興行収入が20億円を突破したという大ヒット映画「シン・仮面ライダー」に、古いホンダ「アコード」が登場して話題になりました。かつての「アコード」は今とはまったく雰囲気の違うクルマなのですが、どのような歴史があるのでしょうか。
ハッチバックからスタートした「アコード」
2023年3月18日に公開された映画「シン・仮面ライダー」は、庵野秀明氏が手がける「シン・」シリーズの最新作らしく注目度の高い作品です。
そんななか、クルマ好きのあいだではちょっと古いホンダ「アコード(4代目・CB型)」が劇用車として登場することが話題になっています。
映画の公式アカウントのツイートによると、このアコードは故・実相寺昭雄氏の愛車で、氏がぶつけた痕跡などがそのまま残されているのだとか。
庵野氏にとって「ウルトラマン」などの監督、脚本、演出で活躍した特撮の大先輩 実相寺氏へのリスペクトが根底にあることは想像に難くありません。
そんな経緯で、にわかに話題となったアコードは、「シビック」と並ぶホンダの根幹車種ながら、近年はいささか影が薄い存在でした。と過去形にしたのは、2023年1月をもって日本での販売が終了してしまったから。
アコードに限った話ではありませんが、国内ではアッパーミディアムクラスのセダンは苦戦が続いています。
ここではサラっと「アッパーミディアムのセダン」とアコードをカテゴライズしましたが、実はそうなったのはここ数世代のこと。アコードの歴史を振り返ると、必ずしもアッパーミディアムクラスのセダンボディが主力だったわけではありません。
歴代のアコードはどのようなモデルだったのでしょうか。
初代アコードはシビックより上級のモデルとして1976年に登場。後から4ドアセダンも追加されましたが、当初のボディは3ドアハッチバックのみでした。
現代のアコードからは想像しづらいですが、全長が4105mm(ハッチバック)という現行「フィット クロスター」と大差ないコンパクトハッチだったのです。
1981年に登場した2代目アコードは、世界進出を目指してサイズを拡大。日本車としては初めて米国でも生産されたクルマです。
日本初、世界初の装備や機能が多数用意され、なかでも斬新だったのはオプションながら世界初のカーナビゲーションが設定されたことでしょう。
1985年にデビューした3代目は、リトラクタブル式ヘッドライトやDOHCエンジン、FFとしては世界初の4輪ダブルウィッシュボーン式サスペンションの採用など、全体的にスポーティに振っています。
日本では3ドアハッチバックは販売されず、代わりにシューティングブレーク風の3ドアワゴン「エアロデッキ」が登場。さらに、米国で開発・生産された2ドアクーペが逆輸入され、日本車なのに左ハンドルだったこともあり大いに話題を呼びました。
4代目は1989年に登場。ボディがついに5ナンバー枠いっぱいまで拡大され、エンジンも4バルブの1.8リッターと2リッターに加え2.2リッターもラインナップされるようになりました。
「シン・仮面ライダー」で登場したのは通称CB型と呼ばれるこの4代目モデルで、樹脂バンパーにフェンダーミラーとスチールホイールを装備するベーシックグレードです。
注目はクーペと同様に米国で開発・生産されたワゴンモデルが日本に導入されたこと。スバル初代「レガシィ ツーリングワゴン」とともにステーションワゴンブームの火つけ役を果たしました。
北米の安全基準をクリアするために、1993年に発売された5代目はついにボディは3ナンバーサイズに進化。セダン、クーペ、ワゴンというラインナップは変わりませんが、ボリューミーなスタイリングもあり、ボディもひとクラス上がった印象です。
スポーティグレードには190馬力を誇る2.2リッターVTECエンジンを搭載。熟成を重ねたダブルウィッシュボーンは、ハンドリングの良さとしなやかな乗り心地を両立しています。
世代を重ねるごとに上級志向に
1997年にフルモデルチェンジした6代目は国内専用設計となり、これまで拡大の一途をたどったボディを縮小し、セダンは5ナンバーサイズに収まるようになりました。
また、シリーズとして初めて4WDモデルが設定されました。
4代目、5代目とワゴンの人気が目立ちましたが、6代目はセダンも大健闘。その牽引役となったのが、2.2リッターVTECエンジンを搭載する「ユーロR」グレードの存在で、このモデルからアコードはスポーツセダンのイメージが強くなっていきます。
欧州仕様との統合により、2002年に出た7代目は再び3ナンバーボディに拡大されましたが、空力性能を徹底したスタイリングによって引き締まって見えるのが特徴です。
エンジンやATの刷新、リアサスの5リンク化、内外装の質感や安全性の向上など多くの部分で進化。車速・車間距離制御や車線維持支援機能など、オプションながら先進運転支援システムもいち早く導入しています。
2008年に登場した8代目アコードは、キープコンセプトのスタイリングながらボディを拡大。当初は2.4リッターエンジンのみの設定だったこともあり、アッパーミディアムといっても差し支えない車格になりました。
大型化は室内スペースの拡大にもつながり、居住性が向上。細部の質感にもこだわり、快適性も大きく上がっています。
9代目(2013年)は日本ではハイブリッド専用車となり、車名も「アコードハイブリッド」に変更。パワーユニットは2リッター直列4気筒ガソリンエンジン(143馬力)に、駆動用(169馬力)と発電用の2モーターを組み合わせた「SPORT HYBRID i-MMD」。30km/L(JC08モード)の低燃費を実現しました。
2016年のマイナーチェンジで内外装を刷新するとともに、モーターやバッテリーを小型・軽量化。車名はアコードに戻り、「ハイブリッド」はグレード名として残りました。
10代目は米国では2017年に登場していましたが、日本は3年遅れの2020年にモデルチェンジ。全長4900mm×全幅1860mmの大柄なボディは、もはや大型サルーンと呼んでも差し支えないサイズ感となっています。
パワーユニットは「e:HEV」へと名称を改められたハイブリッド。安全運転支援システム「Honda SENSING」が備わるのも特徴のひとつです。
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アコードは日本では10代目の月間販売台数が200台を切る寂しい状況が続きましたが、米国では常に好調なセールスを記録し、今も昔もホンダの屋台骨を支えています。そのため開発・販売は米国優先で、11代目モデルが米国ではすでに販売されていたりします。
「日本車なのに…」と悔しい思いもありますが、2023年内に日本へも導入が予定されているともいわれており、正式発表を楽しみに待ちましょう。