ホンダは、2040年代にすべての二輪製品でのカーボンニュートラルを実現することを目指していますが、二輪の電動化は実現可能なのでしょうか。

二輪車もEV化? 内燃機関はどうなる?

 最近は、新型コロナ禍もあってライフスタイルの変化が生まれ、日本では二輪車ブームの真っ只中です。

 趣味の分野の二輪車でも、これから一気にEV化の嵐が吹き荒れるのでしょうか。また、四輪車の電動化に対してどのような影響があるのでしょうか。

 そんななか、ホンダは2022年9月13日、二輪事業の電動化戦略を発表しました。

 発表の全体を通して感じるのは、無理のない現実的な展開を視野に入れているという点で、二輪車が販売されている国や地域の社会状況を十分に加味しているのです。

 二輪車は発展途上国などでは庶民の生活の足として、日本・北米・欧州などでは中型から大型など趣味性が高い乗り物として、また物流向けの小口配送車としてなど、さまざまな種類の二輪車がグローバルで販売されている状況です。

 また、ホンダの2021年度決算資料によると、二輪事業での地域別販売台数は、もっとも多いのが日本を除くアジアで1468万9000台、北米が437万台、欧州が317万台、日本が244万台と、アジアがほかの地域を大きく引き離しています。

 アジアを国別で見ると、インドネシアが387万3000台、インドが347万台、ベトナムが207万台、そしてタイが116万4000台と続きます。

 一方で、2022年時点での電動二輪車の市場規模は、グローバルで年間約5000万台なのですが、その多くが中国での需要に支えられているのが実状です。

 種別としては、最高時速25km以下の「エレクトリック・バイシクル」と、最高時速25kmから50kmの「エレクトリック・モペット」が大半を占めています。

 また、ホンダにとっての主要販売国であるインドでは、同国政府のカーボンニュートラル推進政策の後押しもあり、最近では「エレクトリック・モペット」を中核として電動二輪車の販売台数が急激に増加している状況です。

 このように、ホンダとしては今後、二輪車の販売台数が多いアジアを軸足として、欧米日でも同時に二輪車電動化をバランス良く進めていく必要があります。

 そのなかで、電動二輪車大国である中国市場に対しても、なんらかの積極的な方策が必要になってくるでしょう。

 ホンダは2025年までにグローバルで合計10モデル以上の電動二輪車を投入。今後5年以内に100万台、2030年までにホンダの二輪総販売台数の約15%相当の年間350万台の電動二輪車を販売することを目指すとしています。

 逆にいえば、残りの85%は非電動車としてこれまでのような内燃機関ということになります。

 日本自動車工業会で日系メーカー各社が「カーボンニュートラルに向かう道筋はさまざまある」という共同歩調をとっていますが、ホンダが今回示した事業戦略のように二輪車についても内燃機関も有効活用する動きが加速していきそうです。

 ホンダでは、カーボンニュートラル燃料に加えて、ガソリンとエタノールの混合燃料であるE20や、ブラジルで実用化されているガソリンとエタノールの混合バランスをユーザーが給油のたびに決めることができるE100などの活用を拡充していく意向です。

ホンダの電動二輪車投入計画は?

 日本では今後、どのような電動二輪車が登場するのでしょうか。

 もっとも現実的なのが、すでに量産されている「BENLY e:(ベンリィ イー)」のような小口配送向けモデルの拡充でしょう。

 特徴は、取り外し可能な電池である「MPP(モバイル・パワー・パック)」です。

 このMPPを使うパーソナルユースの電動二輪車が2024年から2025年に2モデル販売される予定です。

 また、これと並行して、「エレクトリック・バイシクル」と「エレクトリック・モペット」についても、2022年から2024年の間に、電動二輪車の最大需要国である中国を筆頭としたアジア、欧州、そして日本でも合計5モデルが登場します。

 ホンダは「よりコンパクトでお求めやすい価格」と銘打っていますが、上記のパーソナルユースの2モデルと具体的にどのような違いがあるのかは現時点では不明です。

 いずれにしても、日本では小口配送の分野では、配送業者や荷主が企業経営の視点でSDGs(国連の持続可能な達成目標)や、ESG投資(従来の財務情報だけではなく、環境・社会性・ガバナンスを重視した投資)に重点を置くようになっているため、今後も積極的に電動二輪車の活用を増やしていることが考えられます。

 一方で、個人向けについては、1980年代から1990年代にように原動機付き自転車の需要が高かった時代のように、小型の電動二輪車が一気に普及することは難しいように感じます。

 背景には、日本では電動アシスト自転車の普及が進んでいること、またパーソナルモビリティとして軽自動車の需要が高まっていることが挙げられます。

 そのため、日本での個人向けの小型電動二輪車の市場拡大について、ホンダ以外の複数の二輪車メーカーの関係者からは、やはり「中国のように日本で普及するとは考えにくい」という声が聞こえてきます。

 それでも、MPPを活用した交換式バッテリーの実証実験に、日本自動車工業会が大阪大学やローソンと連携して取り組み、実証実験に参加した大阪大学の学生らから好意的なフィードバックを数多く得たという実績もあります。

 そうした成果から、2022年4月には、ENEOSホールディングスとホンダ、ヤマハ、スズキ、カワサキが連携する、電動二輪車の共通仕様バッテリーのシェアリングサービス事業をおこなう「Gachaco(ガチャコ)」を設立し、2022年秋から東京などでサービスの実用化を始めるところです。

 そのうえで、ホンダのMPPを中心とした電動二輪車用バッテリーを公益社団法人 自動車技術会規格をベースに、二輪メーカー4社が共通仕様に合意しています。

 こうした交換式バッテリーは、大きな乾電池のように小型四輪車を含めて多様な使い道が考えられ、具体的な方法についてホンダがこれまで実車や実機を公開してきました。

 社会全体で共通仕様バッテリーが普及すれば、それに比例する形で小型の電動二輪車の需要も高まっていく可能性はあると感じます。

 そして、二輪の電動化における大きな課題は、ホンダが「FUN EV」と呼ぶ、大型の二輪電動モデルでしょう。

 2024年から2025年の間に、欧米日で合計3モデルを投入予定だといいますが、既存の二輪ユーザーが十分満足できる商品になるのか注目されるところです。

 ホンダ以外の複数の日系二輪車メーカー関係者の多くは、こうした大型二輪電動車の早期普及に対して「それは本当にユーザーが求めているモノなのか?」という懐疑的な見解を示しています。このなかには、最新の大型電動二輪コンセプトモデルの開発者らも含みます。

 理由としては、大型二輪車ユーザーは、内燃機関の音や振動を楽しむ傾向が強く、静粛性の高いEVに対する心のハードルがあることです。

 また、四輪車と違い、二輪車に航続距離を稼ぐための搭載バッテリーを大型化することは、運動特性の悪化に直結してしまうことなども挙げられます。

 バッテリーの課題について、ホンダは旧来型リチウムイオン電池と同じ体積でもエネルギー密度が高い全固体電池の開発を進めて課題解決を目指すようですが、音と振動については四輪EV向けとはアプローチの仕方が大きく異なることが予想されます。

 ホンダは、四輪事業について2040年までのグローバルで新車100%をEVまたはFCV(燃料電池車)として発売することを目指すと宣言しています。

 二輪車については、2040年代にすべての二輪製品でカーボンニュートラルを目指すとしていますが、電動二輪車市場での需要をしっかり捉えていくという視点で見ると、その道のりはかなり険しいといわざるを得ません。