昨今、さまざまなEVが登場しています。なかでも日本で「45万円EV」としても知られる「宏光MINI EV」。名古屋で隅から隅までバラしてるイベントが開催されたといいます。

全世界で2番目に売れている電気自動車

 昨今、さまざまなメディアで話題となっている中国の「45万円EV」。
 
 正式名称を上汽通用五菱 宏光MINI EVといい、その宏光MINI EVを実際に分解し、どのような技術が用いられているのかを調べてみるイベントが2021年10月14日に名古屋大学でおこなわれました。

 宏光MINI EVは、2020年8月に発表された超小型EVです。

 宏光という名前を聞くと今はこの格安小型EVを連想する人が多いかもしれませんが、本来は上汽通用五菱が展開するガソリンエンジン搭載の普通小型ミニバンのラインナップを指します。

 2020年8月に販売開始となり、2020年の累計販売台数は4か月強で11万9255台を記録。

 中国市場のみならず、全世界でもテスラ「モデル3」に次いで2番目に多く売れた電気自動車となりました。

 さらに2021年10月には中国国内で4万7834台を販売し、宏光MINI EVの月間販売台数記録を大幅に更新。

 2021年は1-10月までの累計販売台数は約32万3100台を記録し、登場以来中国でもっとも売れている電気自動車の称号を保持し続けています。

 人気が高い主たる理由には価格の安さにあります。3つのグレードが用意され、それぞれ2万8800元(約46万5000円)、3万2800元(約53万円)、3万8800元(約62万7000円)。

 これはライバルとなる超小型EVの宝駿「E100」(4万9800元〜/約82万円〜)、チェリー「eQ1」(5万9800元〜/約99万円〜)、欧拉「黒猫」(6万9800元〜/約116万円)などよりも安く設定された価格です。

 宏光MINI EVを製造・販売する上汽通用五菱は上海汽車とアメリカのゼネラルモータース(中国語名:通用汽車)などが設立した合弁会社です。

 2021年4月に配送大手の佐川急便が導入を発表したEVの生産のみを担当する「柳州五菱汽車」とは協力関係はあるものの、厳密には別法人となります。

 その45万円という超低価格が話題を呼び、2021年6月には公道走行が不可能なものの、実際に日本へ輸入され、一般社団法人 日本能率協会が主催する「TECHNO-FRONTIER 2021」というイベントに出展されました。

 小さな電子部品が集まって作られる究極の完成体が電気自動車ということと、イベントのターゲットである日本のエンジニアに中国でもっとも売れている小型EVを見てもらうことで、何かのインスピレーションに繋がればという想いのもとに実現した企画です。

 同イベントの終了後、名古屋大学の山本真義教授率いるパワーエレクトロニクス研究室にて夏の間展示され、その後、国内の某自動車用電装部品メーカーなどに研究目的で貸与されました。

 そして今回、同大学にて宏光MIN IEVを分解し、外からは見えない中身の実情を知る目的で「分解大会」の開催となったのです。

 会場は、このEVが展示されていた名古屋大学エネルギー変換エレクトロニクス研究館(C-TECs)。

 当日は、関係者を含めて約100名が分解大会を見学するために足を運び、お互い意見交換をおこいながら車両の分解が進められていきました。

 当日は取材目的の報道関係者は参加不可でしたので、筆者は「ただの中国車が好きな普通の日本人」として参加しました。

 ほかにも国内の大手モータ製造会社や、自動車用電装部品製造会社、変速機製造会社、トランジスタ製造会社など、さまざまな自動車関連企業、および電子部品関連企業の社員が参加していました。

 なかには愛知県内の国産新車ディーラーに勤める整備士も、個人的な興味で見学に来たと話していました。

分解イベント、どのようにしておこなわれたのか?

 分解整備の知識を持った参加者たちは各々自前の工具を持ってきており、車両の分解は予想よりも早いペースで進められます。

 まずはボンネットが取り外され、車両前部に搭載されているバッテリーを充電するためのオンボードチャージャー(OBC)やDC-DCコンバータが取り外されました。

 続いて、電装関係用の12Vバッテリー、フロントバンパー、車両接近警報装置、エアコン用コンプレッサが次々と車体より離されていき、みるみるうちにフロントはフレームのみが残された状態へと変わっていきます。

 次におこなわれたのは駆動用部品の取り外しです。

 ジャッキアップをおこない、モータやバッテリー、差動装置(デフ)の上に位置するインバータが取り外されたのち、各種電子部品関連企業の社員たちによってそれぞれの部品の分解が同時並行でおこなわれました。

 分解に関わった参加者によれば、インバータなどの部品は非常に効率よく回路が設計されており、そこからもその高い技術力が見て取れたといいます。

 外装と駆動関連の分解だけではありません。内装は某自動車メーカーのディーラー整備士、そして名古屋大学体育会自動車部の部員などの手によって外されていきました。

 ダッシュボード、内装パネル、ディスプレイなどはどれもしっかりと作られており、このパートはこの分解大会で筆者がもっとも驚いた部分でもあります。

 分解を担当したディーラー整備士も、「自社で販売している自動車に引けを取らないクオリティの高さで驚きました」と称賛していたのがとても印象的でした。

 また、車体のサブフレームがパイプフレームのような構造になっていることにも注目です。

 パイプフレームを用いることで、剛性の向上および車体の軽量化が可能となりますが、それがこのような量産品の超小型EVに使われていました。

 今回の分解大会で、この宏光MINI EVがなぜこの低価格を実現しながらも、クオリティを落とさない作りになっているかがよくわかりました。

 一言でいえば、「割り切りの良さ」がカギとなっていたわけです。

 その車両を構成する要素を単に妥協してコストカットするのではなく、不要な部分は不要と割り切って取り除くことで、必要最低限の要素に注力した作りが実現できたことになります。

 航続距離170 km(下のグレードでは120 km)、大人4人が乗れるキャビンの広さで、必要であればISOFIX対応のチャイルドシートをリアシートに装着したり、リアシートを倒したりして荷物をより積めるようにも出来ます。

 それでいて、日本円にして約46万円の超低価格を実現するための開発努力も惜しまない。その設計思想が垣間見えた分解大会でした。

 分解イベントを開催した名古屋大学 未来材料・システム研究所の山本真義教授は以下のように話します。

「テスラ・モデル3は我が国にとって“黒船”と呼ばれていますが、この中国製超低価格EVは“赤船”として、電機業界、半導体業界、自動車業界に大きなインパクトを与えることが予想されます。

 この赤船を実際に分解し、今の中国の電気自動車の最前線を学ぶことで危機感を共有しようという趣旨で今回のイベントを企画しました。

 今後は各種部品を国内でそれぞれの部品の製造を得意とする製造会社が持ち帰り、分析、その結果を、一般社団法人 日本能率協会が主催するセミナーにて共有することとしています」

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 なお、セミナーは2021年11月30日に愛知県名古屋市のAP名古屋にて開催され、同年12月14日にはオンライン開催も予定されています。