トヨタ「GR86」やマツダ「ロードスター」といったスポーツカーの販売が好調です。その背景にはさまざまな理由があるようですが、なかでも若年層からの関心も高いといいます。現在のスポーツカー市場はどうなっているのでしょうか。

販売好調なスポーツカー市場、その背景は?

 2022年1-6月の新車販売台数ランキングを見ると、コンパクトカーやSUV、ミニバンが上位を占めるなかで、トヨタ「GR86」やマツダ「ロードスター」といったスポーツカーの名前を見ることができます。
 
 近年、「若者のクルマ離れ」や「スポーツカー離れ」をといった言葉を聞くこともありますが、実際はどのような状況なのでしょうか。

 クルマの基本的役割は、いうまでもなく移動することですが、スポーツカーはその移動の時間そのものを楽しむことを目的としています。

 一方、それは裏を返せば、スポーツカーは利用シーンが限定されることが多く、決して多くの台数を記録するようなモデルではないということを意味しています。

 にもかかわらず、GR86やロードスターは好調な売れ行きを見せています。

 GR86の月間目標販売台数は700台とされていますが、2022年1-6月で8540台の販売を記録しており、2021年にフルモデルチェンジした直後ということを差し引いても順調に販売台数を伸ばしています。

 一方のロードスターは、2021年12月に発売された特別仕様車の「990S」が販売をけん引した結果、2022年1-6月で前年同期比148.4%となる4817台を記録しました。

 現行ロードスターは発売からすでに7年あまりが経過しており、この結果は驚異的な伸びと言えます。

 マツダの広報担当は、ロードスター好調の要因について、次のように話します。

「外出自粛を余儀なくされていたコロナ禍において、『移動』すること自体が特別な行為となったことで、ロードスターのようなスポーツカーが注目されるようになったと考えています。

 また、他社からも魅力的なスポーツカーが多く登場したことも追い風になっていると思います」

 さらにGR86の販売動向について、トヨタの関係者は「2022年4月、5月、6月と若年層における割合が高まっています。7月に開催されたGR86/SUBARU BRZのイベントでも若年オーナーも多く来場されており、若年層がスポーツカーを購入するというニーズは高まってるように感じています」と話しています。

 また若年層がスポーツカーに関心を集める要因について、大手広告代理店の担当者は次のように話しています。

「最近ではYouTubeやTikTok、InstagramなどさまざまなSNSで情報が発信できる時代です。
 これまでは各媒体を通じて情報を発信していましたが、SNSでユーザーがそのモノの魅力を発信できる時代となった現在では、例えばスポーツカーでも『楽しそう』『カッコいい』といったキーワードにハマれば自然と関心を持ちやすくなっています。

 そうしたことからも、スポーツカーをひとつのトレンドやファッションと捉える若者もおり、若年層がスポーツカーに関心を示してきているといえます」

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 また、かつてのクルマ好きのかなでは、自動車業界全体の電動化が進むなかで、これまでのスポーツカーの典型であった「ガソリンエンジン × MT」という組み合わせの存続が難しいという噂もあります。

 そのため「スポーツカーを楽しむなら今のうち」という意識が働いたユーザーによる駆け込み需要が販売を後押しをしたという指摘もあります。

 とくに、2022年はGR86やロードスターに加え、日産新型「フェアレディZ」やホンダ新型「シビックタイプR」などは発売からすぐに受注が殺到。

 さらに、トヨタ「GRMNヤリス」や「GRカローラ」など新たなスポーツカーが続々と登場したことなども、スポーツカー市場全体が盛り上がっている証といえます。

スポーツカー人気はこの先も続くのか?

 こうした現状から、1990年代をピークとした「国産スポーツカーブームが再び到来するのではとないか」という期待も覚えますが、話はそう簡単ではないようです。

 スポーツカーを厳密に定義するのは非常に難しいものですが、「2ドアクーペ」かつ「MT」という要素を必須とすると、2022年8月現在でラインナップされている国産車は、GR86/SUBARU BRZ、ロードスター、フェアレディZ、スープラなどです。

 またハッチバックではGRヤリス、GRカローラ、スイフトスポーツ。4ドアではシビックタイプRも存在しています。

 そのうち、GR86はSUBARU BRZと、スープラはBMW「Z4」と共同開発となっており、また、フェアレディZは「新型」と銘打ってはいるものの、実際には先代モデルの型式を継続しています。

 もちろん、これ自体は必ずしもネガティブなことではなく、優れたスポーツカーを手の届きやすい価格で提供するための「工夫」のひとつです。

 ただ、逆にいえば、こうした「工夫」をもってしなければ、新たなスポーツカーを提供できないということでもあります。

 当然のことながら、新車の開発には莫大な費用が掛かります。また、排出ガスや騒音などの規制も年々厳格化しており、そうした規制への対応も非常に多くの時間とコストが掛かります。

 新車価格を上げることでバランスをとる方法もありますが、多くの人に手の届く価格であることを優先すると、価格にも上限があります。

 100万台単位の販売が見込める主力モデルであれば新規開発をおこなうメリットもありますが、ほとんどのスポーツカーではそれほどの台数を販売するのは現実的ではありません。

 GRヤリス/GRカローラやスイフトスポーツ、シビックタイプRといったモデルはもちろん高性能を目指した開発はされているものの、それぞれ主力モデルの派生車であるため、単独で新規に開発コストをまかなうことを避けられています。

 一方で、スポーツカーの与えるイメージは、現代のクルマにおいては重要な要素です。

 そのため、実際の販売台数はそれほど多くなくても、ラインナップのなかにスポーツカーやスポーティグレードを用意する可能性は多いにあります。

 また、今後市場が拡大していくと見られるEVにおいては、その滑らかな加速感を活かしたスポーツカーが登場していく可能性は十分にあります。

 トヨタでは、EVに擬似的にMTの感覚を持たせるシステムの開発をおこなっているという噂もあります。

 ガソリンエンジンのみのスポーツカーの存続は難しくなっている昨今ですが、電動化時代になってもスポーツカーは形を変えつつ残っていくことは間違いないでしょう。

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 スポーツカーの開発が難しくなっているなかで、ロードスターは単独での開発が続けられている稀有な存在です。

 コストパフォーマンスに優れたライトウェイトスポーツカーとして30年以上にわたって愛されているロードスターは、2016年には累計生産台数が100万台に達し、現在でも「2人乗り小型オープンスポーツカー」生産累計世界一のギネス世界記録を更新し続けています。

 限りなく高い壁ではありますが、ロードスターほどの人気を得ることができれば、スポーツカーの単独開発は決して夢ではないようです。