トヨタ「ミライ」のように燃料電池で走るクルマがありますが、同じように燃料電池の電動アシスト自転車を山梨大学などが開発しました。一体どのような目的があるのでしょうか。

国産の燃料電池を使って製品化を目指す

 2022年のスーパー耐久は、トヨタが「水素カローラ」とカーボンニュートラル燃料を使う1.4リッターターボの「GR86」、スバルが同じくカーボンニュートラル燃料を使う水平対向エンジンの「BRZ」、日産は発売前の新型「Z」にカーボンニュートラル燃料、そしてマツダが次世代バイオディーゼル燃料搭載の「マツダ2」ベースのコンセプトモデルなど、ジェントルマンドライバーたちの戦いに混じって、メーカー各社が次世代技術の開発を一般公開しながら進めるという、自動車産業界全体にとって貴重な場になっています。

 それに関連して、レース会場内には来場者が次世代燃料車やその技術に気軽に触れ合うことができる展示スペースが毎戦で設けられています。

 シリーズ第3戦となる「SUGOスーパー耐久3時間レース」(2022年7月9から10日/スポーツランドSUGO)では、水素で走るトヨタ「カローラクロス」や次世代バイオディーゼルのマツダ「CX-5」、そしてトヨタ「MIRAI」から給電する仕組みの紹介に加えて、家族で学べる水素に関するコーナーが人気を集めていました。

 そんななか、水素燃料普及のための展示ブースに「燃料電池電動アシスト自転車」が出展。これは、「国産の燃料電池を使って製品化を目指す電動アシスト自転車で国内第一号」という触れ込みです。

 出展者は山梨県や山梨大学のようですが、一体どのような目的で作られた自転車なのでしょうか。

 水素を「つくる」「はこぶ」「つかう」というエネルギー供給に関する大きな流れを紹介するパネルがあり、そのなかで「つくる」について、福岡市の「下水バイオガス由来」、大林組による大分県九重町の「地熱発電由来」、トヨタ自動車九州や福島水素エネルギー研究フィールド(福島県浪江町)、米倉山(山梨県甲府市)の「太陽光発電由来」が紹介されています。

 山梨県での太陽光発電や水素製造について、山梨大学の水素・燃料電池ナノ材料研究センター研究企画部門長の吉積潔教授は「山梨県は明治時代から東京など首都圏に水力発電によって電力を供給していました」と歴史を振り返ります。

 火力や原子力の発電が一般化していくなか、山梨県は再生可能エネルギーである太陽光発電を積極的に進めています。

 山梨県の資料によると、2011年に甲府市の郊外にある標高380mの米倉山で出力10MWの太陽光発電所での発電を開始。

 それと並行して、山梨大学などが長年にわたり蓄積してきた燃料電池の研究開発データを有効活用するため、米倉山太陽光発電所で作った電気を水電解して、水素を作る実証試験を進めるようになりました。

 また、大手企業に加えて地元の中小企業などを巻き込んだ「FCyFINE+」(フューエル・セル・山梨・フロンティア・フォー・イノベーション・アンド・エコシステム・プラス)を発足させ、技術的な交流や人材育成を進めてきたといいます。

 このような山梨県内の独自の活動のなかで、小型の燃料電池「やまなしスタック」を地元企業が開発しました。

 実は、吉積教授は長年にわたり、大手自動車メーカーで燃料電池車の研究開発に携わってきた人物。

「燃料電池を搭載した最新量産車の燃料電池スタックの出力は数百kW級で水冷方式ですが、やまなしスタックはコストを抑えて品質管理をしやすくするため、200Wと出力はかなり小さい空冷式を採用しました」と量産を念頭においた設計思想を示しました。

30秒以内で満充填、航続距離は100km

 燃料電池電動アシスト自転車は、燃料電池スタックと水素タンク、さらにリチウムイオン電池と制御基板が、自転車後部の箱のなかにすっぽりと収まっています。

 現在、この燃料電池電動アシスト自転車は試験的に3台が製造されました。

 国内初となる燃料電池電動アシスト自転車を使ったビジネスとして、シェアサイクル事業者との連携を検討しているといいます。

 シェアサイクルの場合、電動アシストが可能な距離が長いことが、利用者の直接的なメリットとしてわかりやすいという点に着目。さらに、電動バイクの場合、利用者や事業者が電池をこまめに移動したり、充電に数時間を要するといった手間がかかりますが、燃料電池の場合は「水素タンクへの充填時間は30秒以内で、満充填での航続距離は100kmほど」という利便性の高さが特徴です。

 充填する圧力は35MPaに抑えており、これは「量産型燃料電池車のように70MPaを採用するとタンクの重量が重くなるため」として軽量化と利便性のバランスを考えた結果だといいます。

 また、電動アシスト自転車用と同じ、燃料電池システムを使った非常用電源も山梨県内で開発しており、今回は展示がありませんでしたがパネルで製品を紹介していました。

 今後については「電動の車いすやドローン、また運送事業者が使う小型配送車などでの利用、さらには欧州の電動アシスト自転車市場での事業展開も視野に入れている」として、さまざまな可能性を模索しているといいます。

 吉積教授は「(現時点で)燃料電池事業のピラミッドの頂点は、大量生産型の燃料電池車ですが、(中小企業などでも)電動アシスト自転車など、まずできることから始めて、燃料電池事業を下支えすることが重要だと思います」と、山梨の仲間たちが未来に向けた期待を高めています。