人が集まれない? コロナ時代のオフィスのありかたとは?

「グッドカンパニー研究」当シリーズでは、多様な働き方を考えるカンファレンス 「Tokyo Work Design Week」 を主催し、現代におけるさまざまな「働き方」を探求、「ヒューマンファースト研究所(※)」の外部アドバイザーでもある横石 崇さんが、時代をリードする企業のオフィスを訪問取材。

オフィスのありかたから垣間見える企業の理念やコミュニケーションに関する考え方、その企業らしい新しい働き方を探究し、「グッドカンパニーとは何か」を探ります。

いま世界中でオフィスのありかたが見直されています。次の一手のために必要なことは何なのか? 企業にとってのGOODを追求することでそのヒントが見えてきます。(横石 崇)

第2回は、2021年2月に働き方の実験場「THE CAMPUS(ザ・キャンパス)」をグランドオープンしたコクヨ株式会社へ。

東京・品川にある築40年の自社ビルをリニューアルし、オフィスやラボ、地域住民とともに楽しめるパブリックスペースのある空間へと生まれ変わらせました。

「Campusノート」や「ファイル」などの文具のイメージが強いコクヨ。お話を伺った山下正太郎さん(コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所所長/『WORKSIGHT』編集長)によると、実際には売り上げのうち文具の割合は20%程度で、オフィス家具の販売や空間デザインも事業の大きな柱になっているとのこと。

山下さんが率いる「ワークスタイル研究所」は、働き方や働く場所の変化をリサーチしている機関。特に革新的なアイデアが先行する欧米の仕事環境を多く調べ、それを国内やアジアに紹介するという活動を続けてきました。

市場の統計データだけでなく、実際のオフィスでどんな変化が起こっているのかを重視してリサーチする現場主義が「ワークスタイル研究所」のモットー。

その知見が最大限に生かされているのが新オフィス「THE CAMPUS」なのです。

グッドカンパニー研究 Vol.2

【調査するオフィス】

コクヨ株式会社/東京都港区

【話を聞いた人】

コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所所長/『WORKSIGHT』編集長/京都工芸繊維大学 特任准教授 山下正太郎さん

新オフィス「THE CAMPUS」が生まれた理由

Photo: KOKUYO

横石崇さん(以下敬称略):コクヨさんといえば老舗中の老舗。創業は明治38年(1905年)で、社名「黒田表紙店」から始まり「コクヨ」へ。当初は社名ではなく商標として「国誉(コクヨ)」と表記されていたと聞きました。

山下正太郎さん(以下敬称略):ご紹介ありがとうございます。国といっても故郷のことで、創業者が故郷を出たときの「故郷の誉れになる」という初心を忘れないように自戒を込めて命名したそうです。

最初は和式帳簿の表紙だけを作っていて、今度は帳簿そのものを作るように。

当時の帳簿は100ページと書いてあっても、表紙の裏表を入れて中身は96ページであることが多かったのですが、創業者は「それはおかしい」と。それで中身を100ページにしたら飛ぶように売れた。同業者には「そんなことをしたら商売にならない」とすごく怒られたそうですが(笑)。

そこから洋式帳簿、帳簿を収める棚も作りはじめて、現在は文具やオフィス家具、オフィスデザイン、オフィス用品通販など、働く空間全体へと規模を広げています。

横石:創業当時から「業界の慣習を壊す」ような創造的破壊の風土があったんですね。

山下:そういうことが好きな会社という印象は私自身も持っています。2021年2月に企業理念を刷新し、「be Unique.(ビー ユニーク)」としました。

これからは使い手の見えない大量消費、大量生産ではなく、一人一人の個性に寄り添っていきたい。それぞれの新しい生き方や働き方をサポートする会社でありたいという願いが込められています。

横石:そのタイミングに合わせて、新オフィス「THE CAMPUS」の準備が進められていたわけですね。

新オフィスのコンセプトは「みんなのワーク&ライフ解放区」

山下正太郎さん コクヨ株式会社 ワークスタイル研究所所長/『WORKSIGHT』編集長

山下:コクヨは現在も大阪に本社がありますが、東京での活動の中心になっているのが品川オフィスです。築40年の古い自社ビルが2棟あって、ここをもう一度「自分達の新しい実験基地に変えたい」という思いからプロジェクトが始まり、2021年2月にリニューアルオープンしました。

横石:「THE CAMPUS(ザ・キャンパス)」という名前はコクヨの代名詞でもある「Campusノート」からきているんですか?

山下:はい。それと同時に、さまざまな人が集い、私たちがいろんな活動を学びながら展開する、大学のキャンパスのような場所というイメージもあります。コンセプトは「みんなのワーク&ライフ解放区」。この場を通じて、やりたいことは2つあるんです。

1つは、今の社会問題を解決する方法のひとつとして、「自分たちの新しいワークスタイルを提案していく」こと。

ちょうどこのオフィスを検討していたとき、パンデミックをきっかけにリモートワークが浸透しました。

ポストコロナを見据えて、オフィスとリモートワークを自律的に選ぶ「ハイブリッドワーク」に社会が移行したときに、オフィスに残すべき機能は何なのか。それを「実験していく場にしたい」と思ったんです。

もう1つは「オフィスをもっと自分らしい、気持ちのいい場所にする」こと。

この200年間、職住分離がすすみ、オフィス街やオフィスビルは、効率的に働くためだけの空間になっており、ワーカー以外の他者を拒絶するヘルシーじゃないイメージがありました。

私たちは文具や家具など「生活に近いものを作っている」ので、地域の生活者の方に、この空間を一緒に使ってほしいとの思いから、オフィスを社会と働く人、企業活動がつながる開かれた場に再編したかったんです。

そこで今回は、もともと北館と南館の間にあった建物を取り壊し、2棟をつなぐ橋をかけ、誰でも使える屋外空間「PARK」を作りました。

隣接する南館の1階には、コーヒースタンドや、コクヨ製品を新しい切り口で紹介するショップも併設しています。すべて含めると総面積の50%をパブリックに開放しているんです。

今では、お昼どきにランチを楽しむ姿や、ショップ内で、近くの会社の方がパソコン作業をしたり、近所の親子がくつろいだりする姿も見かけるようになりました。

横石:「街に開かれたオフィス」というスローガンを掲げる会社は今までにもありましたが、ここまで本気で街に開いているオフィスは珍しいと思います。

お店も、広場も誰でも使える。ランチやクレープのキッチンカーが来ていたり、土日はフリーマーケットなどが開かれたりと、イベントスペースにもなっているんですよね。

最近この周辺を知った方は、ここを会社とは思っていないかも。それくらい公共の場として親しまれている雰囲気があります。

▶︎街に開かれた「パブリックエリア」

PARK

街に開かれた屋外空間「PARK」。大型階段やデッキがあり、近隣の方々の憩いの場に。 Photo: KOKUYO

THE CAMPUS SHOP

コクヨのアイテムが購入でき、試せる「THE CAMPUS SHOP」。奥にはオフィスチェアのお試しコーナーも。(南館1階)

COFFE STAND

コーヒーを飲みながら作業に没頭できるコワーキングスペースも。

テラス

北館1階には、自由に出入りできるテラスも。

COMMONS

ワークスペースにも、イベント会場などとして使える自由度の高い開放的な空間。取材日は、社内の展示会が行われていた。 Photo: KOKUYO

OPEN LAB.

新規事業開発のためのオープンイノベーション拠点。他企業との連携を中心に、新しい技術の社会実装を目指すラボ。

6つの機能に特化した執務フロア「ライブオフィス」

横石 崇さん 「Tokyo Work Design Week」 主催

横石:リモートワークが中心になったとはいえ、このオフィスができたことで組織の空気感のようなものも変わったのでしょうか。

山下:随分変わったと思います。先ほどこの会議室の前を通りかかった社長もそうでしたが、以前と比べてTシャツで出社する人が増えました。また、社員がこのオフィスを使って副業や自主イベントをするなど自分基点の活動も展開されはじめています。

横石:「be Unique.」という新たな企業理念を打ち出し、その理念をオフィスとセットで発信していることも特徴的です。

山下:確かにそうかもしれません。やはり空間を構築するサービスを提供している会社として、その重要性を知っていますし、会社のカルチャーや雰囲気も常に見せていきたいと考えています。

「THE CAMPUS」のオフィス部分は「ライブオフィス」と呼んでいて、社員が自ら先進の働き方を実験・実践し、オフィス見学も行っています。

横石:面白いのは、「企む」フロアや「試す」フロアといったカタチで、フロアごとに用途が異なっていますよね。一般的にオフィスは用途ごとに分けるものではなく、事業部ごとなど組織単位で分けたりするものですよね。

山下:オフィスフロアは、4階〜9階の6フロアに分かれていて、それぞれ機能もデザインコードも全く異なるものにしています。

これからのオフィスがどうなっていくのかと考えると、当然必要な機能が取捨選択されていく。その中でも「実際に人と会う」ということに、どのような意味を見出すのか。

人がオフィスに来る理由を見つめ直し、今後重要になるだろう「6つの機能」をそれぞれのフロアで表現しました。

例えば、9階は「企む」。シックなデザインで、役員会議など重要な意思決定に関わる議論を行うことができる機密性の高い空間になっています。

オンラインでは、なかなか「じっくり話し合う」という雰囲気が出せないので、それを空間で補うイメージです。

7階の「試す」フロアは、模型制作をしたり、建材などの素材見本を手に取ったりして、モノを中心としたコミュニケーションができる場所。照明の調光・調色も可能で、最新の各種素材カタログもここに集約しています。

横石:本当にデザインもレイアウトも、各階でまったく表情が異なります。同じ会社とは思えませんよね。6階には「遊ぶ」フロアもありますが、これはどういうものですか。

山下:ここにはステージがあって、社員がシェアイベントや発表会などを自主的に開催しています。

ゲームボードがあったり、スナックやドリンクが楽しめるパントリーがあったり。今は難しいですが、仕事の合間にワイワイガヤガヤ雑談できる場所です。

こんなふうにそれぞれ空間に個性があって、社員は業務の性質や自分の好みで場所を選んで仕事をしています。

管理系スタッフは、主に5階の「整う」フロアを使っています。手続きやサービスの窓口としてサポートを行い、ワーカーの仕事の準備が整う。またアウトドア家具やグリーンなどを配して、リフレッシュすることで体が整うという意味も含まれています。

横石:山下さんはどのフロアがお好きですか?

山下:私は4階の「捗る」ですね。座り心地のよい椅子や昇降デスク、ハイスペックモニターなどが揃えられていて、とても集中できます。ファーストクラスのようなシートや遮音された個室もあり、とにかく短時間で一気に仕事が片づく場所です。

今までのオフィスは「何にでも使えるようにしておく」、変更しやすいデザインというのが基本的な考え方でした。でも「何にでも使えるオフィス」は、リモートワークが中心になってくると、あえて行く必要がない。

横石:面白い!オフィスに行く理由や動機づけって重要ですよね。

山下:そういう意味では、求められるのはむしろ「特化」ではないかと思ったんです。

何かの目的を達成するために、今までよりもグレードを上げたり、機能性を高めたり。目的別に専用スペースを作ることで、みんなわざわざオフィスに行く必要が出てくるのではないか。

横石:今まではオフィスのトレンドとして、ある種の余白というか、イノベーションを生み出すためのオープンなスペースが求められてきました。

でもリモートワークによって「オフィスに何を残すか」が問われるようになると、オフィス機能を分解したり、機能や用途を軸にして行動を促していくなど職場に関する解像度を上げたほうがいいんじゃないか。そういう提案にもなっていますよね。

▶︎6つの機能を備えた執務フロア「ライブオフィス」

「企む」フロア(9階)

機密性の高い会議やプロジェクトを行う場。個室とラウンジがある。 Photo: KOKUYO

「集う」フロア(8階)

集まって作業する必要があるときに。チームディスカッションやコミュニケーションをとりながら仕事を進めるフロア。 Photo: KOKUYO

「試す」フロア(7階)

プロトタイピング、検討・検証などを行うフロア。ものづくりに必要な素材のサンプルや参考資料などがまとめて配置されている。 Photo: KOKUYO

「遊ぶ」フロア(6階)

交流が生まれる場として、遊びの要素を取り入れたスペース。社内イベントを実施することも。椅子として並べられた緑のコンテナ内には防災備蓄品が収納されている。 Photo: KOKUYO

「整う」フロア(5階)

仕事の準備を整えるフロア。総務スタッフが常駐し、社員のサポートカウンター機能も。 Photo: KOKUYO

「捗る」フロア(4階)

自宅では難しい「集中」モードを生み出し、仕事に没頭するためのフロア。広々として昇降デスクや、コクーンシートや遮音された個室などがある。 Photo: KOKUYO

次世代オフィスに必要なのは「インタラクティブ」「オーセンティック」

横石:コロナ禍で1年以上リモートワークが中心になり、オフィスも変化してきています。山下さんは、これから何がオフィスのキーワードになるとお考えですか。

山下:1つは「インタラクティブ」。

オンラインでは、まだ技術的に全員がタイミングよく話すことができないため、会話も議論も予定調和になりがちです。

しかしオフィスで実際に人に会うと、全員でああでもない、こうでもないと話すことができて、膨大な情報量が入ってくる。人間はコミュニケーションのサインを言葉以外にも仕草や服装などいろいろなところから拾っているんですよね。

横石:オンライン会議は効率的だと感じる一方で、議論やブレストに不向きなのでオフィスのありがたみがよくわかります。

山下:そしてもう1つは「オーセンティック」。要するに「本物感」が大事になってくるのではないかと。

やはりリモートワークが中心になり、会社=オフィスに通わなくなると、会社との心の距離が生まれやすくなります。

自分は会社の一員であり、みんなでプロジェクトを動かしていく。そういうことを意識してもらうためにも、改めてオフィスの「質」が重要になるのではないでしょうか。

今後、会社は離れてしまったワーカーの心に対して、「自分たちの仕事の意味」や「どう社会の役に立っているか」をもう一度伝えなおす必要があると思います。

横石:このコロナ禍で個業化が進んだ結果、一番の変化は「会社に所属する意味ってなんだろう」とみんなが思うようになったことかもしれません。だからこそ、「いい会社とは何だろう」という面白い問いが生まれてきたと思っています。

山下:そもそも「会社」とは何なのかを歴史的に調べてみると、株式会社が登場するまで会社法人の歴史ってお金儲けとは関係がなかったそうなんです。一説によればイタリアの自治都市で、領主と交渉をするために市民によって作られたのが法人の始まり。

ある目的を達成するために作られた組織だから、そこに所属している感覚とか、自分が目的に対してコミットしているかということが、法人の一番重要なポイントだったわけです。

「自分が社会に対してどう役に立てるのか──」

会社の一員であるという実感は、そこから生じるのではないでしょうか。改めて考えてみると、いい会社というのは、それを感じさせてくれる会社なのかもしれません。

横石:なるほど。世の中の常識を疑って、新しい挑戦をし続けたい人たちの集まりがたまたまコクヨという会社になったのかもしれませんね。

<グッドカンパニーとは|取材を終えて>

いいオフィスとは何だろう。コクヨの新社屋を取材して感じたことは「勇気が湧いてくる」ことだった。

すこしオフィスを歩いただけでも、短パンで歩く黒田社長や様々な働き方にまつわる実験を目にすることができた。ここに居るだけで、自然と当たり前を疑うことができたり、やる気がでてきたりと、自宅にこもって作業することとはまったく異なった効果効能がありそうだ。

従業員一人ひとりの勇気が生まれ、育まれていく場所。新しいアイデアや事業はそんな勇気が集まるところから生まれてくるに違いない。(横石 崇)

※ ヒューマンファースト研究所(HUMAN FIRST LAB):野村不動産株式会社が2020年6月に設立。企業や有識者とのパートナーシップのもと、人が本来保有する普遍的な能力の研究を通じて、これからの働く場に必要な視点や新しいオフィスのありかたを発見、それらを実装していくことで、価値創造社会の実現に貢献する活動を行なっている。

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制作協力:ヒューマンファースト研究所(野村不動産)