カーボンニュートラル社会の実現と、多様化するお客様のニーズに寄り添うクルマづくりを加速させる次世代LEXUS。NEXT CHAPTERとして、NXに続き投入した最新のフラッグSUVの走りはいかに磨き上げられたのか。開発を指揮した横尾貴己チーフエンジニアと、同車の“走りの味”を追求したTAKUMI(匠)と呼ばれる二人の開発ドライバーに、「もっといいクルマづくり」NEXT CHAPTERの走りの味磨きについて、話を聞いた。後編では特にオフロード性能について掘り下げていく。<br/><br/>前編はこちら

カーボンニュートラル社会の実現と、多様化するお客様のニーズに寄り添うクルマづくりを加速させる次世代LEXUS。NEXT CHAPTERとして、NXに続き投入した最新のフラッグSUVの走りはいかに磨き上げられたのか。開発を指揮した横尾貴己チーフエンジニアと、同車の“走りの味”を追求したTAKUMI(匠)と呼ばれる二人の開発ドライバーに、「もっといいクルマづくり」NEXT CHAPTERの走りの味磨きについて、話を聞いた。後編では特にオフロード性能について掘り下げていく。

前編はこちら

オフロードにおける上質な走りとは

1996年に北米で発売されて以来、「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」をベースに、世界中のあらゆる道での運転に耐え得る運動性能でファンを生んできたLEXUS LX。新型は、優れたクロスカントリー型4WD車の証明ともいえるボディオンフレーム構造を継承。一方、新たに「GA-F」と名付けられたプラットフォーム(車台)を採用し、エンジンなどの重量物を車両の回転軸に近づけて配置したり、重心高を下げたりして、“走る・曲がる・止まる”というクルマとしての素性を刷新している。

開発を指揮した横尾貴己チーフエンジニアは、過酷な環境でも、どんな道でも気負うことなく運転できることを謳い、走りのコンセプト「世界中のどんな道でも楽に・上質に」を実現できたと胸を張る。

「世界中のどんな道でも楽に・上質に」というコンセプトの下、新型LXをまとめ上げた横尾貴己チーフエンジニア

「絶対的なオフロード性能は、歴代のLXと比べ、しっかりとレベルアップしています」と語る横尾を支えたのは、オフロード性能の開発に大きく寄与した、運動性能を磨くTAKUMI(匠)の上野和幸。

実は、オンロードでの走りを担当するTAKUMIの伊藤好章も、オフロード性能に大きく貢献しているという。

「新型LXを開発するに当たって、上野に私が話したのは、オフロードでも上質な乗り心地を実現したい、ということでした」。横尾はそう語る。

横尾「上質と一言でいっても分かりにくいですよね。私が考えていたのは、静粛性と乗り心地のよさに加えて、単に悪路走破性能が優れているだけではなく、例えば岩石路を走行してもクルマの動きが穏やかであったり、デバイスの余計な音がしないなど、ドライバーが心理的に余裕を持って走れることでした」

上野「オフロードの走破性の高さは、歴代のモデルでもLXが自慢できる点です。そこは自負がありました。一方、オフロード性能が高いことに加え、静かで安定感があって、上質という言葉がぴったりな乗り味をもつモデルは、そうそうないので、頑張りました」

オンロードの伊藤好章(左)と、オフロードの上野和幸(右)。二人のTAKUMIが新型LXの走りを磨き上げた

新型を入れて4代続くLXの歴史のなかで、開発チームが学んだのは、安全に快適に走るために、電子デバイスを介入させるのに最適なポイントはどこかということだった、と横尾は言う。

例えば、路面の変化や走行状況に応じて連続的に乗り心地を最適な状態に維持するためのAVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンションシステム)。昨今のクルマは、カメラやレーダーと、電気や油圧を組み合わせるなど最新の技術を使って、理想とする走りや快適性を追求する。問題は“使いこなし”方にある。LXで目指されたのは「自然なフィーリング」だ。

上野「ガスと油圧併用のサスペンションのバネの減衰力特性をうまく使って、足まわりはしなやかな動きを追求しました。カーブを曲がるとき、車体は当然ロールしますが、そのロールを電子制御によって無理に止めるのではなく、自然にロールするようにチューニングしています」

横尾「クルマの根幹を構成する、各種コンポーネンツの性能が上がったこと、電子技術の効果に貢献しています」という。「いってみれば、新型LXは、進化の集合」だ。

横尾「使用環境に応じて車高を調整できる装置、AHC(アクティブ・ハイトコントロール・サスペンション)を、車高調整のみならず、ピッチやロールといった車両姿勢変化にも対応させています。それがコーナリング時の車体制御に役立っています。サスペンションのバネレートを常に最適化することで、カーブを曲がったり、加減速したりするときの車両姿勢を安定させています」

タイトコーナーでもボディオンフレーム構造であることを忘れてしまうほどにスムーズな挙動を見せる新型LX

「もっといいクルマづくり」として、二人のTAKUMIがタッグを組んだ

上野は、開発の途中で、オンロードで走りの味を磨くTAKUMIの伊藤と連絡を取り合った。オフロードの性能ばかりに目がいっていると、横尾が目指した「オンロード、オフロードともにお客様がLEXUSらしい運転を満喫できるような走行性能」という目標達成は難しい。そのためには、二人のTAKUMIが協力することこそが重要だからだ。

伊藤「上野が開発を続けていく過程で、“オフロードの走りも見てみてほしい”と連絡をもらい専用のテストコースで乗りました。オフロードは、私のフィールドではありませんが、ステアリングホイールを握っていると、だんだん上野が何を狙っているか、見えてきました。新型NXを開発したときは、基本的には平面運転でしたからLXはまったく違います。テストコースの内容も、急勾配の坂を上ったりと、いってみれば三次元を走破するクルマです」

上野「オフロードでは、コンピューターのシミュレーションに頼るのでなく、自分たちで走る必要があります。道はさまざまで、さらに同じ道でも、路面の状況は刻々と変わるので、それを身をもって知らなくてはなりません。世界中のお客様のために、しっかりと性能を担保する。私たちは専用のオフロードのテストコースをフルに使って、LXを開発しました」

専用のオフロードのテストコースをフルに使ってLXを開発したと語る上野。世界中の道を知り尽くしたオフロードのスペシャリストだ

横尾は「苛酷な路面を苛酷と思わせないことを目指してもらいました」とオーダーの内容を語った。

上野「クロカン(クロスカントリー)4WD車は、道の悪いところを躊躇(ちゅうちょ)なく通過します。そこでだって、快適な乗り心地を味わえたら、それこそ、横尾の考えている上質さにダイレクトにつながるだろうと思いました。前後席に人が乗って、オフロードを走り続けても疲れない。それが新型LXの目指したところです」

そのために、上野がやったことの一つは、ポットホール作りだった。ポットホールとは、聞き慣れない言葉かもしれない。要は、道路に開いた穴ぼこ。実は、これは世界中のいたるところにある。

ポットホールを通過すると、当然ながら、強い衝撃が乗員を襲う。とりわけ、LXのようなモデルだとリヤサスペンションが固定式なので、乗員が感じる衝撃は小さくない。オンロード担当の伊藤も、わざわざポットホールを作った上野のこだわりに驚いた一人だったという。

伊藤「ポットホールは、普通のオンロードでの評価では、避けて通るところで、評価項目に含まれないこともあります。上野はそこをしっかりとやってきました」

上野「オフロード車の性能評価のなかにも、ポットホール通過時の乗り心地という項目はなかなか入ってきません。でも、新型LXでは、後席乗員の方の快適性も重要な項目として、テストコース内に重機を使いポットホールを作り、何度も何度も通過して乗り心地を評価しました」

下回りが見えるほどボディが傾いた状態でも安定した走りを見せる

結果として、走りにおけるブランドの統一感がつくれた、と伊藤は振り返る。従来のLXでもクロスカントリー4WDとしてはかなりの高得点だったところに「もっといいクルマづくり」として、今回は開発でさらに一歩踏み込んだ。「それによって、しっかりLEXUSのDNAを受け継いでいると、自信を持って言えるクルマが出来上がったと思います」と伊藤の自己評価は高い。

大事なのは作り手の思いと、リアルな道での走行性能を追求すること

厳しい試乗コースの設定もLXの完成度に対する自信がうかがえる

試乗コースには一風変わったコースが設けられていた。オフロードのモーグル(連続している地面の隆起)を模したもので、片輪が浮いたり、あまりに急勾配なのでドライバーは空しか見えない上りなど、ちょっとドキドキするような仕掛けだ。

「信頼性」「耐久性」「悪路走破性」を謳う新型LX は、「伝統のボディオンフレーム構造とリヤのリジッドサスペンションなどのハード性能を磨き上げた」という。

凹凸が激しいモーグルでは、サスペンションが大きくストローク。仮にタイヤが浮いても、その他のタイヤが確実に路面を捉えてクルマを着実に前へと進ませる

路面によって、エンジン出力やサスペンションの減衰力を最適制御する「マルチテレインセレクト」や、アクセルペダルとブレーキペダルの操作なしに車両が一定速度で坂を上り、また下る「クロールコントロール」(登坂能力は45°)などのソフトウエアがさらに改良された。

例えば、悪路で片輪が浮いた場合、通常のクルマでは、そこで接地している車輪にトルクが伝達されなくなってしまう。差動装置が働くためだ。しかしLXでは、瞬時に、接地している車輪にトルクが配分されて、その場から難なく脱出できる。

「今回しっかり手を入れたのが、ドライバーが、オフロードでも安心感を持って運転できることです」とは横尾の弁。

上野「ダウンヒルでブレーキを操作した際に往々にして“ガガーン”という音が出ます。正体は、ブレーキを制御するときの作動音です。実はこれが、ドライバーを不安にさせるというデータがありました。そこで、新型LXでは、その問題を解消しようとなりました」

前述のテストコースでは、従来のLXも比較のために用意されていた。しかし、急勾配の坂を、クロールコントロールを使って下る際、確かに“ガガーン”“ガガーン”といった音が断続的に耳に飛び込んでくる。

クロールコントロールをオンにすれば、クルマが適切な車速にコントロールしてくれるため、ドライバーはステアリング操作に集中できる

次に新型LXに乗り替えて同じ箇所を通ると、クロールコントロールの制御音無く通過する。ドライバーはステアリングホイールを軽く握っているだけで、クルマが制動をかけながら、急勾配を下りていく。そのときに、ブレーキに起因する高めの音は聞こえてこない。

上野「不安感の解消という意味では、視覚的な面も同様です。クルマの状態をさまざまな手段で映し出すマルチテレインモニターを12.3インチに大型化するとともに、映し出すオフロード走行時の車両周辺映像をより鮮明にしたことで、安心感が高くなった、と評価していただいています」

車両周辺の鮮明な映像を映し出すことが可能な12.3インチのマルチテレインモニター

「一般的な傾向としては、車両のあらゆる点においてデジタル技術が進んでいますが」と、横尾は前置きをしてから語る。

横尾「一番大事なのは、作り手の思いと、リアルな道での走行性能を追求すること、この二つなのだと思います。それを守らないと、LEXUSらしさが実現しない、と考えています」

「世界中のどんな道でも楽に・上質に」というコンセプトの下、開発された新型LXは、今までLXに興味をもっていなかったというドライバーにとっても、選択肢に入れてもらえるような、満足いく仕上がりになったと、横尾は語った。

デザイン部長と4人のチーフエンジニアが語る、LEXUSのNEXT CHAPTERとは?

Photographs by Takayuki Kikuchi