計は女性用と男性用がペアで作られ、表側と裏側の双方にダイヤルを設けたリバーシブルスタイルとされている。女性用/男性用ともに、リバースダイヤルには車輪やドアハンドル、ミラー、そのほか「ボート・テイル」を象徴するディテールが表現された。

 まず、ロールス・ロイスとボヴェのチームの密接な協力により、この小さなアート作品に漆で表現された「ボート・テイル」と、本物の「ボート・テイル」のカラーを正確に一致させることに成功したという。また、特別に設計された18Kホワイトゴールドケースと、ボート・テイルのリアデッキと同じ「Caleidolegno」ベニアと一致するフロントダイヤルを備えており、注文主カップルの名前が刻まれることになっている。

 男性用の時計は非常に洗練されたシンプルなデザインとされたのに対して、女性用は華やかに彫刻され、ブルーの漆で満たされている。

 一方リバース側のダイヤルは、より注文主の個性を反映したものとなる。男性用は生年月日に、生まれ故郷の夜空の天体配置とアベンチュリンダイヤル。女性用は「マザー・オブ・パール」様式のダイヤルに花束の華やかなミニチュア絵画が飾られる。このデザインはBOVET 1822の伝統的なモチーフであり、オーナーが選択することでパーソナライズされるとのことである。

 そして、表側ダイヤルにはロールス・ロイスの象徴「スピリット・オブ・エクスタシー」が据えられるが、実はこれは装飾だけではなく、トゥールビヨンのメカニズムを支えるブリッジとなっているのだ。

ウォッチがクロックに! ボヴェとロールスの超絶技巧とは

 この時計の最大の特徴は、リストウォッチやペンダント、懐中時計やテーブルクロックとして使用できるだけでなく、自動車用のクロックとしてR-R「ボート・テイル」のフェイシア前面ないしは中央にセットすることができることであろう。

 自動車用クロックとしての役割を可能にするために、一般的な機械式時計の42時間から48時間ではなく、5日間という驚くべきパワーリザーブ機能が盛り込まれる。

 さらに「ウォッチ」を車両据えつけの「クロック」とするために、ボート・テイルにはBOVET 1822が特許を取得した「アマデオ」ケースが組み込まれている。驚くべきことに、このケースは時計と同レベルの精度を確保するために、トゥールビヨン機構を装備しているという。

 時計製造の世界では、複雑時計の重量が問題になることはめったにないそうだが、この場合、時計とそのホルダーには厳密な許容重量が指定されたという。そこでボヴェ技術陣は、まったく新しい44mmの18Kホワイトゴールド製ケースを作成することにより、この要件を満たしたとのこと。また、自動車には不可避的な振動による潜在的な影響を減らすために、トゥールビヨンは従来のボールベアリングではなくピボット式とされた。

 さらに時計とホルダーには、振動や熱、湿度など以外にも直面すべき問題として、安全性が立ちはだかった。衝突時に飛び出すことなどのないよう、安全性について自動車業界のスタンダードに従ったテストもおこなう必要があったのである。

 これらの課題は、時計製造や自動車製造において通常遭遇するものとは一線を画したものであろう。しかしボヴェ技術陣は、プロジェクトが立ち上がった当初からあくまでスイスの手作り生産の伝統に従って、純粋に機械的なアプローチに従うと決めていたという。

 エンジニアの革新的なソリューションは、すべてのシステムの可動部品を外部に保ち、ダッシュボードはホルダーに強固に据えつけられるスペースとするものであった。そして、ボヴェから時計とケースを引き受けたロールス・ロイス側では、ホルダーに時計が収容されていないときには、美しい彫刻と漆塗りのディスプレイプラークで覆うことができるよう設えた。

 時計の下にあるダッシュボードには、ボート・テイルのシートと同じレザーで仕立てた特別な引き出しが取り付けられており、時計やストラップ、チェーン、ペンダントを収容するためのコンパートメントとして機能することになっている。

 ボート・テイル専用に創られた専用ウォッチは、あらゆる点で「BOVET 1822」そして「ロールス・ロイス」の総力が結集された、真のマスターピースとみて間違いあるまい。