今年のノーベル化学賞に、京都大工学部出身で旭化成名誉フェローの吉野彰氏が選ばれた。

 昨年、医学生理学賞を受賞した本庶佑・京都大特別教授に続き、2年連続の日本人受賞である。しかも再び京都ゆかりの研究者による快挙となったことに心から拍手を送りたい。

 スマートフォンなどに広く使われるリチウムイオン電池を開発し、現在の情報化社会を支えたと評価された。米国研究者2氏との共同受賞である。

 リチウムイオン電池は何度も充電して使える高性能の蓄電池。吉野氏は1980年代、基本的な構成を確立し、90年代以降のIT関連技術の普及につながった。

 近年の化学賞は、実用的で社会貢献につながる研究が選ばれる傾向にある。今回の受賞は、その最たるものといえよう。ここ数年は、毎年のように受賞候補に名前が挙がっていた。

 見逃せないのは、この技術が地球温暖化対策の切り札として脚光を浴びていることだ。電気自動車やハイブリッド車、家庭用の蓄電池の用途が伸びるとみられる。

 吉野氏の研究の源流は、日本で初めて化学賞を受賞した京都大名誉教授の故福井謙一さんにあるという。福井さんに憧れて京大に学び、古典的な化学の理解の大切さをたたきこまれた。

 連綿と受け継がれる京都の「知の土壌」が誇らしい。世界的な人材を生み出す自由な研究環境を今後も大事にしてほしい。

 新しいアイデアは「ほわーっと思いつく」という吉野氏。研究者が余裕を持って「面白い」と思うテーマに打ち込めることが何より大切だと教えてくれる。

 しかし、国内の若い研究者を取り巻く環境は厳しさを増している。とくに2000年以降、自然科学分野で受賞ラッシュが続く一方で、研究基盤の危機が指摘されるようになった。

 論文の数が減り、研究資金が伸び悩んでいる。90年代に多くの企業の中央研究所が閉鎖され、国立大学法人化が追い打ちをかけた。

 ノーベル賞を受賞した日本人が、会見で日本の基礎研究の現状を嘆く。そんなことが近年、恒例のようになっているのは残念だ。

 「私たちの生活に革命をもたらし、人類に偉大な貢献をした」―。今回の受賞はそうたたえられた。日本の科学技術が果たす役割の大きさを感じる。

 今回の受賞を、社会全体で若い研究者を支えるような土台をつくり直すきっかけにしたい。