京都国立博物館は7日、京都市左京区の天台宗門跡寺院・曼殊院の国宝「絹本著色(けんぽんちゃくしょく)不動明王像」(黄不動、縦167センチ、横80センチ)で、仏画を描く前に絹を清める「御衣絹加持(みそぎぬかじ)」の痕跡を初めて確認した、と発表した。水で仏の姿を描く儀式で、作品の修復作業中に赤外線撮影したところ、不動明王の腹部に下絵となるもう一体の不動の姿が浮かび上がった。平安時代の仏画の制作過程や、信仰対象として描かれたことを示す貴重な発見という。

 曼殊院の黄不動は、三井寺(大津市)の秘仏「黄不動像」(国宝)を12世紀に模写したとされ、筋肉質のたくましい不動を正面から描いている。確認された下絵は、手のひらサイズだが、体形や衣の表現などは作品と同様だった。加持の導師が筆でなぞるよう、目立たない薄墨を用いたとみられる。

 仏画や仏像は材料も清浄でなければならないとされ、「御衣絹加持」は、仏画制作前に絹などを清める儀式。天台密教の史料や、平安後期の公家の日記「兵範記(ひょうはんき)」などに記され、絵師や導師が、これから描こうとする仏の姿を清めた水で絹に描いた。仏像ではのみを入れる所作を木の表面に行ったとされる。

 作品全体で損傷が進んだため、国庫補助の修復事業を2013〜14年度、同博物館の工房で実施。岡墨光堂(京都市中京区)の担当技師が裏打ちした和紙を全て剥がし、作品裏面の状態を確認中に見つけた。

 「御衣絹加持の痕跡は残りにくく、非常に驚いた」という同博物館の大原嘉豊・保存修理指導室長は「美術品と見られがちな仏画も本来、信仰の対象として作られたとあらためて思い知らされた」と語る。曼殊院の松景崇誓執事長は「黄不動は一番大切な信仰のよりどころ。細やかな加持だったと分かり、ただただありがたい」と話している。

 黄不動は非公開だが、10月31日〜11月26日、同博物館の特別展覧会「国宝」で公開される。