進学や卒業、転勤など環境が大きく変わり、新しい出会いも多い春。マスク着用の緩和に伴い、対面で接する場面も増えそうです。
一方で、組織として仕事を進めていく上で、「苦手な同僚とまた一緒に仕事をする」と憂鬱になったり「新しい上司とそりが合わない」と不安やストレスを抱えている人もいるのではないでしょうか。
そこで、作家で元外務省主任分析官の佐藤優さんが若い世代に向けて著した「君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力」から、対面における人間関係のヒントを探ってみましょう。
まずは相手の内在的論理を知ることから
佐藤さんは、私たちが生きる社会が急速に変化し、不安を感じる読者たちに対して、中心から「少し外れた位置にいる」ことを提案しています。
その理由を、「君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力」において以下のように述べています。
社会の流れもある組織の価値観も、変化の激しい時代の中である時点で一気に変わってしまう可能性があるからです。自分が時代や集団の中で、マジョリティで中心に近ければ近いほど、変化が見えなくなってしまうことがあります。
『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』23ページ
そのために、自分が関わる人の「内在的論理を知ること」の大切さを訴えています。
まずは中心がどこにあるのかを、はっきりと見極めることが必要です。そして、社会や組織あるいは相手の、価値基準や理由を客観的に把握することです。
これを、インテリジェンス用語で「相手の内在的論理を知る」という表現をします。「彼を知り己を知れば百戦殆うからず」という言葉がありますが、インテリジェンスではまず相手国をよく知り、相手国の価値基準や価値体系、思考や行動パターンを読み解くことが大事な仕事となります。それは、相手国の行動の真意を理解したり、次の行動の予測を可能にします。そして自分たちの目的によって、自らの立ち位置と態度を決定するのです。
(中略)
こうした作業は、自分を取り巻く環境や周囲の人々を理解し、自分の態度を決定することにも大いに役立ちます。そして、中心からあえて微妙に離れておくということも初めて可能になるのです。
『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』25ページ
たとえば、職場に苦手な人がいたとしても、「なぜこの人はいつも怒っているんだろうか」と考えて観察することでガラッと印象が変わるかもしれません。
佐藤さんはこの「内在的論理を知ること」について、上司からの叱責のエピソードを紹介しています。
かつて外務省に入省したての頃、「瞬間湯沸かし器」というあだ名の上司がいました。この人は首席事務官(外務省独自の役職で、他の役所の筆頭課長補佐に相当)でした。突然、激しく部下を叱責するのです。当時私は、1年目の研修生でしたが、怖かった。周囲の先輩課員もとにかく煙たがっていました。
ところが、しばらくその首席事務官を観察していると、怒るときにある種の法則があることがわかりました。それは首席事務官の上司に当たる課長が、課員に対して不満があるそぶりを見せたときに、それに先んじて怒りだすのです。
すると課長は「まぁまぁ、もういいよ」と仲裁役に回る。結局、その首席事務官は自ら憎まれ役を買うことで課長と課員の軋轢を避けるようにしていたのです。
その理屈が分かったので、以後私はその首席事務官がまったく怖くなくなりました。それどころか親近感さえ覚えるようになりました。
『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』58ページ
筆者の経験を振り返っても、本当はいい人なのに、役職や立場上、口うるさいことを言わなければならないポジションになって、周囲から苦手意識を持たれた人がいました。必ずしも、苦手な印象がその人の全てではない、ということです。
世代のギャップを感じたら、昔のテレビドラマを観てみよう
インターネットの発達やコロナ禍を経て、上司や部下との世代間のギャップはかなり大きくなっていると考えていいでしょう。
佐藤さんは、直接関わりのない世代の価値観を理解するために、テレビドラマやアニメを観ることをおすすめしています。『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』では「巨人の星」を例に、60代という世代の一面を紹介しています。
かつて読売ジャイアンツを志半ばで挫折して辞めた父親の星一徹が、息子の飛雄馬を最高の投手に育てることでその恨みを晴らそうとするアニメです。鉄拳制裁は当たり前、今の時代まったく合理的ではないとされる兎跳びや、体全体を拘束する「大リーグボール養成ギプス」を使って日々特訓する。
友達付き合いも恋愛も父親に全てコントロールされます。巨人軍に入団してさまざまな魔球を考案しますが、無理な投球フォームがたたり、体はボロボロに。最後、究極の魔球で完全試合を達成するのですが、マウンドに倒れ込みそのまま選手生命を失って終わります。
もう滅茶苦茶なストーリーだと思いませんか?何といっても星一徹のスパルタ教育ぶりでしょう。ちょっとでも気に入らないことがあると、食事中でもちゃぶ台をひっくり返して息子を殴る。完全なDV、虐待ですよ。
今の時代とても地上波で放送できる代物ではありません。ところが、当時の子どもも大人も、こんな酷い話にすっかり夢中になっていました。60歳以上で、『巨人の星』が大好きでストーリーを覚えているという人がいたら、パワハラ体質の可能性が高いので要注意です。
『君たちの生存戦略 人間関係の極意と時代を読む力』58ページ
ある世代が大人になるまでに過ごした時代背景やトレンドを知ることで、自分と大きく年齢が離れた人たちの理解が深まるのは間違いないでしょう。人間関係のトラブルを事前に察知することにつながるかもしれません。
ちなみに、若年層を理解するためのドラマとして、『逃げる恥だが役に立つ』が紹介されています。さらに、2020年にリメイクされた『東京ラブストーリー』も、90年代の原作を見返すことによって、約30年前の生活水準を現代と比較できるとのこと。
自分とは異なる価値観を持った人でも、なぜそのように考えるのかと想像力をもって接することが、かえってストレスを軽減することにつながるでしょう。
単に「あの人は苦手」「話が通じない」と心のシャッターを下ろすのではなく、変化の多い時代だからこそ、まずは相手を理解して接することを心がけたいですね。
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