クルマのフェイスデザインを印象づけるフロントグリルですが、自動車メーカーにおいて、ブランドの顔としても位置付けられています。それでは、最新のフロントグリルにはどのようなデザインが採用されているのでしょうか。
メーカーはフロントグリルでブランドを構築。近年はワイド&ローを強調
昨今では自動車メーカーが新車を発表する際、機能や安全面のみならず、フロントグリルのデザインについてもなにかと話題になります。
こうしたユーザーの反応は売上に大きく関与するため、各社ともグリルデザインに力を入れ、クルマの個性を際立たせようとしています。
そもそもフロントグリルとは、クルマ前面のヘッドライトの間にあるパーツです。車体前方にあるラジエーターを保護すると同時に、ここから外気を取り込むことでラジエーターを冷却し、最終的にはエンジンの冷却をサポートするために配置されます。
そんな役割を持つフロントグリルは、車体を前から見た大部分を占めることから、クルマの印象を大きく左右する外装デザイン上でも重要なパーツでもあります。
とくに近年では、ラインナップ中でこのフロントグリルのデザインを統一することで、よりブランドイメージを強調する動きが出てきました。
たとえば、日産の「Vモーショングリル」があげられます。このグリルは、エンブレムを力強いV字型フレームで囲むデザインが特徴的で、日産はこのデザインを採用したモデルを増やすことで、ブランドの個性を演出しています。
ほかにも、レクサスのフロントグリルは糸巻き型の「スピンドル」というデザインです。トヨタ車と差別化するために2012年から採用されており、レクサスというブランドを印象付ける特徴的なグリルになっています。
実は、このようにフロントグリルを統一してブランドを強化する戦略は、以前から外国の自動車メーカーで行われていました。
例えば、BMWは、ブランドを象徴するデザインとして、肝臓(キドニー)型の「キドニーグリル」を1933年から採用しています。さらにボルボでは1966年より、製鉄を表す円と矢印のエンブレムを組み合わせた四角いフロントグリルのデザインに統一しています。
日本では2010年代に入ってから、レクサスなど欧州で展開するブランドがフロントグリルで個性を主張する戦略を展開。それを追うように、国内ブランド車も独自のデザインを競うようになりました。
また、その間にフロントグリルの形状も変化しています。
大きな流れでいうと、クルマのスタイリングにおいてワイド&ロー設計がトレンドとなるとともに、グリルも大型化しています。その結果、ほとんどの車種のフロントグリルも合わせてワイド&ローを強調するようなデザインとなりました。
また、国内市場では機能に関係なく大きなフロントグリルが好まれる傾向があるようです。
2022年のトヨタ新型「ノア」発売時には、フロントフェイスのほとんどがグリルというデザインが話題になりました。
グリルのトレンドは「ワイド&ロー」から「縦型」デザインに移行?
こうした流れのなかで、近年は縦型デザインのグリルも登場しています。
2022年に発表されたトヨタ新型「クラウンセダン」は、ブラックの縦バーが強調されたグリルを採用されており、高級車らしい威厳ある印象を持たせました。
また、ホンダが2023年4月に発売した新型SUV「ZR-V」も、グリルは縦型のデザインです。北米仕様や中国仕様とも異なり、凛々しい印象です。
従来のグリルではワイド&ローを強調するようなデザインが多いなかで、ZR-Vに縦グリルのデザインを採用した経緯や背景について、ホンダ広報部の担当者は次のように話します。
「ZR-Vのフロントグリルを、垂直という意味の『バーチカルグリル』と呼んでいます。洗練された表情を作り出すため、このデザインを採用しました。
バーのひとつひとつにしっかり面を感じさせることで、楕円体の先端を切り落としたようなイメージを創り出し、フロントビューのみならずサイドビューにおける連続感も感じられるデザインになっています」
また、グリルなどのフロントマスクにはどのような意図がありデザインを決めているのかについて、前出の担当者は次のように話します。
「各車種のコンセプトに基づいて、それを表現できるフロントマスクを設定しております。
今回のZR-Vでは『異彩解放』というグランドコンセプトのもと、デザインに関しては『エレガント&グラマラス』や『シンプル』という共通キーワードを設け、シンプルでありながらも強さと美しさを表現しました」
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フロントグリルは、クルマの顔つきを決める重要なパーツであり、各メーカーが車種に合わせたコンセプトやブランドを表現するうえで、フロントマスクは大きなポイントとなります。
今後は、電気自動車の普及によってフロントグリルや車体の形状が変化する可能性もあることから、各メーカーのブランド構築における新たなデザイン展開にも期待していきたいところです。