ポルシェには、「ルーフ」や「シンガー」を筆頭にカスタムを受け入れる文化がありますが、1950年代には「グルックナー」というスペシャリストがありました。ポルシェだけどポルシェっぽくない「356」を紹介します。

希少価値がアップ! グルックナーが手がけたポルシェとは

 2021年のモントレー・カー・ウィークでは、予想どおりにメジャー・オークショネアを始め、さまざまな会社がオークションを主催した。そのなかでもとくに面白い1台と感じたのは、RMサザビーズが持ち込んだ1954年製のポルシェ「356カレラ1500クーペ」だ。

 なぜならその個体は、これまでに見たことのない独特なスタイルの356だったからだ。もちろんこのモデルも、S/N(シャシナンバー):12213を持つ正式なポルシェであり、その成り立ちが普通の356とはやや異なるだけの話である。

●グルックナーと名のつくポルシェとは

 当時のポルシェは、現在の姿から想像するよりもはるかに小規模で、量産車の販売とモータースポーツ活動のすべてを自社でオーガナイズできる資金的な余裕のある会社ではなかった。そこで必要になったのが外部のスペシャリストの協力だったわけだ。

 この356カレラ1500クーペを製作したフランクフルトのグルックナー社もそのひとつだった。バルター・グルックナーによって率いられたディーラーだった同社は、エンジニアのヘルマン・ラメロウとともに、第二次世界大戦終了後からはレーシングカーの生産にも進出した。

 その技術力の高さはポルシェも認めるところであり、1953年には後のポルシェ「550スパイダー」の原案ともなるポルシェ「1500スーパー」、そしてこの1954年式ポルシェ356カレラ1500クーペを、いずれもグルックナーの名を車名に掲げてデビューさせるに至っている。

 ちなみにグルックナーから生み出されたポルシェで、356カレラ1500クーペは唯一のクーペボディとなる。

 グルックナー・ポルシェ356カレラ1500クーペのスタイルがとりわけ個性的なものに見えるのは、垂直に切り立ったヘッドランプとテールレンズによるものだろう。

 左右のドアはコンパクトな設計だが、ルーフは乗降性を考えて別にカットされているので、ヘルメットを装着したドライバーでも容易に乗り降りが可能だったという。

 1954年のミッレミリアを目標に、開発と製作が続けられたモデルだったが、残念ながらミッレミリアに出場するためのタイムリミットには間に合わなかった。

 だがその後のリザルトは非常に魅力的なもので、それもまたオークション・シーンにおいては十分なプラス材料になっている。

 2005年には車体、メカニズムのすべてにわたるレストアが実施され、エンジンも550スパイダーの1.5リッター水平対向4気筒が移植された。

 75万ドルから100万ドル(邦貨換算約8200万から1億1000万円)というエスティメートがつけられていたが、今回のペブルビーチ・オークションでは、残念ながら最低落札価格に届かずに流札となってしまった。

 だがいつの日か、その姿をサーキットやコンクールの会場で見かけることを大いに期待したいと思う。