2021年10月の軽自動車ランキングでは、スズキ「ワゴンR」が1位を獲得しましたが、これはスライドドア車の「ワゴンRスマイル」を加えたことにあります。スライドドアはなぜ人気なのでしょうか。

なぜスズキ「ワゴンR」が軽ランキング1位に躍り出た?

 2021年10月の国内販売状況を見ると、対前年比が31%の減少となりました。これは、半導体を筆頭に、ワイヤーハーネスなどさまざまなパーツの供給が滞り、車両の生産に影響を与えているからです。

 この状況で、2021年10月における車種別の販売ランキングにも異変が生じました。軽自動車の販売ランキングで長きにわたって1位に君臨していたホンダ「N-BOX」に代わり、スズキ「ワゴンR」が1位になったのです。

 なお、2位は日産「ルークス」、3位はN-BOX、4位はスズキ「スペーシア」と続きます。

 ちなみに2021年の6月と7月は、ワゴンRの順位は軽自動車のなかでも12位でした。それが9月に3位になり、10月は1位まで浮上しています。

 前述のように現在は車両の生産が滞っているため販売ランキング順位も通常とは異なるのですが、ワゴンRが軽自動車の1位になったのは注目されることでしょう。

 ワゴンRの売れ行きが急増した理由は、「ワゴンRスマイル」を加えたことにあります。

 ワゴンRスマイルは2021年8月に発表され、9月に納車を開始。全国軽自動車協会連合会が公表する販売データでは、ワゴンRスマイルの届け出台数はワゴンRに含まれ、売れ行きを急増させました。

 ワゴンRスマイルは全高が1700mm以下の軽自動車ですが、1785mmに達するスペーシアと同様、後席側にスライドドアを装着しているのが特徴。ワゴンRに準じた全高でスライドドアを装着することから「ワゴンRスマイル」を名乗っています。

 同じような軽自動車に、2016年に発売されたダイハツ「ムーヴキャンバス」もあります。全高は1655mmとやや低めに設定され、1755mm(2WD)のタントのように後席側のドアをスライド式にしました。

 そしてムーヴキャンバスの届け出台数は「ムーヴ」に含まれ、ムーヴ全体の約60%を占めています。

 以前はスライドドアを備える軽自動車としては、N-BOX、スペーシア、タントといった全高が1700mmを超える車種が好調に販売されていましたが、そこに全高が1700mm以下のムーヴキャンバスやワゴンRスマイルも加わって人気を得ています。

 なぜスライドドア車がそこまで人気を高めたのでしょうか。背景には3つの理由があります。

 1つ目の理由は単純に使いやすいということです。スライドドアは開閉時にドアパネルが外側へ張り出さないから、狭い駐車場で隣のクルマにドアをぶつける心配がなく、子供が乗り降りするときの安心感にも繋がります。

 またスライドドアは間口が広いので、たとえば雨の日にベビーカーを持ったまま車内に入り、スライドドアを閉めた後で子供をチャイルドシートに座らせるという作業をおこなえます。

 さらに、スイッチ操作で開閉できる電動スライド機能を備えた車種も多く、子供を抱えたり両手で荷物を持ちながら乗り降りするときにも便利です。このようにスライドドアは、とくに子育て世代のユーザーにとって使いやすいといえます。

 スライドドアを装着したクルマが高い人気を得ている2つ目の理由は、子育てをしているときにミニバンでスライドドアの利便性を知ったユーザーは、子供が成長してもスライドドアを備えた車種を選ぶ傾向が強いことです。

 この点についてワゴンRスマイルの開発者は、次のように述べています。

「スライドドアは、乗員の乗り降りに加えて、後席に荷物を置くときも便利です。電動スライドドアを備えていれば、右側を開いて荷物を入れた後、電動で閉めている間に運転席に着座でき、そうすれば買い物に出かけたときの動作もスムーズになります。

 スライドドアにはいろいろなメリットがあり、ワゴンRのお客さまにアンケート調査をしたところ、約40%がスライドドアの装着を希望されました。スライドドアは子育て世代以外のニーズも高いので、ワゴンRスマイルを開発しました」

少子高齢化でも依然としてミニバンの人気が高い

 スライドドアが人気を得ている3つ目の理由は、いまでは30歳以下の比較的若いユーザーが、幼い頃からスライドドアに親しんで育ったことがあげられます。

 たとえばホンダ初代「ステップワゴン」は1996年に発売されていますが、スライドドアを備えたミニバンは1990年代の中盤から急速に普及しました。

 そのために1990年以降に生まれた世代には、ミニバンを使い慣れているユーザーが多く、スライドドアは横開き式のヒンジドアよりも乗り降りがしやすいといった機能以前の話として、スライドドアの装着が当たり前になっているのです。

 このようなユーザーは、2列と3列シート、あるいは軽自動車と小型/普通車を問わず、さまざまなカテゴリーでスライドドアを備えたクルマを求めます。

 そこで国内市場を重視する軽自動車では、いろいろな全高の車種にスライドドア装着車を用意。スペーシアやタントのような広い室内はいらないけれど、スライドドアは欲しいというユーザーが増えたからです。

 小型車でもトヨタ「ルーミー」は、発売から5年を経過しながら販売は絶好調です。全長が3700mm(標準ボディ)のコンパクトカーですが、全高は1735mmと高く、後席側のドアはスライド式を採用しています。

 トヨタの販売店によると「子育てを終えたお客さまが『ヴォクシー』のようなミニバンからダウンサイジングしたり、逆に『ヴィッツ』のお客さまに子供ができて、背の高いルーミーに乗り替えることもある」といいます。

 このほかコンパクトミニバンのホンダ「フリード」やトヨタ「シエンタ」、ラージサイズミニバンのトヨタ「アルファード」なども売れ行きが好調で、販売ランキングの上位には、依然としてミニバンを始めとするスライドドア装着車が多いです。

 以前は「少子高齢化になるからミニバンの売れ行きも下がる」といわれ、トヨタは「エスティマ」や「アイシス」などを廃止しましたが、実際にはミニバン人気はあまり衰えていません。

 子育て世代以外も便利に使え、その利便性の中核にあるのがスライドドアだから、装着する車種が増えているのです。

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 スライドドアを装着するにはスライドレールが必要なので、一般的に開口部の上下寸法を十分に確保するに全高を1600mm以上に設定する必要があります。

 また、スライドレールには大きな傾斜を付けられないので、ボディスタイルも水平基調になり、車両重量は50kg程度重くなります。

 このように、スライドドアの装着はクルマ造りに制約を課す面もあるものの、売れ行きを伸ばす効果も大きいのです。

 今後も既存の車種のフルモデルチェンジを含めて、スライドドアを備えた新型車が続々と投入されることでしょう。