フェラーリのエントリーモデルは現在、「ポルトフィーノM」と姉妹車「ローマ」の2台が存在します。そこで疑問なのが、姉妹車ゆえに両車の差異がはっきりとわからないこと。今回は実際にポルトフィーノMに試乗して、ローマとの違いやV8 FRモデルの魅力にフォーカスしてみました。

存続する確率は低、貴重なV8のFRフェラーリ

 マラネッロがブランド入門用として8気筒エンジンをフロントに積んだリトラクタブルハードトップ(RHT)の2+2FRモデルをラインナップしたのは、2008年のことだった。

 1950年代の名馬から「カリフォルニア」という名を拝借するほどの力の入れようで、RHTとしたのも、そして狭いながらも+2としたのも、その門戸を広く開放するための戦略であった。

 要するにメルセデスベンツ「SLクラス」のAMGモデルやポルシェ「911ターボカブリオレ」あたりを好んで乗る層をターゲットにしていたのである。

 事実、発売当初には購入者のざっと7割がフェラーリにとっての新規ユーザーで、その実用性の高さとフェラーリのGTカーらしい性能で人気を集めたものだった。

 当初は自然吸気エンジンだったが、2014年には「カリフォルニアT」へとマイナーチェンジ、ダウンサイジングターボを積み、パフォーマンスも劇的に向上する。

 カリフォルニアの系譜に連なる後継モデルが「ポルトフィーノ」で2017年のデビュー。V8ターボをフロントに積むリア駆動の2+2RHTモデル、という基本のコンセプトこそ変わらないものの、デザインはもちろんシャシも一新され、パワートレインも大幅に進化するなど、もはやブランド入門用というレッテルが似合わないほどに優れたGTカーとなっていた。

 そんなポルトフィーノもまた2020年にマイナーチェンジ。「ポルトフィーノM(モディフィカータ)」へと進化する。カリフォルニアのモデル周期を思い出すとちょっと早い気もするが、おそらく今後の電動化への道のりを逆算してちょっと早めのマイナーチェンジになった。

 そう、フェラーリの電動化プランが今、徐々に明らかになりつつある。量産モデルのトップ・オブ・レンジに新たに据えられたモデルは、伝統の12気筒モデルではなくV8ミドシップ+プラグインハイブリッド4WDシステムの「SF90」シリーズであり、また、主力シリーズの事実上の後継モデルとしてV6ミドシップ+プラグインハイブリッドRWDシステムの「296GTB」が登場している。

●最後のV8搭載FRになるか

 こうなってくるとポルトフィーノの次世代が8気筒を素直に積んでくるとは思えない。おそらく噂の「FUV(フェラーリSUV)」とパワートレインを共有する6気筒プラグインハイブリッドになるのではないか。もしそうなれば、このポルトフィーノMは貴重な最後のV8FRということになるのだが……。

 もっとも今現在は、そんなV8 FRモデルが2種類あって、とても悩ましい。一昨年に「ローマ」という、とにかく見栄え麗しいモデルが追加されたからだ。ローマはクーペのみで、インテリアのデジタル化が進んでおり、シャシ周りのセッティングも異なるけれど、その中身はポルトフィーノMとほとんど同じ。

 いずれも620psを発揮する3.9リッターのV8ツインターボを積み、8速DCTと組み合わせている。車両価格はローマの方が60万円ほど安いが、オーバー2500万円のクルマでその程度の差は誤差というものだろう。

ポルトフィーノMはGT性能で際立っていた

 普通に考えるとクーペにもオープンにもなるポルトフィーノMのほうが随分とお買い得に見えてくるのだが、実際にはローマのスタイルが好きという人も多く、そこが悩ましい事態というわけだ。ローマにソフトトップモデルでも登場すれば話はまた別、というか一層ややこしくなりそうだけれども、それはさておき。

 ポルトフィーノMの試乗会が開かれるというので併せてローマも借り出し、乗り比べてみることに。前述したようにローマとポルトフィーノMとではアシまわりのセッティングが少し違う。ポルトフィーノMのほうが重心高はわずかに高く、重量も少し重いためリアの足回りが少しだけ硬い。逆にローマのフロントスタビライザーはポルトフィーノMより少し硬くなっているという。

 前後重量バランスもポルトフィーノMの方が2%ほどリア寄りの設計だ。もちろんハードルーフの開閉によってバランスは変化する。要するにローマのアシの方がスポーティなセッティングになっているというわけだ。

 結論からいうと、マラネッロが違うと主張するほどには両車の乗り味に差はなかった。とくに同じ“クーペ”同士として比較した場合、いずれもニンブルなハンドリングを特徴とするFRスポーツカーだった。ドライブモード選択によって味付けが変わるとはいうものの、基本的な乗り味は同じ。街乗り(時速60km/h以下)ではフロントアクスルが特にゴツゴツとした印象で、お世辞にも乗り心地が良いとはいえない。それでも高速域に入ってくるとフラットで心地よいライドフィールに転じる。

 力強く、そして細かく調律されたV8のエンジンサウンドも両車に共通する魅力だろう。ツインターボエンジンでありながら大排気量自然吸気のようにきれいに吹け上がる。中間加速のパワフルさは流石にツインターボだ。

 8速DCTとの相性も抜群。さらに強力なブレーキ性能によって減速もまた楽しい。ブランド入門モデルとはいえ、そこは跳ね馬、パフォーマンスはスポーツカー界随一である。性能で中古のミドシップフェラーリに負けることなどないはずだ。

●スタイリングは「ローマ」、ファーストカーなら「ポルトフィーノM」

 感心したのは、ポルトフィーノMをオープンにして走らせた時の中低速域における乗り心地の良さだった。クーペ状態やローマに比べると、ルーフを開放することで強いボディも少しは緩むというわけだろう。肩の力を抜いたような印象で、路面からのショックを上手にいなす。

 その乗り味は、ポルトフィーノMはもちろん、ローマのシンプルビューティなスタイルに合わせたいくらい。「この乗り味のローマがあれば最高」というのは、おそらく、2台を同時に試したフェラーリファンに共通する結論ではなかったか。だからこそローマのソフトトップ版が出ると嬉しいのだけれど……。

 今このタイミングでどちらを選ぶか。スタイリングだけを考えれば断然ローマがいい。けれどもファーストカーとして考えた場合、オープン時のマイルドな乗り味と、V8サウンドを直に浴びることのできるポルトフィーノMか。フェラーリ製V8エンジンサウンドを楽しむ機会だってこの先減ってきそうだし。