クルマの外観は販売台数を左右する重要な要素のひとつですが、見た目だけでなく機能的にも優れたデザインのモデルもあります。その機能のひとつが空力性能で、走行性能や燃費にも影響。そこで、とくに空力性能を重視した国産車を、3車種ピックアップして紹介します。

空力性能の向上を目指したクルマを振り返る

 クルマの見た目はそのクルマのキャラクターを如実に表わすものですが、機能的に優れたデザインのモデルもあります。

 なかでもスポーツカーやスーパーカーはスピーディに見えるだけでなく、空力性能を重視したボディ形状とすることで、走行性能を高めている代表的な例です。

 空力とは「空気力学」の略で、クルマは常に空気による影響を受けているため、その影響を軽減したり味方にすることによって空力性能の向上につながります。

 とくに市販車では空気抵抗や車体の浮き上がりを抑えることで、高速安定性や燃費を向上させることが可能なことから、かつて空力性能はクルマのアピールポイントとして使われました。

 そこで、空力性能を重視した往年の国産車を、3車種ピックアップして紹介します。

●トヨタ「スポーツ800」

 トヨタのスポーツカーの歴史を語るうえで代表的な存在といえば、1967年に誕生した「2000GT」が挙げられますが、実は2000GTに先駆けて誕生したスポーツカーが「スポーツ800」です。

 1965年に発売されたスポーツ800は、1962年の全日本自動車ショウ(現在の東京モーターショーの前身)に出展され、好評を博したコンセプトカーの「パブリカスポーツ」をベースにデザインされました。

 パブリカスポーツは、戦闘機のようにキャビン上部が前後にスライドするキャノピー構造となっており、その名のとおり大衆車の「パブリカ」をベースに開発。

 市販モデルのスポーツ800もパブリカのプラットフォームやパワートレインをベースとしており、一般的なヒンジドアに改められ、ルーフは取り外し可能なタルガトップを採用しました。

 ボディサイズは全長3580mm×全幅1465mm×全高1175mmと、現在の軽自動車とほぼ同サイズのコンパクトさで、ボディ外板は風洞実験を繰り返したほど空力性能を重視した結果、ほぼすべて曲面で構成されています。

 エンジンはパブリカに搭載された800cc空冷水平対向2気筒OHVをベースにチューンナップされ、最高出力45馬力(グロス)を発揮。

 数値的には非力といえますがアルミ製部品を各所に使用するなど、わずか580kgという軽量な車体を実現し、空気抵抗を低減したことから最高速度は155km/h、定地燃費は31km/Lと、優れた走行性能と燃費を達成しています。

 実際にトヨタが示したスポーツ800のコンセプトは、パワーよりも軽量化と空抵抵抗の削減によって出力以上の性能を引き出すというもので、大衆車ベースのスポーツカーならではといえるでしょう。

●スバル「アルシオーネ」

 昭和の時代、スバルの登録車というとセダンとステーションワゴンをメインとした「レオーネ」が主力車種でしたが、1985年に同社初の本格的なスペシャリティカー「アルシオーネ」が誕生しました。

 アルシオーネは、グローバルでの販売を目論んだスタイリッシュな2ドアクーペとして開発。外観は直線基調のシャープなウェッジシェイプのフォルムで、スバル車としては最初で最後となるリトラクタブルヘッドライトを採用しています。

 このリトラクタブルヘッドライトは当時の流行でしたが、アルシオーネの場合は高速性能向上を目指して空気抵抗を極限まで抑えるためにリトラクタブルヘッドライトが必要でした。

 ほかにもフラッシュサーフェイス化された各ウインドウとドアノブ、空気の乱流を抑えたドアミラー形状、後端をわずかに跳ね上げたトランクリッドなど、さまざまな箇所に空力性能向上の施策が図られています。

 その結果、空気抵抗係数であるCd値は0.29と、日本車で初めて0.3を下回る数値を達成。

 また、斬新なデザインは外装だけでなく内装にもおよび、メーターパネルの周辺やシフトノブなど、飛行機のコクピットをモチーフとしています。

 駆動方式はFFとAWDが設定され、エンジンは当初1.8リッター水平対向4気筒SOHCターボのみでしたが、後に2.7リッター水平対向6気筒自然吸気エンジン車「アルシオーネ2.7VX」を追加ラインナップ。

 ほかにも車速感応式パワーステアリングやエアサスペンション(グレード別に設定)が採用されるなど、メカニズム的にも新技術が取り入れられた意欲作といえました。

●ホンダ「インサイト」

 トヨタは1997年に世界初の量産ハイブリッド車、初代「プリウス」を発売。同クラスのおよそ半分の燃料消費量となる驚異的な低燃費を実現したことで、エコカーの概念を変えた歴史に残る名車といえます。

 この初代プリウスに対抗するために各社ともハイブリッド車を開発。ホンダは1999年にハイブリッド専用車の初代「インサイト」を発売しました。

 シャシは「NSX」に続いてアルミ製モノコックを採用し、ボディ外板にもアルミ製とプラスチック製パネルを導入。さらに室内は2シーターとすることで、車重はわずか820kg(MT車)と超軽量です。

 また、外観デザインはスポーツカーと同類のウェッジシェイプとし、リアタイヤまわりをスパッツで覆うなどの処理によって、Cd値は当時としては驚異的な0.25を実現しました。

 これら軽量化と空力性能の向上に加え、70馬力を発揮する1リッター直列3気筒エンジンに、13馬力のアシスト用モーターを組み合わせた新開発のハイブリッドパワーユニットによって、燃費はプリウスを上まわり、量産車で世界最高となる35km/L(10・15モード)を達成。

 インサイトはその後もプリウスと燃費競争を繰り広げて改良されましたが、2シーター車では実用的に不利で、販売台数はプリウスを凌駕することができず、2006年に生産を終了。

 その後、2009年にプリウスと似たフォルムの5ドアハッチバックとして2代目インサイトが登場し、実用性が一気に向上してヒット車になりました。

※ ※ ※

 アルシオーネとインサイトは優れたCd値を目指して開発されましたが、現行モデルでは4代目「プリウス」が0.24、メルセデス・ベンツ「Aクラスセダン」は0.22と、驚異的な数値を達成しています。

 これもひとえにシミュレーションや解析技術の進化によるものといえるでしょう。

 昔ならば優れたCd値は大々的にアピールされましたが、昨今は具体的な燃費性能や静粛性、走行安定性向上の手段のひとつとして捉えられており、Cd値を耳にする機会もだいぶ減ってしまいました。