ホンダがかつて国内で1999年に販売していた「アヴァンシア」は、現在に通じる新しい発想でつくられた高級ワゴンモデルでした。初代アヴァンシアの先見性の高さについて、改めて紹介します。
ワゴンと高級車を融合した初代「アヴァンシア」
2023年8月、中国でホンダが「アヴァンシア(冠道)」を発表しました。
アヴァンシアといえばかつて日本で販売されていた、個性的な高級ステーションワゴンモデルの車名でした。どのようなクルマだったのかを振り返ります。
ホンダと中国広汽集団の合弁会社「広汽本田」は、2023年8月に新型アヴァンシアを発表しました。
2016年に中国市場に登場したアヴァンシアの改良モデルにあたります。
高出力を誇るパワートレインや高級感あふれるインテリア、力強いフォルムを持つクーペSUVで、同社のフラッグシップSUVとしても位置付けられています。
なお中国でのホンダには、東風汽車と本田技研工業が合弁で設立した「東風本田」もあり、こちらにはアヴァンシアの兄弟車「UR-V」が販売されています。
ところでアヴァンシアという車名は、ホンダとしては2度目の使用となります。
初代アヴァンシアは、1999年から2003年まで日本国内で販売されていたので、むしろ、アヴァンシアが中国で復活しており、しかもその「2代目」がSUVになったことに驚きを隠せない人も多いのではないでしょうか。
というのも、クーペSUVの2代目と、ステーションワゴンだった初代とでは、まったくコンセプトやフォルムが異なっているからです。
当時のホンダには「アコードワゴン」も存在していましたが、初代アヴァンシアは、それよりも車体が大きな上位モデルとして誕生しました。
初代アヴァンシアの特徴は、セダンの派生モデルとしてのステーションワゴンではなく、ステーションワゴン専用車でありつつ、高級車でもあったことです。
プラットフォームには、ミドルセダン「アコード」「インスパイア」や、ミニバンの「オデッセイ」に使われれる、同社としてはラージクラスの土台が共用されていました。
特に今振り返ると、当時の2代目オデッセイとの近似性が強く感じられるところです。
ステーションワゴンといっても、こうしたミニバンとの中間的なフォルムや、円弧を描くルーフラインが斬新なシルエットを作り出しており、ホンダではこれを「4ドアクラブデッキ」と称していました。
後端まできっちりと伸ばしたルーフは、個性的な3ドアハッチバックモデル「アコードエアロデッキ」をほうふつとさせる面も。
また、オートマチックのシフトノブをダッシュボードにビルトインして、前席の左右ウォークスルーを可能としていたことも、ミニバン的な設計と言えました。
この広いスペースを持った「ステーションワゴン型高級車」という、これまでにない意欲的なコンセプトは、ホンダの抱いた新たな高級車像への提案といえます。
ホイールベースは2790mmと長く、全高も当時としては高めの1500mmに設定したこと、車体をステーションワゴン型としたことで、高級セダン以上の広い室内を実現していたのです。
特に、後席パッセンジャーの居住性向上には留意が払われており、リムジンもかくやという広大な足元空間、スライドやリクライニングを可能とした大柄なリアシート、格納式のテーブルも備えていました。
かつリアシートは6:4の分割可倒式とされ、ステーションワゴン型フォルムと相まって、セダンでは得られない積載性をも獲得していました。
一般的にステーションワゴンでは、その広さを実用性に生かすことが多いのですが、初代アヴァンシアでは、高級車にふさわしい車内を作り上げるための「ゆとり」に多くを割いていたのです。
エンジンは、ホンダのハイエンドモデルらしく、性能に余裕のある2.3リッター直列4気筒と3リッターV型6気筒エンジンを搭載。
駆動方式は2.3リッターがFFと4WD、3リッターはFFのみ(のちに4WDも追加)。トランスミッションはそれぞれ4速AT・5速ATが用意されていました。
これはもはや「オデッセイSUV」! 20年以上も前から誕生していた高級SUV仕様も
4WDモデル「アヴァンシア V-4」は、シリーズのなかでもひときわ個性的なモデルでした。
オーバーフェンダー、ルーフレール、大径タイヤ、アップした地上高などにより、現代でいう「クロスオーバーSUV」的な姿に仕立てられていたのです。
これは現在、世界的に普及している高級SUVの先駆け的存在ともいえます。
ステーションワゴン型高級車という大胆かつ斬新なコンセプトの初代アヴァンシアですが、肝心のコンセプトが少々難解だったために市場では受け入れられず、売れ行きは低迷しました。
シックで高品位なインテリアは自慢だったものの、メッキの大型グリルや加飾といったわかりやすい高級を表現した外観デザインではありません。
こうした高級感やフォーマル感が外観からあまり感じられなかったことも、不振の原因につながりました。
そこでホンダは、2001年にキャラクターの転換を敢行しています。
ボディ下部にスポイラーを配し、専用チューニングのサスペンションを組み込み、車高も15mm落として走行性能をアップしたスポーティグレード「ヌーベルバーグ」を追加。以降は、このグレードが販売の主力となりました。
ほぼ同時期、オデッセイがスポーティな仕様の「アブソルート」を追加設定し好評を博していましたが、同様のスポーティ路線を目指したのです。
しかし、それでも初代アヴァンシアの販売は苦戦。
2003年には、初代アヴァンシアのコンセプトを引き継いだように車高が低い3代目「オデッセイ」が登場したことで、残念ながら生産を終了してしまいました。
同じ頃の2000年、ホンダは初代「ストリーム」を発表しています。
ストリームもステーションワゴンとミニバンの中間的なクルマでしたが、5ナンバーサイズのコンパクトな3列シートモデルというわかりやすいコンセプトを掲げていたために大ヒット作に。
ライバルのトヨタに、フォロワーモデルの「ウィッシュ」を作らせたほどです。
日本には「大は小を兼ねる」という言葉があるように、いざというときに多人数が乗れる3列シートのクルマは、常に人気を保っています。
そのため、ミニバン風の大柄なボディで2列シートが売れにくかった土壌もありました。
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近年では、トヨタ「アルファード」などの高級ミニバンが「広さを高級車に必要なゆとりの空間に変換する」ことを売りにして、エグゼグティブに愛されています。
そのコンセプトを20年以上も前に具現化した初代アヴァンシアの先見性に、改めて驚かされるところです。