LEXUSが取り組む次世代のクルマづくり「NEXT CHAPTER(ネクスト・チャプター)」。それは自然や環境への配慮と共生、そして多様化するお客さまのニーズに寄り添うことだ。<br/><br/>LEXUS初のBEV(電気自動車)専用モデルであるRZなど、市販車に具現化されているこの次世代のクルマづくりをデザインという側面から日々考察しているのがデザイナーたち。<br/><br/>その現場の最前線をいくつかのエピソードとともに掘り下げる。

LEXUSが取り組む次世代のクルマづくり「NEXT CHAPTER(ネクスト・チャプター)」。それは自然や環境への配慮と共生、そして多様化するお客さまのニーズに寄り添うことだ。

LEXUS初のBEV(電気自動車)専用モデルであるRZなど、市販車に具現化されているこの次世代のクルマづくりをデザインという側面から日々考察しているのがデザイナーたち。

その現場の最前線をいくつかのエピソードとともに掘り下げる。

「NEXT CHAPTER」を掲げるLEXUSに現状維持は存在しない

LEXUSブランドのアイデンティティとなっているスピンドル。
その意匠は、東京・南青山の『INTERSECT BY LEXUS』の壁面のデザインに採用され、日比谷のLEXUS MEETS...HIBIYAにあるカフェは名称そのものが『THE SPINDLE』だ。

2012年のGSからLEXUSはスピンドルをフロントグリルに採用。以来、一目でLEXUSと分かるアイコンとなっていった。

スピンドル上部がシームレスにボディに溶け込む、スピンドルボディ。その誕生には、タブーに挑戦したデザイナーたちの奮闘があった。

そんなLEXUSの重要なデザイン要素も、豊田章男社長からは常に先を見据えたアップデートを求められる。

たとえば2020年5月、新型RXのデザイン審査の最終段階でのこと。それはデザイナーたちにとっては“事件”だった。レクサスデザイン部 主幹の平井望美はこの事件のことをいまでもはっきりと覚えている。

時間がないなかの大胆な変更は、デザイナーみなが手を動かして知恵を振り絞った結果だったと語るレクサスデザイン部の平井望美主幹。

「デザイン審査の直前とも言っていいタイミングでした。ある会議で豊田社長から“スピンドルを壊してください”と指示されたんです。

細かい説明はなく、ただそれだけ。デザインにかけられる時間は2週間程度しかなく、とにかく時間がなくて部内は大騒ぎになりました。

冷却のための要件から、グリル上端はどこまで削れるのか。LEXUSは機能に基づいて進化していくブランドなので、ただ表面的にデザインをいじるだけでは成立しません。

そもそも豊田社長は何を求めているのか。何より、お客様が何を期待してくれているのか。たくさんのスケッチを描き、100以上の案をあげて、デザインチームのみんなで議論を重ねました」

最終的にはグリルの上端はグラデーションでボディとつながる、大胆な変化を遂げた。

「結果的にはLEXUSのデザインアイデンティティーと向き合ういい機会になりました。守りに入らず挑戦し続けなければ、という自覚も生まれましたしね。本当に大変でしたけど(笑)」

その進化の流れは、LEXUS初のBEV(電気自動車)専用車であり2022年5月にプロトタイプを公開した新型RZにも見て取れる。

そもそもBEVであればフロントのエンジンを空気で冷却する必要がない。つまり今まで冷却機能に基づいて意匠されていたスピンドルグリルでは、その必然性が無くなってしまう。

このRZの外形デザインを担当したレクサスデザイン部の木村大地主幹は言う。

レクサスデザイン部 主幹の木村大地。「外形デザインは車の第一印象を決めるもの。第一印象で人の心を掴むために何ができるかを日々考えています」と自分の仕事を語る。

「ボディとスピンドルグリルの従来の関係性を、ネガポジ(白黒)で反転してみたらどうだろう、と考えました。それまでブラックだったグリルはすべて塞いでしまいボディカラーとし、従来ボディカラーだったバンパーのコーナー部分を黒に反転してランプと一体化。ブランドの象徴をグリルという枠組みから解放し、ボディの構成要素として再構築した“スピンドルボディ”を提案しました」

過去の経緯や手法にとらわれず、異なる視点から物事を観察し、新しいものに進化させる。スピンドルボディは結果としてBEV(電気自動車)ならではの構造に着目した必然性のあるデザインとなった。

木村主幹はその考え方を“コウモリの視点”に例える。木や壁に逆さにとまっている時に天地を反転した状態のコウモリのように、前提条件や見え方をまったく反対の方向から眺めてみる。

タブーなく、さらにまったく違う発想からデザインする。LEXUSの進化の一つのやり方がそこにあるという一例だ。

あえてスッキリ。そのとき内装デザイナーは何を考えた?

新型RZの内装デザインをリーダーとして担当したのはレクサスデザイン部 八木大実主任。LEXUSの内装デザインにおける高級感はまずターゲットを明確にするところから作り始めるという。

「コンセプト段階で、最初にどんなお客様が乗るクルマにするのかを徹底的に調査・考察します。

どの層をターゲットにするかを絞って提案したほうがデザインとしても尖りますし、提供価値も明確になりますから。

LEXUSのように、特別感や高級感というものが伴うブランドの場合はなおさらです。車両オーナーとして触れるのは常に内装ですから、そのデザインというのは外形デザイン以上にオーナーの趣向性への想像力が必要になってきます。

ターゲット層をまず決めるというのはその人物の生活空間や持ち物にまで寄り添い、イメージするということなんです」

レクサスデザイン部 八木主任。車好きな父親がたくさんの車を乗り継いできたため、数多くの車の内装に自然と詳しくなったそう。「クルマの内装は1mmの違いでガラッと変わる」とそのこだわりは強い。

LEXUSで初めてのBEV(電気自動車)の内装を考えるときに八木主任が考えたのは、クルマが電動化することの価値を表現すること。さらに、エンジンがないBEVの特徴であるホイールベースの長さを活かすことだった。

「BEVならではの室内空間の広さをいかに伝えるかを考えました。乗り込んだときに、ぱっと見て前席から後席にかけてシームレスに空間が続いている感じを表現したかったんです。

だから、最初のスケッチではドアばかり描いていました。ドアの表現で前後席を繋げたかったんです」

八木主任によるスケッチ。広い室内空間を作り出すドアの繋がりを強調すべくさまざまなバリエーションを考えた。

そこで、ドアトリムには表皮材のウルトラスエード®を施し、マテリアルの繋がりにより空間の広さをアピール。

上質な素材を使っていながらも、室内の空間は後部座席も含めてミニマルでさっぱりとしている。そこにも八木主任の狙いがあった。

「未来に繋がるBEVということで、未来の車内空間はどのような存在になるのかを考えました。静かな車内で、じっと過ごす時間がきっと増える。

その時、車内はごちゃごちゃと飾り立てられた空間よりも、静かで広さを感じられる空間のほうがきっといい。いまでもBEVユーザーの中には30分の急速充電時間を車内でスマートフォンを見ながら待つ方がいらっしゃるようですが、そんな方にその30分をいかに居心地良く過ごしていただけるかを強く意識しましたね」

ドライバーとクルマが一体化する、通称「TAZUNA Cockpit」は、インパネをシンプルにデザインし自然と運転に集中できる空間を追求。

たとえば高級ホテルの部屋を思い浮かべれば、八木主任の言葉は素直に腑に落ちる。クリーンで広い部屋のなかに、さりげなくあしらわれたセンスの良い家具があることで、部屋は快適な空間になる。

すっきりとして、視線を遮るものが少ないミニマルな空間が醸し出す、自由でリラックスできるムード。そういったものを、新型RZにおいて八木は作り出そうとした。

新型RZではBEV(電気自動車)ならではの加速フィールやトルクフルな躍動感も魅力であることは間違いないが、クルマを使うユーザーの気持ちや時間に思いを馳せ、上質なライフスタイルの提供を試みるLEXUSは、インテリアデザインにおいても未来を見据えて進化を続けている。

過去のやり方や常識にとらわれず、あらゆる方向から進化の可能性を探り、挑戦し続けるLEXUSデザイン。それを作り出すのは、多様化するライフスタイルやモビリティーにあわせたデザインのあり方を探求し、日々奮闘するデザイナーたちだ。