2021年、日本の自動車業界を振り返ったとき、中国の自動車ブランドである「紅旗」が日本に進出したことは重要なトピックのひとつといえます。着実に力をつけつつある中国の自動車産業ですが、紅旗に続いて日本進出するブランドはあるのでしょうか。

中国メーカーが日本初進出も、ターゲットは日本人ではない?

 2021年12月、中国の高級車ブランドである「紅旗」が、大阪に日本初となるショールームをオープンしました。
 
 着実に力をつけつつある中国の自動車産業ですが、紅旗に続いて日本進出するブランドはあるのでしょうか。

 中国の自動車ブランドが日本に進出するのは前代未聞のことですが、過去10年にわたって中国の自動車産業を取材してきた筆者(PeacockBlue K.K. 瓜生洋明)にとっては、「ついに来たか…」というのが正直な感想です。

 紅旗は、中国の主要自動車メーカーのひとつである第一汽車の高級車ブランドです。

 もともと、中国政府の要人のためのクルマとして開発されたという経緯があることから、中国人にとっては特別なブランドといえます。

 ただ、日本は国内に優れた自動車メーカーが多く存在し、さらに欧米のほとんどの自動車メーカーが日本に進出しているため、新車販売に関していえば、世界でもっとも選択肢の多い国のひとつです。

 そんななかで、中国の自動車メーカーに勝機はあるのでしょうか。もちろん、多くの人にとっては無縁のクルマであることは間違いないでしょう。

 紅旗が日本に導入する「H9」は700万円から1000万円クラスの高級車であり、たとえ興味があったとしても簡単に手を出せるものではありません。

 2022年内にはミドルクラスのセダンやSUVも導入されるといいますが、日本車や欧州車と真剣に比較検討するユーザーは少ないと思われます。

 しかし、日本に在住する中国人は75万人以上とされており、今後も増加傾向が予想されています。

 仮に、75万人のうちの0.1%が紅旗のクルマを購入したとすると、その販売台数は750台となりますが、この数字は欧米の高級車ブランドに匹敵する規模です。

 ただ、紅旗としても、日本で大量に販売することは考えていないでしょう。

 ましてや、日本車や欧州車と互角にわたりあえるなどとは思っていないはずです。

 そのため大使館や領事館などの政府関係者や、中国系企業の役員などに販売することがひとまずの目標であると考えられます。

 つまり、紅旗の日本進出は、どちらかといえば在日中国人に向けたものであり、日本人に対して積極的にアピールしているわけではありません。

 むしろ注目すべきは、紅旗以外の中国車ブランドが今後日本に進出してくるかどうかです。

 もし、国産車と真っ向勝負するようなクルマが中国ブランドから登場すれば、それは日本の自動車産業にとっては脅威といわざるを得ません。

 ただ、中国の大衆車ブランドが日本に進出してくる可能性は低いでしょう。

 中国の自動車産業がここ10年で大きく進歩し、品質やデザインの向上していることは事実ですが、すでに世界最高レベルの品質を誇っている日本車と勝負するのは無謀です。

「中国製品は安い」というイメージがあるユーザーも多いかもしれませんが、近年では中国における製造コストは決して低くはないため、日本の安全基準を満たすクルマであれば日本車に比べて圧倒的に低価格となることもないと考えられます。

 しかし、電気自動車(EV)に関しては話が異なります。電動化が進む昨今の自動車産業ですが、それをけん引しているのが中国です。

 政府の強力なバックアップも手伝って、中国都市部ではEVの普及が進み、それ同時に、世界中の自動車メーカーが中国向けEVを開発、販売しています。

注目すべきはどこか? 世界が注目するNIOとは

 さらに、中国発のEVベンチャーも多く誕生しています。すべてが順調というわけではありませんが、2014年に創業した「NIO」は2018年にはニューヨーク証券取引所に上場し、2021年末時点の時価総額は5兆円を超えるなど、ホンダに匹敵するレベルとなっています。

 筆者は、このNIOこそが次に日本に進出してくる中国車ブランドであると考えています。

 2021年、NIOはすでにノルウェーへの進出を果たしており、近い将来ドイツなどの欧州諸国へも展開することを明らかにしています。

 NIOが当初から世界展開を考えていたことは明らかですが、欧州諸国への展開が進めばその後は日本への進出の可能性は十分に考えられます。

 2018年に上海でNIOのフラッグシップSUV「ES8」に試乗した筆者ですが、短い時間ではあったもののハードウェアのよさを存分に実感することができました。

 実は、筆者はその時点で、このクルマの個人輸入を考えていました。

 日本で販売されていないクルマを並行輸入する際にもっとも大きなハードルとなるのが排ガス規制ですが、EVはそもそも排ガスを出さないためその手間が省けるというメリットがあります。

 また、安全性についても、世界展開を前提にしていることから日本の基準に照らし合わせてもまったく問題ないと考えました。

 そうなると、車両購入費用以外で必要なのはせいぜい輸送費程度ですが、上海と日本は物理的に近いため、それほど大きな負担にはなりません。

 NIOの購入はアプリを通じておこなうのですが、購入の際には中国の携帯電話番号が必要であるなど、実際には多くの手間があります。

 また、その後のコロナ禍の影響で中国への渡航が制限されていることなどもありこの計画は頓挫してしまっています。

 しかし、NIOはクルマとして十分なクオリティにあることは間違いないと感じています。

 ただ、クルマは性能や機能はもちろん、安心や安全も大きな要素であるのも事実です。

 中国ブランドのクルマに安心感を覚えることができるかどうかは、ユーザー側の心理の問題であり、理屈でどうにかできるものではありません。

 NIOに限らず、今後中国の自動車メーカーが日本進出を検討する際、課題となるのが、中国製品に対する、ひいては中国という国に対する信頼感であることは間違いありません。

 こうしたイメージは一朝一夕に築かれたものではないため、それを打破するのは決して簡単ではありません。

 それでも、優れた製品を安定して供給し続ければ、自然とイメージは変わっていくことでしょう。

 とくに、EVのような先進的なものであれば、筆者のように、リスクは承知しつつも興味はあるというユーザーは少なくないと考えられます。

 そういった意味でも、次に日本に進出してくる中国車メーカーがあるとするなら、それは世界展開を視野に急成長を遂げている、新興EVメーカーのNIOにほかならないと考えます。

※ ※ ※

 2021年12月に開催されて「NIO Day」というイベントで、NIOは2025年までに25の国や地域へ進出する予定であることを発表しました。

 その際のプレゼンテーション資料を見ると、日本への進出が示唆されていることがわかります。

 もし2025年にNIOが日本進出を果たしたとしたら、そのとき日本の自動車メーカーはどのようなモデルで立ち向かうのか、期待せずにはいられません。