歴史ある茶葉の産地ではあるが、生産量の少なさから認知度が低迷していた「八女茶」。今や、「八女伝統本玉露」が全国茶品評会で日本一の称号「産地賞」を20年連続で獲得し、海外でのデモンストレーションを開催するに至るまでの経緯と今後の展望を、八女茶技術員代表の椎窓孝雄氏に聞いた。

歴史ある茶葉の産地ではあるが、生産量の少なさから認知度が低迷していた「八女茶」。今や、「八女伝統本玉露」が全国茶品評会で日本一の称号「産地賞」を20年連続で獲得し、海外でのデモンストレーションを開催するに至るまでの経緯と今後の展望を、八女茶技術員代表の椎窓孝雄氏に聞いた。

日本一の称号、全国茶品評会の「産地賞」と「農林水産大臣賞」

日本茶の日本一とはどういうことなのか。歴史、生産量、消費量、希少性、認知度などさまざまな基準があるだろう。「八女伝統本玉露」が日本一であるというのは、全国茶品評会で最高賞である「産地賞」を20年連続、生産者個人が表彰される「農林水産大臣賞」を7年連続して受賞しているという事実に依拠している。

2020年、第74回全国茶品評会褒賞授与式で表彰された八女茶の関係者

もともと日本茶葉の産地であった福岡県八女地域は、生産量も少なく認知度も低かった。日本国内での1人当たりの緑茶の消費量、購入金額ともに縮小していくことが想定された状況のなか、八女茶技術員が目指したのは、日本一の称号を獲得し、海外マーケットへの進出を見越したブランディング戦略だった。

鮮やかな緑が美しい「八女伝統本玉露」の茶葉

生産量が限られる産地から日本一を目指すために、茶葉は高級茶としての知名度が高い玉露に絞り込むことに。各地の有名な茶園を訪ね、教えを請うたが、門前払いされることも。それでも諦めずに何度も訪問し、栽培方法から加工方法についてまでを一つ一つ学んでいく。時には八女の茶葉を持参することもあったという。

全国茶品評会に出品される「八女伝統本玉露」の木は機械で刈り込まれず、自然に枝を伸ばしている

その頃、京都で玉露作りに勤しみ、「農林水産大臣賞」を幾度も受賞していた山下壽一氏が、「ただの競争ではなく、教え合いながら技術を高め、競い合いたい」と、八女の技術員たちの熱意に応えてくれたという。栽培方法や機械の操作などはマニュアル通りにできるものではなく、そのときの気象条件や茶葉の生育状況に合わせ、また香りや触り心地などの感覚に頼る部分も多い。八女の技術員たちは、それぞれの工程で茶葉に触れることで、その感覚を体で覚えていった。そうして得た知識と技術を礎に、八女の玉露は日本一の称号を獲得していくことになる。

八女茶技術員の仕事

今回、話を聞いた八女茶技術員代表の椎窓孝雄氏は、長年、八女茶の品質向上に尽力してきた人物。椎窓氏をはじめとする八女茶技術員たちは、八女の土地に合った品種選びから、剪定(せんてい)や刈り取りなどの栽培方法、収穫した茶葉を蒸し、揉捻する加工方法を、長年研究し続けている。

八女茶技術員代表の椎窓孝雄氏

玉露栽培は、日光を遮ることで甘味や旨味を増やす特徴的な栽培方法を取る。遮光には取り扱いの簡単な化学繊維のネットを使う地域が多いが、八女では昔ながらの稲わらにこだわる。稲わらは手間がかかるが、適度な湿度と温度をキープできるからだ。茶樹を直接覆わず「棚をつくる」、枝葉を刈らずに伸ばす「自然仕立て」、わらなどの「天然素材」を使い、機械を使わず「手摘み」するという伝統技法を守って生産されたものが八女伝統本玉露となる。栽培条件が難しい「さえみどり」を栽培し、手間と愛情をかけて収穫まで手を入れ続ける生産者の努力と苦労無くして日本一は実現しないのだ。

手摘みされた茶葉を蒸し、冷却し、揉み、乾燥させるのは技術員の仕事。彼らが茶葉の仕上げをして品評会に出品するが、記録には生産者の名前しか記載されない。「それでも自分が関わった茶葉が高評価を受けると嬉しい」と、縁の下の力持ちである椎窓氏は話す。

また、品種改良を行うのも技術員たちだ。山間に多い栽培地の管理技術を高めるため、ITを駆使し、カメラを使った観察などの研究に取り組んでいる。経験や勘だけでなく、データも活用して品質の向上に努め、生産農家をサポートしているのである。

八女茶試験場での品種改良の様子 / 栽培方法の研究用茶畑に設置されたカメラと計測機器
八女茶試験場での品種改良の様子 / 栽培方法の研究用茶畑に設置されたカメラと計測機器

八女伝統本玉露の海外戦略

2016年から、八女伝統本玉露のブランディングが本格的にスタートした。日本一の証しである産地賞を15年連続で受賞し、すでに揺るぎない地位を確立していたが、ブランドとしてはまだ認知されていなかったからだ。

国内での認知度を上げるために、海外からも認められる必要があると考え、外国人が苦手とする日本茶の生臭さと雑味を抑え、旨味と甘味を引き立てる味を追求。栽培や製造のみならず、入れ方にもこだわり、ゆっくりと時間をかけ、一連の流れを楽しみながら一杯のお茶を飲むというエンターテインメントに昇華させた。

椎窓氏の念願だったジョエル・ロブション氏へのプレゼンテーション 
椎窓氏の念願だったジョエル・ロブション氏へのプレゼンテーション 

こだわりの玉露を、フレンチの巨匠として世界に名だたる名シェフ、ジョエル・ロブション氏にプレゼンテーションをした際には、シェフ自らが椎窓氏の所作をスマートフォンで撮影したという。それまで、日本茶といえば苦味・渋味の強い抹茶や煎茶のイメージが強かったシェフにとって、旨味と甘味が際立つ繊細な味の八女伝統本玉露は大きな驚きであり、また深く興味を引かれたのだろう。この出会いは椎窓氏にとって、何よりも嬉しく思い出深いものとなったという。

ロブション氏のサポートもあり、香港、ニューヨークにある氏のレストランでのイベントを、また八女独自の企画でサウジアラビア、福岡、東京でも外国人向けのプレゼンテーションを開催し、成功を収めてきた。現在、ロブション氏の息子であるルイ・ロブション氏とのコラボレーション企画も進行しているという。

電子秤と玉露専用茶器を使って八女伝統本玉露を入れる
八女伝統本玉露のために作られた玉露専用茶器(茶葉とセットで販売されている)

新しい日本茶の楽しみ方

玉露は小さい急須に、湯冷ましで温度を調整したお湯を注ぎ、また湯冷ましにあけて濃度を均一にしてから、澱を残して湯飲みに注ぐ。お湯の温度だけでなく、茶葉を0.1g単位で、お湯も1g単位で量って入れることがおいしく入れるポイントだという。特注の玉露専用茶器で入れた八女伝統本玉露を、初めて口に含んだときの驚きは表現し難い。日本茶にある渋味や雑味が一切なく、まるで出汁のように旨味だけが際立つのだ。時間をかけ、ゆったりとお茶の香りと旨味を味わうのは、なんとぜいたくな時間だろう。

お茶を入れた後の茶葉に、岩塩やポン酢をつけて食べると爽やかな香りが広がる。柔らかく、青菜のおひたしのようでもあり、箸が止まらなくなる味だ。箸休めや酒のあてとしてもおいしい。

お茶を入れた後の玉露の茶葉は、歯に柔らかく爽やかな味が口に広がる

また、水出しした八女の煎茶に炭酸を充填した「八女煎茶スパークリング」は、鮮やかなもえぎ色が映えるシャンパングラスで楽しむのがしっくりくる。八女ほうじ茶をふたなしの急須に入れ、熱湯を注いで40秒蒸らして抽出し、氷を満杯に詰めたジャグに入れて一気に冷やしてもおいしい。「和食だけでなく、ジビエ、キノコ、根菜、栗、チョコレートなどにも合わせたい。ソルベの代わりに口の中をリセットしてくれるので、洋食にもお薦めしたい」と椎窓氏が教えてくれた。

「八女煎茶スパークリング」と「八女ほうじ茶氷締め」はグラスがよく合う

今後の展開として、急須でお茶を入れることが容易ではないレストランやパーティー用にボトリングティーのバリエーションの可能性を探ったり、国内外のシェフとコラボレーションして料理との最高のペアリングを提案したり、また八女茶を使ったカクテルも楽しめるティーサロンを開催するなど、ブランディングのアイデアは尽きない。また、八女茶だけでなく、各地の茶葉との飲み比べなど、日本茶の楽しみ方を国内外にアピールするイベントも開催してみたいと意欲的に語ってくれた。

究極の入れ方である「氷出し」の味を再現。受注生産される「ボトリングティー八女伝統本玉露【特別抽出茶】180ml」1万2960円
「農林水産大臣賞」の茶葉「八女伝統本玉露 No.1限定品 10g」1万800円(左)と「八女伝統本玉露 Superlative 10g」3240円

家で過ごす時間が増えたら、ゆっくりと時間をかけて、急須でおいしいお茶を入れてみてほしい。人生の特別な日に、大切な人のために入れるなら、日本最高峰の八女伝統本玉露を選んでみてはいかがだろう。


八女伝統本玉露
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