商談にプレゼン、企画書、レポート…。私たちは誰かに物事を伝えるために、いつも頭を悩ませています。
言葉にまつわる悩みが、訓練で解消されるとしたら? しかもそれが5日間で叶うなら…。
今回ご紹介するのは、『5日間で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』(大和出版)。発行以来、言葉に苦手意識を持つビジネスパーソンを励まし続ける一冊です。
苦手意識を克服する「5日間の言葉の旅」
「思いを言葉にする力」、持っていますか?
そう問いかけるのは、著者のひきたよしあきさん。博報堂でコピーやCM制作を手がけたほか、スピーチライターを務め、現在同社フェロー。独立後はコミュニケーションコンサルタントとして活躍しています。
これまでの経験をふまえ、書くことや話すことに劣等感のある人たちを救った25のメソッドを5日間で学べるように構成したのがこの本。5日間で、言葉を「思いつく」「まとめる」「伝える」の3つを集中的に学びます。
ひきたさんが「5日間の言葉の旅」と称するカリキュラムは以下の通り。1日ごとに5つのメソッドが紹介されていますが、ここでは各章より1つに絞って簡単にふれていきます。
1日目:頭の中にあるものを知る
30秒で、ものの名前を10個言ってみよう
1日目は、言葉が思いつかなくなってしまった“怠け者の脳”を活性化させる基礎トレーニングです。
そのうちの1つが「30秒で、ものの名前を10個言ってみよう」というもの。知っている言葉がなかなか出てこないのは、声に出さないからなのだとか。
図形の名前、花の名前、ヨーロッパの都市、小説家の名前など、短い時間のなかでものの名前をパッと思い浮かべ、声に出してみましょう。
2日目:考える習慣をつける
主張は1つ、理由は3つ
散らかった頭の中をまとめるのが、2日目のトレーニング。「人の頭で考える」「制約をつける」「仮説を立てる」といったトレーニングで、「結局、何が言いたいの?」と言われないためのスキルを身につけます。
たとえば「主張は1つ、理由は3つ」と制約をつけて伝える方法。これは、短く論理的に伝えるための極意だとか。主に「トレンド」「特性」「お得感」で考えてみるといいそうです。
たとえば、A社のアプリを提案する場合、彼女にプレゼントするマフラーを選ぶ場合は以下のように考えてみます。
「A社のアプリを提案する理由は、私たちの多くのユーザーが利用し勢いがあること(トレンド)、操作性が高く、誰にでも簡単に扱えること(特性)、蓄えられたデータを私たちも使用できること(お得感)」となる。
「(マフラーの)色は赤。今年のラッキーカラー(トレンド)、彼女の暖色系のコートに合う(特性)、イタリア製の割には安い(お得感)」と考えていく。
(『5日で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』72ページ)
「主張は1つ、理由は3つ」をトレーニングする材料は、毎日の仕事やちょっとした買い物でも探せそうですね。
3日目:論理的に発想する力をつける
伝える1人を決め、その人をすみずみまでイメージしよう
一度「考える型」を覚えてしまえば、自由自在に物事を考え、新しい切り口が思い浮かぶ、とひきたさん。「5つのWHY」「弁証法」「擬人化」といったメソッドがありますが、ここでは「誰に伝えるかを明確にするメソッド」を取り上げます。
たとえばヨーグルトの新製品を出すとします。頭のなかでヨーグルトを買ってほしいターゲット像を想像し、名前、性別、年齢、家族構成から、職業、居住地、年収、趣味、関心ごと、夢や目標までをありありと描いていきます。
そうすることで、オリジナリティのある製品が生まれ、企画書にもリアリティが増すというわけです。
4日目:真に伝わる表現力を磨く
望遠レンズでズームするように、伝えたいことに迫ってみよう
「相手に頭で理解させるだけでは不十分。相手が動いてはじめて伝わったと言える」というのがひきたさんの「伝わる」の定義。4日目は具体性のない表現をやめ、人の心にダイレクトに届ける方法が語られています。
そのなかから紹介するのが「望遠レンズでズームするように、伝えたいことに迫る」というメソッド。カメラを持たなくても、言葉で対象にズームさせる方法が「の」という助詞を使うこと。
・「ラーメンがおいしかった」→「ラーメンのスープがおいしかった」
・「うちの子、かわいいでしょ」→「うちの子の鼻、かわいいでしょ」
・「ニューヨークが好き」→「ニューヨークの音が好き」
(『5日で言葉が「思いつかない」「まとまらない」「伝わらない」がなくなる本』150ページ)
たしかに「の」をつけることで注目すべきポイントが絞られます。
日頃から「◯◯の◯◯」と考えるクセをつけておくことを、ひきたさんはすすめています。
5日目:言葉に説得力を持たせる
苦労や失敗談のネタを10個持とう
5日目は、言葉に信憑性やリアリティを持たせるプラスアルファのテクニック。相手の心をぐっとつかみ、納得させる表現ができるようになるためのヒントです。
「苦労や失敗談のネタを10個持とう」というのは、プライベートな情報を効果的に開示することによって、物事を深く理解させるためのテクニック。
人は成功話よりも苦労話が好き。たしかに仕事でも商品の良さや成功ばかりを強調するよりも、失敗や苦悩が続いた開発秘話を紹介するほうが、「応援したい」という味方は増えますよね。
また、苦労や失敗談のほか、一番の成功談、受験や恋愛のエピソード、趣味や旅行など、自分の人生の転機となったような「とっておきの話」を持っておくと、相手に自分を知ってもらいたいときに使える武器にもなるのだそうです。
5日後、言葉を「自由自在に操れる」という領域にまではいかないまでも、抱いていた苦手意識は薄れ、「言葉っておもしろい」と思えていたら取り組んだ甲斐があると言えるのではないでしょうか。もっと試したいという意欲も湧いてくるはずです。
ぜひこの本を参考書に、言葉と向き合ってみませんか?
Source: 大和出版