「富士SUPER TEC 24時間レース」が開催されたました。28号車「ORC ROOKIE GR86 CNF concept」/61号車「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」はどのような走りを見せたのでしょうか。

2回目の富士24時間耐久レース…どんなドラマがあった?

 2年目となった「カーボンニュートラル燃料を使用したGR86/SUBARU BRZの次世代モデルの先行開発を、スーパー耐久シリーズの場で公開しながらガチンコで行なう」と言う取り組み。
 
 2023年シリーズ第2戦は、5月26日-28日に開催。スーパー耐久シリーズで最長の「富士SUPER TEC 24時間レース」ではどのような戦いが繰り広げられたのでしょうか。

 その直前、5月23日に「S耐ワイガヤクラブ」のホームページが開設されました。

 これはST-Qクラスに参戦するメーカー系チームが「レースで得た知見を市販車へフィードバック」、「若手エンジニアの育成」、「次世代技術の実証実験」などを、メーカーの垣根を超えて一緒に取り組むグループです。

 富士24時間には、トヨタ、スバル、マツダに加えて、ホンダ(HRC)、日産(NISMO)の実験開発車両が参加。

 これらのモデルには「共挑 ST-Q Challenger」のステッカーが貼られます。

 ちなみにこのS耐ワイガヤクラブの名はTeam SDA Engineering本井雅人監督の案が採用されています。

 2台の話に戻りますが、2022年の富士24時間は28号車「ORC ROOKIE GR86 CNF concept」/61号車「Team SDA Engineering BRZ CNF Concept」共に完走はしましたが、途中で様々なトラブル・課題が生まれ、決して満足いく結果ではありませんでした。

 2回目となる挑戦では、どのようなドラマが生まれたのでしょうか。

 1か月前となる2023年4月28日に行なわれた公式テストではGR86 CNF concept/BRZ CNF Concept共に良い感触だったようですが、その後も着実にアップデートが進められていました。

 GR86 CNF conceptですが、テストデーで装着されていたブレースと新構造のスタビライザーなどはそのままです。

 これはテストでの結果が良かったと言う証明でもあります。ドライバーからも「アクセル踏んで曲がれるクルマになっている」、「信頼できるクルマになりつつある」と言う評価になっています。

 パワートレインは大きな変更はないようですが、いくつか選択できるエンジンのECUマッピングを、予選は「出力重視」、決勝は「燃費重視」の制御で走るそうです。

 トランスミッションは2022年の富士24時間以降スバルと一緒に様々な対策を行なってきましたが、今回のマシンにはシフト操作時にドライバーのクラッチ操作とエンジン制御を連携、負荷をできるだけ下げるようにしています。

 ドライバーは監督も務める大嶋和也選手、豊田大輔選手、トヨタ社員ドライバーの加藤恵三選手/佐々木栄輔選手に加えて、第1戦は欠場だった山下健太選手、2022年に続く助っ人ドライバーの関口雄飛選手の5名体制です。

 一方のBRZ CNF Conceptもテストデー装着されていた剛性バランスを変えたBBSホイール、サブフレームの構造などはそのままです。

 サスペンションのセットアップも2023年のテーマである「プロとジェントルマン、誰でも操れるマシン」の方向性が見えてきたようです。

 これに加えて、今回はスバルらしい2つの進化が発表されました。

 ひとつは「運転支援デバイスをモータースポーツで鍛える」です。

 具体的にはアイサイトを用いたデジタルフラッグ検出とSRVD(スバル・リア・ビークル・ディテクション)の活用です。

 どちらも一新されたフル液晶メーター(MOTEC製の試作品)に表示されるそうですが、ドライバーの負担を軽減させるアイテムとなります。

 もう1つは「車両データ監視AI活用トライ」です。

 従来のデータ解析ではレースのスピード感に対応できなかったのですが、このシステムを活用すると一瞬で可視化(従来:数時間、今回3分程度)。

 それに加えて、異常も自動で検知する技術も導入されているそうです。

 ドライバーは富士24時間の前週にドイツ・ニュルブルクリンク24時間を戦ってきた井口卓人選手/山内英輝選手。

 さらにスバル社員ドライバーの廣田光一選手/伊藤和広選手のレギュラードライバーに加えて、助っ人ドライバーとして鎌田卓麻選手/佐々木孝太選手の5名体制です。

24時間レース、予選から決勝…どんな感じ?

 26日(金)に行なわれた予選はA+Bドライバーの合算タイムで決まりますが、GR86 CNF conceptは3分50秒389(A:加藤選手1分55秒647、B:山下選手1分54秒742)。

 BRZ CNF Conceptは3分54秒059(A:廣田選手1分58秒063、B:山内選手1分55秒996)となりました。

 GR86 CNF conceptが約3.6秒上回っていますが、どちらのマシンもプロとジェントルマンのタイム差が少なくマシンの仕上がりは良さそうです。

 GR86 CNF conceptの予選の速さは以前から定評がありますが、燃費が優れるBRZ CNF Conceptは決勝でどう巻き返すのでしょうか。

 ちなみにこの2台に拮抗するタイムを刻んているのが、同じST-Qクラスに参戦するTeam HRCの「CIVIC TYPE R CNF-R」とMAZDA SPRIT RACINGの「MAZDA 3 Bio Concept」の2台です。4台の「協調と競争」も気になる所です。

 決勝は27日(土)の15時スタート。ここから24時間レースの戦いが始まります。

 序盤は大きな混乱もなく、クリーンなレースが進みます。天気は予選日から好転に恵まれ、気温は15度から23度とドライバーだけでなく観戦するファンも過ごしやすい環境です。

 序盤からGR86 CNF concept/BRZ CNF Conceptは抜きつ抜かれつのバトルを続けますが、ここに割って入るのがMAZDA 3 Bioです。

 丸本社長(記事公開時点)は「我々もGR86とSUBARU BRZと同じ土俵でガチンコ勝負をしたい」と投入したマシンですが、2戦目にして速さが格段とアップ。

 更にディーゼルの燃費の良さを活かして2台をピッタリマーク。両チームから「マツダ3の速さに驚きました、要注意ですね」と言う声も。

 コース上は夕方までは比較的平穏でしたが、夜間に移行する時間帯にコースではアクシデントが発生。

 クラッシュ車両の散らばった部品の回収のためにFCY(フルコースイエロー)やセーフティカー(SC)が出動。

 その間も、GR86 CNF concept/BRZ CNF Conceptは順調に走行を続けます。

 最初に異変があったのはGR86 CNF conceptで、アクセルペダルに不具合が発生。

 しかし、緊急を要する物ではなくピットインのタイミングで修理を行ないましたが、若干のタイムロス。この間にBRZ CNF Conceptが先行します。

 更に28日(日)へと日付が変わった頃にBRZ CNF Conceptにアクシデントが発生。

 前を走るマシン(ST-4)がコースを横切った小動物と接触。そのマシンはピットへ戻る途中に自ら漏らしたオイルでコントロールを失い、あろうことかBRZ CNF Conceptに接触。

 ドライバーの佐々木選手は車両を立て直しそのままピットイン。メカニックは接触部(右リア周辺)の修復や曲がってしまった足回りを素早く修理。大きなロスなくコース上へ送り戻しました。この間にGR86 CNF conceptが前に出ます。

 その後は、2台共に何もなかったかのように順調に走行を重ねます。

 2022年、暗く作業性の悪いリペアエリアでミッション交換を行なった時間帯も順調に走行を続けますが、ダンロップコーナー付近で別のマシンによる大きなクラッシュが発生しSCが出動。

 クラッシュしたマシンは2台の影のライバル・86号車TOM’S SPRIT GR86で、上位クラスのマシンの強引な追い抜きの時に当てられたと言います。

 マシンはフロント部分が大破しましたが、ドライバーの松井孝允選手は無事で一安心。

 しかし、クラッシュパットの修復などを含めた安全確認作業が予想以上に長引くことから、レースは赤旗中断となりました。

 ここから約2時間、コース上は静寂に包まれ、観客も一休みです。

 午前5時にレースが再開。この時点でGR86 CNF conceptとBRZ CNF Conceptの差は約2周。

 BRZ CNF Conceptは井口選手/山内選手による追い上げを試みるもその差は縮まることはなく、午後3時にチェッカーフラッグを受けました。

 GR86 CNF conceptは640周を走って総合22位(ST-Qクラス2位)、BRZ CNF Conceptは638周を走って総合23位(ST-Qクラス3位)と言う結果でした。

 もちろん、勝ち負けと言う意味ではGR86 CNF conceptの勝ちですが、2022年と違うのは2台共に致命的なトラブルはなく24時間(厳密には赤旗中断があったので22時間)走り切っての結果と言う所でしょう。

 ちなみに2022年の周回数は途中中断なしの24時間でBRZ CNF Conceptは624周、GR86 CNF conceptは609周でした。

2回目の24時間レースはどうだった? 2人のキーマンに聞いてみた!

 レース後、両チームのキーマンに話を聞きました。

 まずはGR86 CNF conceptの開発責任者・藤原裕也氏です。

―― 最後までドキドキでしたが、ゴール後の清々しい笑顔が今回のレースを総括しているように感じました。

 藤原:皆が一生懸命やってくれた事もありますが、細かいトラブルはありましたが、24時間止まることなく走れたので、素直に「よく走ってくれたな」と。

―― 2022年の富士24時間で悔しい想いをしてから1年、1つの結果が出たと思います。

 藤原:マシンの課題やチームビルドなど、クルマも人も「手を入れてない所がない」と言うくらい手を入れてきた結果、速さと強さも見せることができました。

―― 速さと強さに加えて、2022年ドライバーから言われていた「乗りやすさ」についてはどうでしたか。

 藤原:レースウィークを通じて良い方向だったと思います。

 大嶋監督からも「去年は本当に乗りにくかったけど、ようやく乗れるようになってきた」と言われましたよ。

―― このプロジェクトは次期モデルの先行開発も兼ねていますが、感触はどうですか。

 藤原:データもかなり蓄積できました。

 今回の結果も大事ですが、我々の使命は「お客様に提供する」ですので、耐久性を示せたことも非常に大きいですね。

――極限の環境で24時間走り切ったことで、次のステップに進み始めるわけですね。

 藤原:まさにその通りで、我々としては大きな一歩だと認識しています。

 ただ、ゴールはまだ先なので今後も止まることなく、進化させていきます。ありがとうございました。

 続いて、BRZ CNF Conceptのチーフエンジニア・竹内源樹氏に総括を聞いてみました。

――シッカリと走り切ったものの、「GR86との戦い」と言う部分はレースウィークを通じて悔しさがあったと思います。

 竹内:我々エンジニアとしては、クルマをトラブルなく24時間走らせた事、更にドライバーに「我慢してくれ!!」と言う状況を作らなかった事はしっかりとできたかなと。

――2022年はプロドライバーと社員ドライバー(=ジェントルマン)とのタイム差が少ないマシンづくりを行なってきましたが、その辺りはどうでしたか。

 竹内:タイムのバラつきも少なく全員がコンスタントに走れるようになったことは、特に若手にとっては自信になったものの、その一方でその土台に立った中で、新たな「悔しさ」が生まれたのも事実です。

――2022年は接触のアクシデントがありましたが、24時間ほぼトラブルフリーで走り切った事は、「2年目の進化」と言えると思います。

 竹内:実際走り切れたから言える事だと思いますが、結果としてはその通りだと思います。

――このレースでも様々なトライをしていたと思いますが、想定内/想定外の結果は出たのでしょうか。

 竹内:まだ分析をしてみないと解りませんが、2022年は全く解らない中でのトライだったのに対して、2023年はある程度解っている中でのトライなので、前に進んだのは間違いないと思います。

 ただ、走り切ったから言えますが、安全サイドに考えすぎていた部分もあったので、そのあたりは今後に活かします。

――GR86もトラブルフリーだったので、我々としては本当の意味での「24時間バトル」を見させてもらいました。

 竹内:そこに関しては「悔しい」の一言ですね。

 チームを運営する立ち回りの人間としては、若いエンジニアにこの悔しさを感じて次のステップに繋げてほしいです。

 私もモータースポーツをずっとやっていますが(竹内さんは全日本ラリーに参戦中)、ここでの知見は本当にクルマづくりの勉強になっています。

――24時間は終わりましたが、シーズンは続きます。ただ、本当のゴールは「量産モデルへのフィードバック」です。

 竹内:もちろん、その辺りは皆考えている部分です。

 我々はレースだけやっているのではなく量産開発が本業なので、ここで得たモノをそれぞれの持ち場で活かすことが、次世代の「スバルらしさ」に繋がると思っています。ありがとうございました。

※ ※ ※

 このように両チーム24時間を走り切ったことで、次に向けた「何か」がうっすらと見えてきたように感じました。

 ちなみにこのプロジェクトはGR86/SUBARU BRZの次世代モデルの先行開発ではあるものの、まだトヨタ/スバル共に次期モデル開発の正式なGOサインは出ていません。

 ただ、それを匂わす発言をした人が1人だけいました。

 それはROOKIE Racingのオーナー兼ドライバーであるモリゾウ氏です。氏は次のように述べています。

「昨年より30周以上多い周回数を重ね、次期モデルチェンジへ弾みをつけてくれました」

 次回第3戦は7月8日-9日に宮城県のスポーツランドSUGOで開催されます。

 約1か月のインターバルがありますが、マシンは富士での知見を元にどのような進化を見せるのでしょうか。こちらも楽しみです。