昨今、我々の子ども世代は寿命が100年ほどになってくるだろうとも言われています。ということは年金システムを崩壊させないためにも定年が延長されることが想像できます。70歳でしょうか、80歳かもしれません。20代で社会人デビューをしてから50〜60年もの間働くことになります。

娘がこの長い長い社会人生活を女性として有意義に過ごすために、どんな準備が必要なのかと考えた時に、我々夫婦が出した結論は、受験や塾を意識した日本型偏差値教育の王道を歩ませるのではなく、地球人として世界中どこでも好きなところで好きなように生きる力を身に付けることでした。そしてそれを実現できる場所がたまたまスウェーデンだったので移住を決意しました。

「現在のスウェーデン社会は我々の理想にほぼ近い」

我々は娘に対して特定のレールを敷こうとは思っていません。医者になってほしいとか弁護士になってほしいとか、金持ちになってほしいとかそういった方向性は一切示すつもりはありません。

情報が溢れ、何が正解か分からない世の中で柔軟に、たくましく生きていけるだけのスキルを身に付けさせることが必要なのです。現代社会で充実して生きていくには、失敗を重ね、恐れずチャレンジし続けるマインドがもっとも大切なのです。

スウェーデンを調べてみると、すでに我々の理想にほぼ近い形で社会が形成されていることが分かりました。

筆者と3歳の長女、先日生まれたばかりの次女。この子たちには「受験も偏差値も、夏休みの宿題もなし、男女差別・人種差別なし」の自由な環境で将来の生きる道を自ら定めてもらいたい。その環境を用意するのが親である私と妻の役割。 1. 終身雇用は存在せず。「当たり」が出るまでキャリアを変えて良し 同僚のエンジニア、Robin Westerlundくん(30歳、写真右)。23歳で大学を卒業してからすでに5社目。彼のように若い内から5社前後を経験することはスウェーデンでは一般的で、ネガティブなイメージはない。嫌だからその会社を辞めるというのではなく、色々な企業を見て回り、自分に本当にあった会社・職業が何なのかを探るために必要なプロセスと考えられている。日本の終身雇用制度について彼から言わせると、 「1社目が自分にとってベストな会社である確率なんてとんでもなく低いんじゃないか?」とのこと。また、副業で自分の会社を持っており、趣味でジープを改造し、その過程で生まれたオリジナルの部品を売っているそう。

まず、スウェーデンと日本では、従業員と会社の距離感がまるで異なり、たとえば退職金は存在しないので転職も日本と比べたら遥かに気軽に行われ、生涯1つの会社で勤め上げるスウェーデン人は極めて稀です。ですので、転職を繰り返すことはスウェーデンでは悪とされていませんし、むしろ長い間1つの会社に在籍し、出世もできていないとなると”意欲がない人"と形容されるほどです。また、社会人がいったん仕事を辞めて大学に通い、それまでとはまったく異なる職種に就くこともそれほど珍しくはありません。スウェーデンでは専業主婦が2%しかおらず、共働きが当たり前なので、仮に数年間に渡り世帯収入が半分になったところで何とかやっていけるのです(その間の国から借金をすることもできます)。

このように、長い社会人生活の中でキャリアの再構築が可能な柔軟な社会となっています。私の周りの同僚で、この会社が一社目の人は誰もいません。一社目、二社目で報われなくともチャンスはあります。自分の居場所が見つかるまで、幾度となくチャレンジができる社会は素晴らしいと思います。

2. 女性の社会進出は世界トップクラス 同僚の購買担当、Gabriella Skoglundさん(30歳)。高校を卒業してからしばらく働いた後、大学の工学部へ進学。3年で学士の学位を取った段階で1年休学し、 マレーシア、タイ、シンガポール、ニューヨーク、パリ、どこの大学院へ進学すべきか、自分探しの旅へ出たそう。1年間で十分すぎるほど将来について考えたことで、大学院の2年間はやる気十分で過ごすことができたとのこと。大学院で学んだ専門性を活かし、スウェーデンの巨大トラックメーカーSCANIAへ入社し、2年ほど勤めて現職。 日本ではこういった女性は“バリキャリ総合職”などと形容されるが、スウェーデンではこうした女性が ゴロゴロしている。そもそも総合職、一般職のような垣根が存在しない。

スウェーデンでは世界トップクラスの男女平等社会で、たとえば国会議員の半数は女性であり、企業の女性管理職や役員の比率も日本とは比較にならないレベルで多く存在します。育児休暇制度は夫婦もしくは事実婚のカップルでそれぞれ240日ずつ、両親でトータル480日与えられ、社会保険庁より給与相当の手当が支給されますが、片方の親が480日を丸々取得することはできず、もう片方が最低90日取得しないとその分の手当が減額されます。

これは、国が男性の育児休暇取得を後押ししていて、実際にこの制度はきちんと定着しています。私の男性の同僚もここ1年で4人が取得済みで、今年は2人、来年は私といったように、きちんと生きた制度として実際に運用されています。

スウェーデンでは平日の昼間にお父さんがベビーカーを押す光景をやたらと見かけます。

3. 誰もが英語を完璧に話しグローバルに活躍するのが当たり前 娘も日本語、スウェーデン語、英語と3つの言語を話せるようになっている。就学前学校に通って半年で友だちとの会話はほぼスウェーデン語に。親がまったく教えていないにも関わらず英単語がやたらと出てくる。

スウェーデンは英語を母国語としない国の英語力ランキングで常に1位2位に位置しています。つまり子どもは放っておいても勝手に英語を学んでくれます。近所の4歳の子が既に私と英語で会話ができるのです。親に聞いたらYouTubeで覚えているとのこと。

英語が当たり前のように話せるスウェーデン人は、自分の好きな国または興味のある国で働いている人が多く存在します。会社の命令=転勤でその地に赴任するのではなく、自らの意思でその地で生きているのがポイントです。現に私が東京に住んでいたころは何人ものスウェーデン人と仲良くなりました。彼らに共通していたのはいずれも企業の駐在員ではなく、自分で日本の会社を選び、職を得た人たちで、彼らにとってはこれが珍しくないことなのです。

スウェーデンの教育事情 娘が通う就学前学校の校庭。

以上の通り、スウェーデンは我々夫婦が望む「子どもが100年ライフをグローバルに生き抜く方法を学べる」社会基盤が既に出来上がっているのです。

では、そのスウェーデンの社会を作り出す基盤となる教育事情はどうなっているのでしょうか。実際に3歳の娘が通う就学前学校(スウェーデンは幼保一体)から得た印象を書いてみます。

日本とは異なる挨拶文化から透けて見える自主自律精神

日本の小学校や幼稚園でよく見かける、子どもたちが一斉に大声で挨拶をする光景は、スウェーデンでは見かけません。それどころか、娘が毎朝お友だちに挨拶をしてもなかなか返って来ませんし、先生がその光景を見ても特に挨拶を促すようなこともしません。もちろん先生からは返答がありますが、何故子ども同士挨拶をさせないのか、“挨拶はすべての基本”と習ってきた我々にとってはなかなか理解できないことでした。

ところが、ご近所さんや私が勤める会社の大人たちは必ず挨拶をします。日本の会社に勤めていたころを思い出すと、逆にきちんと挨拶をする人は少なかったと思います。中にはまったく挨拶をしない人もいましたし、気付いたらいつの間にか出社や退社をしている人もいました。

日本→子どもはしっかりと挨拶をするが、大人になると挨拶をしなくなるスウェーデン→子どもはあまり挨拶をしないが、大人になるとちゃんと挨拶するようになる

ここにスウェーデンの教育の思想、と言ったら大げさですが、国民性が現れていると感じます。先生は最初に、子どもたちへ「挨拶した方がいいよ」程度にしか教えません。ですから、実際に挨拶をしてみる子もいればそうでなかったり、挨拶をしてみて返答があったら嬉しいですし、無視されたら辛いということを子どもなりに学ぶのです。最初は挨拶をしない子でも、周りを観察し、やがて「挨拶した方が楽しいな」ということに気づいていくのです。

遊具に関しても、日本では禁止されるようなちょっと危ない遊びも盛んに行われている印象です。この点はご近所さんや同僚に聞いてみましたが、誰もが「多少スリルがないとつまらないでしょう」とか、「実際やってみてケガをしたり痛い思いをしないと分からないでしょう」と言います。

こんな調子なので、ちょっとした擦り傷や打撲等では先生から何も説明はないですし、仮に何があったのか聞いても「さぁ、どっかから落ちたんじゃない?」程度の扱いでしょう。さすがに骨折でもすれば別の話ですが。

このように個人の自主性を尊重するというか、各自にトライ&エラーをさせて学ばせるところが至る所で見受けられます。そしてこの考え方は社会人になっても感じることができます。まさに私が毎日会社で働く上で経験しています。上司からの具体的な指示はほとんどなく、大枠だけ伝えられてあとは目指すところも含め、自分で勝手にやる印象です。

日本でよく聞く「何かあったら大変だ。だからアレもコレもやっちゃダメ or アレもコレもやっておけ」というのはスウェーデンではまず聞きません。スウェーデンでは「好きにやって勝手に学びなよ」というスタイルですが、これが大人になっても続きます。日本のように細かい間違いを即座に指摘する文化はなく、気付けるかどうかは本人のセンス次第といった具合です。

最後に

スウェーデン社会が完璧だとは思っていません。随所に改善すべき点は見受けられます。

たとえば、昨今では移民・難民が増えており、学校には彼らの子どもが増えてきています。しかし、その中には母国で教育をまったく受けたことがない子もおり、授業中に騒ぎ始めて授業が成り立たないという問題が起きています。これは子どもの自主性を重んじるが故に子どもを強く叱ることができないという、スウェーデンならではの問題です。結果として、経済的に余裕のある家庭は評判の良い学校の近くへ引っ越していき、教育における地域間格差も生まれ始めています。

ただし、1年少々スウェーデンに住んでみた結果、その時代に合わせて個々及び社会全体で課題に立ち向かい、個人の幸せを最大化していく柔軟性を特に強く感じます。

仮にこの先スウェーデンが我々の理想と離れていく、もしくは我々の理想自体が変化していった場合は、また最適な地を選んでその地で暮らしていきます。自分で考え決断していく姿勢と、柔軟かつたくましく生きる姿を娘に見せてあげられればそれで十分だと考えています。

吉澤智哉(よしざわ・ともや) | Blog | Facebook |

東京都出身ストックホルム在住。妻と3歳の長女、生後1カ月の次女と暮らす36歳。2016年3月より、スウェーデンの自動車部品メーカー Öhlins Racing ABにて研究開発業務に携わる。

12〜14歳は米国オハイオ州で過ごす。日本大学理工学部機械工学科を卒業後、(株)本田技術研究所及び(株)ホンダレーシングにてオートバイの車体設計に9年間従事。娘の誕生をきっかけに、ワークライフバランス向上を目指し32歳でBMW Japanへ転職、品質エンジニアとして2年間勤めた後に更なる家族の幸せを求めスウェーデンへの移住を決意。