ストレスをため込んでいませんか?

厚生労働省による労働安全衛生調査(2013年)によると、仕事や職場生活に関する、強い不安や悩み、ストレスの内容は、1位:仕事の質・量の問題、2位:対人関係、3位:役割・地位の変化など、となっています。

しかし、職場のメンタルヘルス対策を企業研修などで提供している、一般社団法人全国行動認知脳心理学会の理事長、大森篤志(おおもり あつし)さんによれば、上位3つの実態は、ほとんどが人間関係に起因するストレスであるとのこと​。

それはどういう意味なのか? また、こうしたストレスと、どのように付き合えばよいのでしょうか? 大森さんに聞いてみました。

大森篤志(おおもり あつし)/一般社団法人全国行動認知脳心理学会 理事長

行動・心理の専門家。内閣府男女共同参画社会に賛同し、国家プロジェクト「働き方・女性活躍」の講師としても活動。「行動・認知・脳・心理」に関する最新の学術研究データを取り入れた独自のサポート技術を個人・法人問わずに提供中。医師・経営者・士業などの専門職からも高い評価を得ている。また、自身が執筆・運営する働く女性向けWEBメディア「BP.Labo Woman」は月間120万PVを超え多くのユーザーの支持を集めている。

ストレスの大半は、人間関係に起因する

大森氏:前述の3つのストレス要因のうち、1位の仕事の質・量の問題は「職場での業務」、3位の役割・地位の変化などは、「管理者や会社が行う評価」によって生じるストレスです。いずれも、自分と誰かほかの人たちが介在するので、総じて人間関係に起因する​ストレスと言えるわけです。

たとえば、業務はチームで行うことが一般的で、ある人はお休みが多く、ある人はミスをしがちだとすると、その人たちをフォローするために、自分の仕事の質や量は大きく変わります。評価に関しても、​公正な評価をしてもらえないという不満や​、成果主義の一方で賃金が頭打ちになるなどの不安も​ストレスを増長させます。

つまり、ストレスの多くは人間関係から起こるもので、逆に言えば、要因が人間関係に限定されることがわかれば​、その対策も講じやすくなるわけです。

メンタルヘルスに欠かせない、ストレス耐性とは?

大森氏:そこで私たちは、2015年12月に従業員50名以上の企業のストレスチェックが義務化され、会社側ではなく、従業員のための施策として注目を集めている「メンタルヘルス対策」の一環として、「ストレス耐性を向上させる」お手伝いをはじめました。

ストレス耐性とは、ストレスにどのくらい耐えられるかという防御だけでなく、ストレスとうまく付き合っていく力を含めた総合力を意味しています。

たとえば、ストレスの負荷を感じたとしても、Aさんは落ち込むけど、Bさんはプラスに変えることができる。一般的に、皆さんが持つストレス耐性には大きな違いはありません。しかし、ウィルスなどに対する免疫や抗体と同じで、ストレス耐性が高ければ、ストレスに立ち向かうことができるわけです。

では、ストレスとどのように対峙していくべきなのか、セルフケアの方法をご紹介します。

1.ストレスを理解・自覚する

大森氏:自分がストレスに強いと思っている人は多くいます。しかし、ほとんどの人が、思わぬことで不適応を感じたり、程度の差こそあれ鬱のような症状が表れることがあります。ストレスは、最初のころに自覚症状がなく、お腹が痛いなど体調がすぐれなくなってはじめて自覚する人が多いので、ストレスに強いか弱いかということをいったん捨てて、ストレスそのものに意識を向けて、理解すること、自覚することが重要です。

ストレスのサインは、行動ベースで言うと「け・ち・な・の・み・や」(医学博士の鈴木安名氏が提唱した「ケチな飲み屋」というメンタルヘルス不全サインの語呂合わせ)で知ることができます。け=欠勤が増える 、ち=遅刻が増える、な=泣き言が増える、の=能率が下がる、み=ミスが多くなる、や=​ 辞めたいと口にするようになる。6ワードのなかで1つでも心当たりがあれば、ストレスに引き込まれやすい状況になっていると言えます。もちろん、遅刻の常習者がストレスを抱えているという意味ではなく、今まで遅刻や欠勤がなかった人に起こる行動のことです。

自分自身でストレスのサインを意識して自覚することも大切ですが、職場の人たちのメンタルの不調に気づくサインでもあるので、お互いにケアできる環境をつくっていきたいですね。

2.手軽に計れるストレスチェック&ストレス耐性度

大森氏:私たちは研修などで「ストレスのセルフチェックを習慣化しましょう」と皆さんに伝えています。カラダの健康診断と同じように定期的にストレスをチェックすることで客観的な情報を基に自分の状態を知ることができるからです。

厚生労働省の「こころの耳」というウェブサイトでは、「職場のストレス」「働く人の疲労蓄積度」など、質問に答えるだけでセルフチェックできるので、おすすめです。ストレスの原因因子などがグラフで可視化されるので、自分の今の状態がよくわかり、ストレスを解消するための指針となります。ストレスによる症状を自覚してからではなく、3カ月に1度など定期的に活用することをおすすめします。

3.こまめにストレスを解消するコツ

大森氏:ストレスはたまってから解消するのではなく、小さなストレスの時点で対策を行うことが重要です。ここでは、2つの方法をご紹介します。

マイルールをつくる

たとえば、メンタルが不調で仕事がはかどらないと感じたときは、「断る」「人に頼む」「時間に猶予をもらう」ルールにするとします。断るのが苦手な人は、断り方ではなく「謝り方」を意識してみてください。「すみません。いま本当に手一杯の状態で」と心から申し訳ないという気持ちで謝れば相手も受け入れやすくなります。その上で「でもあと1日プラスしてもらえれば問題なくできます」と提案し、自分自身に圧力をかけずに余裕を与えることができればストレスをいたずらに増大させることはないでしょう。

また、SNSを盛んに利用していると、自分がどのように思われているのか、周囲の目が気になることもありますが、実際はそれほど注視されているわけでもないので「何ごとも深く考え込まないようにする」とか、フィットネストラッカーを腕に巻き「そろそろ歩きましょう」などのメッセージが表示されたら、気分転換に席を離れてみるなど、ストレス要因を寄せ付けないのも大切です。

ルールの設定は、できそうなことからはじめてください。簡単なルールを続けることによって習慣化がしやすくなります。

身近に信頼できる相談者をつくっておく

皆さんは、気軽に相談できる人はいますか? 「そんな人は見当たらない」と言う人が多くいますが、身近なリソース、たとえば、上司や先輩・同僚、家族からはじめて、職場の外に目を向けて全員をリストアップしてから消去法によって抽出してみると​意外にいるものです。

相談者選びの基準は、主観を挟んで独自の解釈をしない人、否定しない人がおすすめです。同情もしないし、中立の人がいればベストですね。

学生時代の友人であれば、仕事の内容ではなく、性格やキャラを知っているので「俺の知っているおまえじゃないみたいだけど?」と気づいてくれることも。職場の人であっても、仕事終わりに環境を変えて相談することで、お互いに本音で語りやすくなるはずです。

ストレスは小さなうちにアプトプットするようにしてください。

4.ストレスと仲良く付き合いながら、耐性を高める方法

大森氏:これまでストレスと向き合いながら、ため込まない方法を紹介してきましたが、そうは言っても、ストレスがまったくなくなることはありません。​

では、ストレスから逃れるのではなく、どう付き合っていくべきか。私たちは、「出来事のとらえ方に柔軟性を持たせ、良いストレスに変える」のが最善の策だと考えています。

そのためには、自分の考え方の軸=アンカー(碇)をしっかりさせることです。大海原でもアンカーをしっかり下ろせば、船はブレることなく、元の場所にたたずむことができるのと同じで、動じない軸があればストレス耐性は自然と高まっていきます。

アンカーのつくり方は、「自分は何のために働いているのか」「仕事に何を求め、何を大切にしているのか」​「望むキャリアは」など、自分の​働く目的やキャリアプランを明確にすることです。アンカーがあれば、ストレスに感じることでも、客観的な思考でポジティブに変える大きな力になります。

自分のアンカーを持ち、マイルールで仕事を進め、時にはストレスチェックを行って今の状態を確認する。この一連の作業をまず、試してください。

ストレスは目に見えにくく、その一方で、頭痛や肩こりをストレスの原因かもと疑ってみたり、実はわかりづらいものです。その意味で、ストレスチェックで自分のメンタルを客観的に理解したり、ストレスをため込まない術を習慣として採り入れるのは、ココロの健康を維持するためには欠かせない方法かもしれませんね。

(聞き手・文/香川博人)

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