コンパクトミニバンの「フリード」は、ホンダの登録車のなかでトップの売れ行きを誇っています。登場から7年が経過したモデルが好調な理由にはどのようなことがあるのでしょうか。

ホンダ車の登録車でトップセールスの「フリード」

 最近はSUVの販売が好調ですが、販売ランキングでは、ミニバンが依然として上位に入ります。
 
 そんななか、とくに注目されるのがホンダのコンパクトミニバン「フリード」です。フリードは2022年度(2022年4月から2023年3月)に小型/普通車のランキングで6位に入りました。

 同ランキングの5位のトヨタ「シエンタ」もコンパクトミニバンで、フリードのライバルです。

 シエンタは2022年8月に登場した新型車である一方、フリードは2016年の発売と7年が経過したモデルながら、シエンタに迫る売れ行きとなっています。

 さらにフリードは、ホンダの国内販売順位でも2位に入ります。2022年度に国内でもっとも多く売られたホンダ車は、国内販売の1位でもある「N-BOX」で20万4734台、2位はフリードで7万9820台、3位は「フィット」で6万824台、4位は「ヴェゼル」で5万150台と続きます。

 4車種の発売年は、N-BOXが2017年、フリードは2016年、フィットは2020年、ヴェゼルは2021年です。設計が新しいフィットとヴェゼルは伸び悩み、古いフリードが好調です。なぜこのような売れ方になるのでしょうか。

 フリードが高い人気を保つ理由を販売店に尋ねると、以下のように返答されました。

「フリードはいろいろなお客さまが購入されます。子どもが増えて、N-BOXやフィットから、フリードに乗り替える場合があります。

 また子育てを終えて、ミドルサイズミニバンの『ステップワゴン』では大きいというお客さまが、フリードに変更することもあります。ミニバンは荷物を積むのにも便利なので、小さなミニバンであるフリードに乗り替えるのです。

 そしてコンパクトでも、外観がカッコ良く、シートアレンジが使いやすいこともフリードの魅力です」

 フリードが人気を得た理由として、全高4700mm×全幅1700mmを切る5ナンバーサイズのミニバンが減った事情もあるでしょう。

 ステップワゴンやトヨタ「ノア/ヴォクシー」は、現行型から3ナンバー専用車になりました。5ナンバーサイズのコンパクトなミニバンが欲しい場合、フリードとシエンタは、これまで以上に大切な存在となっています。

 とくにステップワゴンは、売れ筋の「スパーダ」になると、全長4830mm×全幅1750mmに達します。フリードは全長4265mm×全幅1695mmですので、街中や駐車場での運転のしやすさでは、ステップワゴンでは得られないメリットを発揮します。

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 フリードのバリエーションは、3列シートで6人または7人乗りの仕様のほか、2列シートで5人乗りの「フリード+」があります。

 フリード+は後席を前方に倒すと荷室とつながったフラットな空間が生まれ、荷物を載せたり、クルマのなかで寝泊まりする「車中泊」といった使い方にも対応可能です。

コンパクトミニバンとして必要な要素が盛り込まれている

 フリードは設計が古くなったものの、コンパクトサイズながらミニバンにとって必要な条件を満たしています。

 まずフリードの2列目シートは、人気の高いセパレートタイプのキャプテンシートが基本です。両側にアームレストが備わり、座り心地も快適。2列目シートの間が通路になって車内の移動もしやすく、3列目シートの乗員が2列目に移動してスライドドアから乗り降りできます。

 しかも一般的にキャプテンシートの価格はベンチシートよりも高いですが、フリードは逆で、キャプテンシートの6人乗りのほうがベンチシートを備えた7人乗りよりも安価なのです。

 シエンタにはキャプテンシートが用意されないため、コンパクトミニバンではフリードの優位性が際立ちます。

 フリードの3列目シートを格納する方法は、一般的な左右に跳ね上げるタイプですが、路面から荷室の床までの高さは480mmと低く設定されており、自転車を積む時も、前輪を大きく持ち上げる必要はなく、使い勝手が優れています。

 ちなみにシエンタの3列目シートは床下に格納するタイプです。フリードと違って、格納された3列目シートが荷室に張り出さず、スッキリと使えます。

 その代わり3列目シートを出し入れする時は、2列目シートも動かす必要があるため、2列目シートにチャイルドシートを装着すると使い勝手が悪化してしまうのですが、その点でフリードなら、2列目シートにチャイルドシートを装着しながら、少々狭いですが3列目シートに大人が座ったり、格納することも可能です。

 そしてフリードの販売が好調な背景には、N-BOXのヒットも影響しています。

 2022年度に国内で新車として売られたホンダ車のうち、37%をN-BOXが占めました。そこにフリードも加えると、ホンダ車全体の50%を超えるのです。

 N-BOXは2011年に初代モデルを発売してヒット作になり、2代目は2017年に登場してさらに好調に売れたことで、ホンダのブランドイメージは「コンパクトで実用的な背の高いクルマのメーカー」になりました。

 フリードはこのブランドイメージと親和性が高く、N-BOXとともに人気を高めているといえます。

 かつてのホンダは、天井の低いスポーティなクーペやハッチバックが主力でしたが、今は逆で、背の高い車内の広い軽自動車とコンパクトミニバンのメーカーになったのです。

 そうなると、3ナンバーサイズのミニバンを買うならトヨタのノア/ヴォクシーや「アルファード」で、ホンダはコンパクトなフリードという選ばれ方をします。

 コンパクトカーのフィットも、ガソリン車の価格はN-BOXと、ハイブリッド車はフリードと重複するため、この2車種にユーザーを奪われて売れ行きが伸び悩んでいます。

 このほか新車の納期の長期化も販売面で影響を与えました。

 販売店によると「フィットやヴェゼルの納期は約1年ですが、フリードとN-BOXなら半年程度に収まります」とのこと。納車が順調に進んでいることも、フリードの販売が好調な理由です。

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 フリードは、シートの配列や荷室の使い勝手といった商品力の高さや、ステップワゴンのサイズアップ、ホンダのブランドイメージの変化、納期の短さなど、いろいろな要因が重なって好調に売れています。

 フリードとN-BOXはそろそろフルモデルチェンジが近づいてことが予想され、日本国内の「N-BOX+フリード体制」はますます強化されるでしょう。