京都大ウイルス・再生医科学研究所はこのほど、再生医療用のES細胞(胚性幹細胞)をストックする計画の本格始動を表明した。本年度中に医療機関へ分配を始めるといい、日本の再生医療に新たな選択肢が加わった形だ。会見した末盛博文准教授は「ES細胞とiPS細胞(人工多能性幹細胞)はよく似た性質で、どちらが再生医療に適しているかは未解明」と解説。二つの幹細胞を合わせて研究する重要性を強調した。

 ES細胞は、不妊治療の際にできた受精卵の中から廃棄が決まった胚を使って作る。子宮に戻せば個体になり得る胚を利用するため、ES細胞を使った研究には規制が多く、日本の再生医療研究者は比較的規制の緩やかなiPS細胞研究に流れてきた。今回のES細胞のストック計画も、iPS細胞の研究に合わせ再生医療に関する法整備が進んだことが背景にある。

 だが、研究の進展につれて、iPS細胞の技術面での特色が薄れてきつつあるのも事実だ。

 iPS細胞は当初、ES細胞と違って患者自身の細胞から作れるため拒絶反応が少なく、利点があるとされた。しかしコストや時間がかかるとして、拒絶反応の起こりにくいタイプの他人のiPS細胞を使う方向にシフト。必ずしも拒絶反応の起こりにくいタイプを使う必要はないと考える研究者もおり、結果としてES細胞との違いはなくなりつつある。また、海外ではES細胞の再生医療への応用が先行しているという指摘も多い。

 ただ依然として、倫理面から受精卵を使うES細胞に抵抗を示す声は根強い。京都大の山中伸弥教授も先月下旬の京都新聞の取材に「受精卵の利用は最小限にするべきだ。10年前も今も強く思っている」と強調。iPS細胞と比較するためにもES細胞の研究の必要性は認めつつ、不必要な使用には抵抗感を示した。

 一方で同研究所に受精した胚を提供する足立病院(京都市中京区)の中山貴弘副院長は、「病院では年間600個くらいの受精した胚を廃棄している。できるならES細胞などに使ってほしいと望むカップルは多いのではないか」と話す。ES細胞の是非を論じるには、不妊治療が定着している現状も見据えるべきという。

 二つの細胞のいずれを使うのが望ましいのか。技術面でも倫理面でも結論は容易には出ない。再生医療が現実味を帯びる中、今回の計画開始をきっかけに、二つの細胞の特質を見極める知見の積み重ねを期待したい。