「時間」――それは人生において最も重要な資産ではないでしょうか。自分が望む働き方や人生を実現するためには、限られた時間(1日24時間=1440分)を何に分配、投資していくのか、戦略的な視点が欠かせません。この「1440分の投資戦略 やめるに勝る時短なし」特集では、単なる時短術にとどまらない「時間投資ストラテジー」を紹介していきます。

第3回は、著書『脳にいい24時間の使い方』でも知られる作業療法士の菅原洋平さんに、“仕事の質とスピードを劇的に変える、脳と体の仕組みを生かした時間術”について、詳しくレクチャーしてもらいました。今回は前編です。

脳にいい24時間の使い方

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パフォーマンスを最大化する鍵は「生体リズム」

医療現場で応用される「時間医学」の考え方を、企業の業務改善等に当てはめるメソッドを提案している菅原さん。

仕事のパフォーマンスを最大化する近道は、「脳の仕組みを生かした24時間の使い方」を取り入れることだと話します。

人間の脳と体は“生体リズム”によって、各種の力が最も発揮されやすい時間帯が予め決められています。これにはホルモンの分泌量が関係しています。

そして、そのリズムに作業スケジュールを合わせることで物事を効率化するというのが「時間医学」の基本。

元々は、手術におけるリスクを下げたり、患者の術後の回復を早めたりなど、「手術の効率化」などのために取り入れられたものです。(菅原さん、以下同)

つまり、生体リズムに適した作業スケジュールを当てはめるだけで、脳や体の疲労は軽減され、作業効率も格段に上がるということ。菅原さんは「ローコスト・ハイパフォーマンスを叶える手段」とまで言います。

ところが、現実の社会では生体リズムと合わないスケジュールで仕事の予定が組まれていることが多く、まずはここを見直す必要があるのだそう。

ポイントは作業の「ハイ&ロー」

菅原さんによれば、脳内ホルモンの分泌量によって作業は「ハイ(High)」と「ロー(Low)」に分けられます。

ハイの時に適しているのは、頭がフルで活動している状態で行なう知的作業。逆にローの時に適しているのは、リラックスしたり考えがまとめられる作業。

これを1日の生体リズムに割り当てると、時間帯ごとに適した作業は次の通り。

【時間帯ごとに適した作業】

午前:ハイ(=頭を使う)昼:ロー(=手を動かす)夕方:ハイ(=体を使う)夜:ロー(=内臓を使う)

ただし、こうした生体リズムをより正確に捉えるには、その人の睡眠リズムが整っていることが前提。

睡眠リズムが不安定だという方は、まずは起きる時間をできるだけ一定にすることから始めましょう。

改めるべきは生体リズムと作業の「ミスマッチ」

「脳の仕組みを生かした24時間」を考えるにあたって、まずチェックすべきなのが「生体リズムと作業スケジュールのミスマッチ」。たとえば、多くの人がやりがちなのが「朝一番のメールチェック」です。

午前に当たる起床から2〜3時間後は男性ホルモンであるテストステロンの分泌量が多く、一番決断力が高いと言われる時間帯。

それなのに、ルーティン的にメールチェックから開始するのは非常にもったいない、と菅原さん。

知的作業が適している貴重な時間帯なので、朝一には1つでもいいので最も頭を使う仕事を終わらせるのがおすすめ。

これは、他人主導ではなく自分主導で仕事を進めることにもつながります。

他人主導ではなく自分主導で動くことの大切さは、さまざまな分野でよく取り上げられます。意外なことに、脳にとっても「他人主導は非常にストレスがかかる状態」だそう。

脳には、常に状況を予測して行動を企画する「フィードフォワード」という働きがあります。

予測した通りの行動をとった時、つまり自分主導で動ける時が一番エネルギー消費量が低い。いわゆる“疲れない”状態です。

一方で、メールチェックやデスク整理など、予測不能な作業が発生しやすいタスクを行なってしまうと、その対応に追われてどっと疲労を感じる…。

これは予測不能な作業が脳に負担をかけていることが原因です。

脳のムダな疲労を防ぐためにも、「朝一のメールチェック」はやめることが有効なのです。

多くの人がやりがちな2つの落とし穴

“できるかも”幻想

多くの人がやりがちな「よくある落とし穴」として菅原さんが挙げるのが、自分が処理できる以上の仕事を見積もってしまうこと。ここにも生体リズムが関係しています。

特に午前中は、生体リズムではハイの時間帯に当たり、脳と体の機能は向上し、精神状態も良いと言えます。

その分、多くのタスクをこなせると思い込んでしまう、「“できるかも”幻想」を抱きがちなのです。

しかし、この「“できるかも”幻想」は実体を伴わないばかりか、期待値が高まる一方、できなかった時には挫折感や罪悪感を感じやすく、気持ちのアップダウンが脳を疲れさせるためメリットはないと菅原さん。

情報のとりすぎ

他にもやめたほうがいいのは、外出先でのメールチェック。

これによってわかるのは、多くの場合「今すぐには対応できない」ということだけです。

これでは、予測不能の課題を1つ先延ばしにしたことになるうえ、脳にとっては「課題を覚えておく」ことでワーキングメモリも食うことになるので、非常に負担です。

メールチェックは「確実に落ち着いて返信できる時間」にまとめて行なうのが正解。

過去に実施した調査によると、そうした時間がとれるのは1日2回程度というビジネスパーソンが多かったとのこと。

そうなのであれば、別の時間帯に無理してメールを確認する必要はないのでは?

脳のワーキングメモリを温存するためには、知らなくてもいいことを無理して知ろうとしないことも大切です。これは情報選択の1つの基準として捉えてみてください。

脳のクセを理解して「思い通りの1日」を

こうした脳のクセを知ることは、いわゆる「充実した1日」を過ごすヒントにもなります。

調査で「どういう日が“充実した1日”だと思いますか?」という質問をしたところ、「思い通りに過ごせた日」と答える人が非常に多かったんです。

「思い通り」というのは、自分が「これをやろう」と思っていたことをやれた日というのが近い。

相手の欲求に応えられた、相手に褒められたなどではなく、あくまでも自分主導で、自分が予定した通りに動けた日に充実感を感じる傾向があることがわかりました。

働く人の充実感を高めるためには、「自分が思うように時間を使えている」という感覚が重要です。

生体リズムに合わせて作業のスケジュールを組み、自分主導で1日を過ごせた時には、きっと「今日は充実した1日だった」という満足感を得られるはず。

後編(6月18日公開予定)では、生体リズムを理解し、「思い通りの1日」をつくるスケジューリングの具体的なメソッドを解説します。

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菅原洋平(すがわら・ようへい)

作業療法士。ユークロニア株式会社代表。国立病院機構にて脳のリハビリテーションに従事したのち、現在は、ベスリクリニック(東京都千代田区)で睡眠外来を担当する傍ら、企業研修を全国で行なう。

Source: フォレスト出版