2022年2月末から始まったロシアとウクライナの戦争はすでに半年が経過しています。戦争が始まって以降に各国の自動車メーカーはロシアでの新車製造を停止していました。また9月にはトヨタや日産などが生産事業から撤退を表明しています。その一方で日本からの中古車輸出は好調を維持し、8月には2万台を超えました。こうした中古車市場独自の動きがあるなかで、9月に入り突如として輸出が停止したといいますが、何があったのでしょうか。

実は日本からの中古車輸出先として世界1位はロシア

 ロシアとウクライナの戦争はすでに半年が経過しています。戦争が始まって以降に各国の自動車メーカーはロシアでの新車製造を停止していました。また9月にはトヨタや日産などが生産事業から撤退を表明しています。
 
 その一方で日本からの中古車輸出は好調を維持し、8月には2万台を超えました。こうした中古車市場独自の動きがあるなかで、9月に入り突如として輸出が停止したといいますが、何があったのでしょうか。

 日本から海外へは多くの中古車が輸出されています。

 その台数はこの数年は年間120万台−130万台前後で推移しており、コロナの影響もあって少し減った年もありましたが2022年はコロナ前の水準に戻りつつあります。

 日本の中古車は全般的に走行距離が少なく、日本車自体の品質が良いことや車検制度のおかげで整備状態が良好なクルマが多く、世界各国において中古車としての人気が高いのです。

 しかし、日本のクルマは右ハンドル車となるため、中古車として海外に輸出される際、実は限られた国でしか輸入、販売、登録ができません。右ハンドル&左側通行を採用しているのは世界約190カ国のうち約25%しかないからです。

 日本は右ハンドルでも左ハンドルでも新車でも中古車でも並行輸入でも輸入や登録、使用が許されているので、あまり意識することはないかもしれませんが、中古車自体の輸入に制限をかけていたり、右ハンドル車自体の走行を禁止していたりする国も少なくありません。

 なお、アメリカでは「25年ルール」によって、製造から25年を経過するまでは右ハンドル車を含む並行輸入車の輸入ができませんが、25年超となればアメリカの保安基準FMVSSの対象外となるため合法輸入が可能となります。

 このような状況のな、日本から中古車を輸出する国として台数1位、2位を争っているのがロシアとUAE(アラブ首長国連邦)です。

 ロシアは本来右側通行&左ハンドルですが、右ハンドル車の通行を認めており、UAEは左ハンドルに改造すれば輸入が認められます。

 ウクライナ侵攻によって台数が減った時期もありましたが、2022年1月から8月末までのロシア向けの中古車輸出台数は以下となっています。(※日本中古車輸出業協同組合調べ)

 2022年1月:10415台(前年同月比48.5増 1位ロシア、2位UAE)
 2022年2月:14808台(同32.1%増 1位ロシア、2位UAE)
 2022年3月:11477台(同15.9%減 UAE1位、ロシア2位)
 2022年4月:11208台(同25.3%減 ロシア1位、UAE2位)
 2022年5月:11630台(同16.8%減 UAE1位、ロシア2位)
 2022年6月:18266台(同24.4%増 ロシア1位、UAE 2位)
 2022年7月:18002台(同30.9% ロシア1位、UAE 2位)
 2022年8月:21728台(同45.8%増 ロシア1位、UAE2位)

 これらの数字を見る通り、3月−5月は経済制裁やそのほかの混乱が影響して日本からロシアへの輸出台数は大幅に減少しましたが、6月以降は数字が戻っており8月はついに1か月あたり2万台を超えました。

 ちなみに車両タイプや排気量の内訳は多い順番に以下となっています。(乗用車)

 ハイブリッド車:6286台
 1000−1500ccガソリン車:5792台
 1500−2000ccガソリン車:3929台
 2000−3000ccガソリン車:1659台
 660-1000ccガソリン車:966台
 (財務省貿易統計をもとにキャンゴーインターナショナル調べ)

 8月にはついに2万台を超えたわけですが、なぜ、ウクライナ侵攻以降、ロシアで日本からの中古車輸入が増えているのでしょうか。そこにはロシアではまともな新車が作れない状況が関係しています。

 2022年2月末のウクライナ侵攻以降、ロシアは多方面から経済制裁を受けることになりました。日欧米の自動車メーカーが次々とロシア事業から撤退。

 自動車メーカーだけではなく部品メーカーもロシア事業から同様に撤退し、また自動車生産に必要な部品の輸入も困難となり、ロシアでは2022年3月以降、まともな新車生産ができなくなっています。

 そこで、ロシアの自動車メーカーが苦肉の策として考えたのがエアバッグやABS、排ガス浄化装置、オーディオ類やエアコンもついていない「旧車スペックの新車」を生産することでした。

 その代表的な車種がLADA「Granta Classic 2022」(ラダ・グラントクラシック2022)です。

 ラダはロシア最大の自動車ブランドで、2021年にロシアで生産された乗用車の2割以上がラダとなっています。

 日本では1980年代終わりから輸入され、いまだに根強い人気を持つ「ラダ・ニーヴァ」が有名です。

 また、KamAZ(カマズ)というロシア最大のトラックメーカーも同様に旧車スペックのトラックを作り始めており、2000年前後に生産を終了した旧ソ連時代の自動車「モスクヴィッチ」も撤退したルノーの工場で2022年12月から生産が再開されることを発表しています。

 とはいえ、その台数は非常に少なくモスクビッチの生産は年間5万台程度。経済制裁を受ける前、ロシアでの自動車生産は150万台規模でしたので「焼石に水」といった状況です。

 それならばエアコンさえついていないような低スペックの新車をわざわざ高いお金を出して買うよりも、長年の信頼がある日本製中古車を欲しがる人々が増えることは自然な流れといえるでしょう。

 そうした背景から2022年6月以降、日本からの中古車輸出がさらに増え、8月にはついに2万台を超える状況となりました。

日本からの中古車輸出がストップする大変な事態に? いったいなぜ?

 しかし、202210月に入って日本からの中古車輸出に関して大きな変化がありました。これにはロシアで同年9月末に出された「部分動員令」が影響しています。

 動員令とは、簡単にいうと一般市民をロシア軍の予備役として「動員する(=徴兵する)」ことで、戦地での兵員不足を補うためにおこなわれる国の「命令」です。

 対象になるのは一般市民でロシア国防省では過去に軍務の経験を持つ約30万人であると発表。なお、科学やエネルギー、運輸、メディアなどの分野に従事する市民は動員を免除されています。

 その動員令によって港で働く人々は軍務についたり国外脱出を図ったりで激減し、港に入ってくる車両を裁くことができない状態になっているようです。

 昨今のロシア事情について、日本中古車輸出業協同組合の佐藤博理事長は、次のように話してくれました。

「ロシアの近況は動員令が発令されてから、20%から30%も注文が落ちています。

 さらに、動員令以前に注文を受けた中古車がいまだに船積み出来ていないケースも少なくありません。港にある過剰在庫が減少して船積みが早く再開されることを願っています」

 なんと、動員令よりも前に注文がされていたロシア向け輸出車両が日本の港で船積みができず、過剰在庫になっているといいます。

 このような状況では、2022年9月から10月はロシア向けの輸出台数が減少する可能性もありそうです。

 なお、佐藤博理事長が経営する中古車輸出会社「山銀通商株式会社」は、1978年創業の大手中古車輸出会社で、高品質な日本製中古車を低価格で世界中に提供していることで知られています。

 これまでロシア向けに毎月300台を船積みしており、在庫は常に1000台を超えているとのことでした。

 現在は動員令によって、一時的にロシアへの輸出が滞っている状態ですが、ロシアの人々にとってクルマは生活必需品。

 やがて港で働く人々が元に戻って日本からロシアへ向かう中古車が以前のように増えていくことは間違いないでしょう。