ラリーの最高峰となるWRC第5戦「ラリー・ポルトガル」で今シーズン初優勝を遂げたカッレ・ロバンペラ選手が今度はドリフト競技に参戦しました。

WRC優勝から…ドリフトでも優勝! 実力を魅せた世界王者ロバンペラ!

 2023年5月20日-21日にWRC王者のカッレ・ロバンペラ選手が「フォーミュラDジャパン in エビス」に「GRカローラ」で参戦。
 
 前週のWRCポルトガルでは今シーズン初優勝を遂げたロバンペラ選手は、ドリフトでも世界トップの技を披露し、優勝しました。

 2023年5月11日-14日に開催された2023年FIA世界ラリー選手権(WRC)第5戦「ラリー・ポルトガル」で、TOYOTA GAZOO Racing World Rally Team(以下、TGR-WRT)のカッレ・ロバンペラ選手/ヨンネ・ハルットゥネン選手の「GR YARIS Rally1 HYBRID 69号車」が今シーズン初優勝しました。

 ラリーポルトガルは、ラリーカーのグラベルコースでの真のパフォーマンスを見極めるのに適したラリーと言われ、選手たちはクルマのポテンシャルをフルに発揮させやすいのが特徴です。

 そんな舞台で優勝を遂げたロバンペラ選手ですが、その翌週となる5月20日-21日には、日本でドリフト大会に参戦しました。

 ドリフトは、日本発祥と言われ「D1グランプリ」や「フォーミュラドリフト」などの大会が有名です。

 今回は、エビスサーキット(福島県)で開催されるフォーミュラドリフトジャパン シリーズ第2戦に「GRカローラ」でロバンペラ選手は挑みました。

 元々ロバンペラ選手は、父もWRCで活躍したサラブレッド家系のラリードライバーとなり、2020年から TGR-WRTにてWRCのトップカテゴリーへフル参戦しています。

 2021年にはWRC優勝の最年少ドライバー記録を更新。さらに2022年には6勝をあげて最年少シリーズチャンピオンに輝いており、2023年シリーズは前述の通り、ラリー・ポルトガルで優勝を果たしています。

 一方のドリフト大会では、ヨーロッパで開催される「ドリフト・マスターズ・ヨーロピアン・チャンピオンシップ」にも出場するなどの実績もあります。

 そうした中で、今回のフォーミュラDジャパンには、ロバンペラ選手の愛称「KR69」をあしらったチーム「KR69 CUSCO Racing」として、GRカローラをドリフト仕様に仕立てた「Red Bull GR COROLLA」で参戦しました。

 なお参戦にあたって、TGR-WRT会長の豊田章男氏は「(ラリー・ポルトガルを優勝で飾って)これで心おきなくエビスでドリフトを楽しんでもらえると思います。Formula Drift Japanでは日本のファンに最高の横顔を見せてきてください」とコメントするなど、その注目度は高まっていました。

Red Bull GR COROLLAはどんなスペック? ドリフトの結果は?

 KR69 CUSCO Racingは、以前からフォーミュラDジャパンに参戦しているクスコを主体としたチームとなり、Red Bull GR COROLLAは様々なメーカーが最強の布陣を組んで作り上げています。

 ベースとなるGRカローラは、TOYOTA GAZOO Racingが用意。

 エクステリアは、ボンネットやサイドにRed Bullのロゴがあしらわれているほか、タイヤもドリフトが行いやすいようにハの字になっているなど、他のGRカローラとは異なるスタイルです。

 パワートレインは、世界的なチューニングメーカーとなるHKSが手掛けています。

 HKSは、GRカローラの心臓部をドリフトでも馴染みがあり「80スープラ」や「アリスト」に搭載される2JZ-GTEエンジンに換装。

 このエンジンにHKSが展開する「キャパシティ アップグレード キット(2JZ-GTE 3.4L KIT)」を装着することで排気量を純正の3リッターから3.4リッターにアップ。さらに、タービンやカムなど様々なHKS製のチューニングパーツを組み合わせています。

 これにより、1000馬力以上のパワーを生み出すことが可能だと言いますが、ロバンペラ選手から「このコースであれば900馬力(ブースト2.2)くらいが丁度いい』というコメントがあったことで最大限のパワーは出していないようです。

 またドリフトではタイヤの性能も重要な要素ですが、足元にはヨコハマタイヤが展開する「ADVAN NEOVA AD09」を装着。

 AD09はストリート最強のスポーツタイヤを掲げる最新のNEOVAシリーズのモデルとなり、フォーミュラDジャパンでも多くの選手が採用しています。

 そんな中、ロバンペラ選手のタイヤサイズはフロント255/35R18、リア275/40R19を装着し、ヨコハマの担当者は「ロバンペラ選手がA09を使用するのは今回が初となり、練習走行から本番にかけてタイヤの空気圧を調整しながら挑んでいます」と話しています。

 今回の参戦やGRカローラについて、ロバンペラ選手は次のように語っています(通訳)。

「ヨーロッパにおいて『エビスサーキット』はドリフトしてる人は有名で、ヨーロッパの友達も来てみたいと言っていました。

 エビスは初めてではなく、過去のイベントなどで3回走ったことがあります。

 エビス西コースは、第1コーナーの入り方が難しい他に、アウトコーナーの繋ぎや、アクセルのタイミングなどが難しいです。他はいい感じで走れていました。

 普段は、スープラでドリフトしていますが、今回のシェイクダウンしたばかりのGRカローラのほうがホイールベースが長くて乗りやすいです。どんどん良くなっています」

 またGRカローラのチーフエンジニアである坂本氏は次のように話しています。

「GRとしては、なにか面白いことをやろうというのが始まりです。

 その後、ロバンペラ選手がドリフトが好きだということで、急遽クスコさんがドリフト仕様に仕立ててくれました。

 ロバンペラ選手からは、ホイールベースやリアサスペンションの間の長さが他のGRモデルよりも長く安定していることからとても乗りやすいという声をもらっています。

 またドリフトは他のモータースポーツと異なるクルマの動きとなり、色々な部分で勉強になります。

 とくにリアサスペンションの取り付け位置は、変更できないためそこがどのような動きをするのか、という部分などすぐには市販車に落とし込めませんが、今後のクルマ作りには活かせることが出来ると思います」

 そんなラリー・ポルトガルで優勝した勢いを持つロバンペラ選手は、様々なメーカーの知見が合わさったGRカローラを巧みに操り、20日の予選ではトップ通過を果たしました。

 21日の朝に行われた練習走行では、2本を走り終えた際にGRカローラのオイルクーラーからオイルが漏れましたが、迅速なメカニック作業により決勝トップ32に進みます。

 トップ32では、対戦相手と五分の戦いとなり、サドンデス(ワンモアタイム)となるものの、ロバンペラ選手の圧倒的な走りで勝利を収めています。

 トップ16でも激闘の末サドンデスとなり、そのサドンデスでは僅差で勝利。続くトップ8では今大会初めてのストレート勝ちを収め、トップ4でも勝利。

 そして決勝戦では、「GRスープラ」とGRモデル同士の戦いが実現しました。先攻のロバンペラ選手はそれまで同様の勢いのある走りを披露します。

 そして入れた変えた2本目では先攻となったGRスープラの左リアタイヤがホイールから外れるというトラブルによりコースアウト。結果としてロバンペラ選手はラリーポルトガルに続き2週連続で優勝を果たしました。

 初のGRカローラを操りながら優勝したロバンペラ選手について審査員の谷口信輝氏(レーシングドライバー)は、次のように語っています。

「さすがWRC王者でですね。経験値やセンスも高いので、対戦相手に関係なく先攻では速さを武器に、後攻では先行車の動きを気にせずビタビタに追走するのが凄い。

 とくに最初のドリフト初めの動きでは前の片輪が浮くんですが、これは他の選手では見られずラリードライバーならではの動きですね。

 そして優勝まで、これでドリフトファンがラリーに、ラリーファンがドリフトに興味を示してくれると嬉しいです」

 激動の2週間を終えたロバンペラ選手は優勝インタビューにて、次のように述べています。

「ここ日本にきて新しいチャレンジ、そして新しいクルマ、このGRカローラはとても良いクルマで、調子よく走ってくれて、チームのみんなには本当に感謝しかありません。

 次の目標としては、まだ何をするか決めてないですが、ヨーロッパで色々(ラリーなど)ありますし、またチャンスがあればフォーミュラDドリフトジャパンに戻ってきたいです。

 それが叶うのはフィンランドにいる仲間達のお陰もあるので、本当に感謝しています。『次回は岡山大会にくる?』という質問ですが、約束はできないですけどなんとか来れるように頑張っていきたいなと思います」

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 なおロバンペラ選手は、日本で2023年11月に開催されるWRC最終戦「ラリージャパン」にも参加予定ですが「日本に来るのはいつも嬉しいし、トヨタのドライバーとしてこれるのは素晴らしいことで楽しみにしている」とコメントしていました。

 ラリーとドリフトは、クルマの動かし方が異なる競技ですが、それでも神童と呼ばれるロバンペラ選手はすぐにGRカローラを乗りこなしていました。

 今回のドリフトで得た知見が今シーズンのWRCにも活かされ、そしてラリージャパンでの活躍に繋げてほしいものです。