ミルクジャムをゴーフルでサンドした「バターのいとこ」は、酪農家が抱える課題を解決する栃木県 那須の銘菓だ。生みの親である「Chus」代表の宮本吾一氏と、共に運営に携わる箭内時生氏に話を聞き、開発に至ったきっかけや理由、想いに迫る。

ミルクジャムをゴーフルでサンドした「バターのいとこ」は、酪農家が抱える課題を解決する栃木県 那須の銘菓だ。生みの親である「Chus」代表の宮本吾一氏と、共に運営に携わる箭内時生氏に話を聞き、開発に至ったきっかけや理由、想いに迫る。

「バターのいとこ」に込められた酪農家の想い

「ふわっ・シャリッ・とろっ」と異なる食感も楽しい栃木県・那須の新銘菓「バターのいとこ」。無脂肪乳からつくったミルキーなジャムを、バターが香り立つゴーフル(ワッフル)生地でサンドしたスイーツだ。おいしさの決め手となっているのがミルク感あふれるジャムなのだが、実はこの主原料となっている無脂肪乳の存在こそが、スイーツを開発したきっかけだったという。

そもそもの始まりは、旧知の仲である那須の酪農家から「おいしいクラフトバターを作りたい」と相談を受けたことだったと話すのは、「バターのいとこ」の生みの親である宮本吾一氏。那須の黒磯を拠点に、ファーマーズマーケットやダイニング、ゲストハウスなどが集まる複合施設「Chus」(チャウス)の代表である。

「Chus」(チャウス)の代表であり、「バターのいとこ」を手がける宮本吾一氏

「我々もその時初めて知ったことなのですが、牛乳のうちバターになるのは乳脂肪分であるたった4%のみ。バターはとても貴重なものなんですね。残りの90%以上を占める無脂肪乳は、脱脂粉乳などに加工され、安価に取引されてしまうというのです」

この無脂肪乳の価値を高めることができれば、酪農家は新たな収入源を得ることができると考えた宮本氏は、無脂肪乳を活用した商品開発をスタートさせることとなった。

無脂肪乳の価値向上を促すお菓子を目指して

観光地である那須 黒磯で一番需要が高いのは、やはり旅の土産物として重宝されるお菓子だ。しかし、単に無脂肪乳を使ったというだけでは意味がない。

これまで価値の低かった無脂肪乳に新たな価値を見出せるような、無脂肪乳が主役となるお菓子を作りたい――そのような想いのもと、試行錯誤の末に生まれたのが、無脂肪乳で作ったジャムをふんだんに使った「バターのいとこ」だ。

バターの箱を模したパッケージには、生乳を100とした場合の各割合を表す「04」「06」「90」の数字が表現されている
バターの箱を模したパッケージには、生乳を100とした場合の各割合を表す「04」「06」「90」の数字が表現されている

監修を手がけたのは、東京・代々木八幡に店舗を構える人気のビストロ「PATH」のオーナーであり、宮本氏の友人でもある後藤裕一氏。フランスの郷土菓子であるゴーフルに着想を得た新発想のお菓子は、スイーツ愛好家からの支持も厚く、一時は人気のあまり品薄状態が続いたほど大きな反響を呼んだ。

「チャウス」の運営に携わり、現在は「バターのいとこ」の実店舗で店長としても活躍する箭内時生氏は、「お菓子を買ってもらえることはもちろん、それを通して無脂肪乳を知ってくれる人が増えているというのも嬉しいですね。本来やりたかった無脂肪乳の普及活動にもつながっているという実感があります」と話す。

「バターのいとこ」で店長を務める箭内時生氏

福祉と密接に結びついた新たな地方創世のカタチ

当初は「チャウス」でのみ販売を行っていたが、人気を受けて、2019年には那須高原のメイン通りである那須街道(県道17号)から1本入った場所に、「バターのいとこ」の専門店をオープンさせた。

カフェを併設した「バターのいとこ」では、作り立てを味わえるほか、無脂肪乳を使ったドーナツやドリンクなども楽しめる

そこは10年前に宮本氏が発案し、人気を博した地元のマルシェ「那・須・朝・市」を通じてつながりをもっていたという地域の店舗が集まり、“那須に住む人”と“那須を訪れる人”を結ぶことを目指して生まれた複合施設「GOOD NEWS」の一角。就労支援施設も兼ねており、那須に住んでいる小さい子供をもつ主婦や障がいのある人が働いているという。勤務時間は朝の9時から夕方3時、4時くらいまで。土日は休みだ。

「土日も開けて勤務時間を増やせば、単純に生産数は増えます。しかし、雇用を守るという意味でもそれはしたくありません。決められた就業時間内にいかに効率よく生産できるのかを考え、お客様の期待にも応えられる仕組みづくりを目指しています」

努力の甲斐もあり、今では1日あたりの生産数は5000個ほどにもおよび、品薄状態も緩和されているという。宮本氏が目指すのは、観光と福祉が密接に結びついた、これまでに類を見ない新たな地方創世のカタチだ。

「大学などのない地方は、若者の流出により人口減少が深刻化しています。このままでは近い将来、必ず雇用問題に直面することになるでしょう。そのような状況下で、観光と福祉の結びつきを強めれば、街もより豊かになるのではないかと思っています」

宮本氏は、この近辺に新たな店を増やし、観光名所となるような通りに育てていきたいと意気込む。

「今構想しているのは、社員食堂としての機能をもったファミレスです。障がいのある方が働く場所であり、従業員や地域の方、観光客がご飯を食べにくる場所があったら面白いですよね。観光業に即した事業へとバージョンアップしていければいいなと思っています」

これまで国や街から守られるべき存在として受け身の部分が強かった障がいのある方々が観光業を支え、一次産業を支える未来は近いのかもしれない。

「人がつながった先には面白い未来が待っている。自分たちが幸せになることを考えながら輪を少しずつ広げていけば、良い循環が生まれてくると思っています。2歩3歩先のことはまだ分かりませんが、1歩ずつ着実に足を進め、カタチにしていきたいですね」

地方の面白みは、空間的にも人間的にも余白があるところだとも話す宮本氏。

「誰もやっていないことをやれば、人が集まってくれる可能性があります」

酪農家の課題を解決するために生まれた「バターのいとこ」は今、地方創生にもつながる大きなハブとなっている。食べる人も、原料を作る酪農家も、お菓子を作る地域も、みんなが嬉しくなる“三方良し”のお菓子に大きな可能性を感じずにはいられない。


「バターのいとこ」
1箱3枚入り/864円(税込)
1枚売り/216円(税込)

「バターのいとこ」
https://butternoitoko.com

Text by Kaori Kawake(lefthands)Photogpraphs by Takayuki Abe