スポーツ大国アメリカでは、「励ます技術」が確立されています。

この励ます力は、「ペップトーク」と呼ばれています。

スポーツのドラマや映画で、試合前のロッカールームやグラウンドでチームの監督が選手たち路励ますシーンを見たことがあるのではないでしょうか?

ペップトークは、もともとスポーツなどの試合前の激励のコーチング話術です。

ペップとは英語で「元気・活気」という意味で、ペップトークとは、試合前のロッカールームで緊張し身震いする選手たちに向かい、監督やコーチが心に火をつける言葉がけのことを言います。(「はじめに」より)

『たった1分で相手をやる気にさせる話術ペップトーク』(浦上大輔、フォレスト出版)の著者は、本書のテーマである「ペップトーク」についてこのように解説しています。そして分析してみた結果、ペップトークには5つのルールと4つのステップがあることがわかったのだそうです。

【ペップトークの5つのルール】

1. ポジティブな言葉を使う

2. 短い言葉を使う

3. わかりやすい言葉を使う

4. 相手が一番言ってほしい言葉を使う

5. 相手の心に火をつける本気の関わり

(「はじめに」より)

【ペップトークの4つのステップ】

1. 受容(事実の受け入れ)

2. 承認(とらえかた変換)

3. 行動(してほしい変換)

4. 激励(背中のひと押し)

(「はじめに」より)

こうした考え方を軸に、本書ではペップトークを使いこなし、「周囲に影響力を与える人」になるためのメソッドを紹介しているわけです。第3章「相手のやる気を最大限に引き出すペップトークのつくりかた」に焦点を当て、基本だといえる「ペップトークの5つのルール」を確認してみましょう。

ペップトークのルール1:ポジティブな言葉を使う

ポジティブなものの見方や表現によって、相手に思いを伝える。そうすることにより、相手の心の状態がリソースフルになるのだと著者は記しています。リソースフルとは、自分の能力を最大限に発揮している状態のこと。そんな心の状態が、相手の持っている力を発揮させやすくするというのです。

たとえばサッカーの試合で、「シュートを外すなよ!」といわれるよりも、「ボールが来たら思いっきり足を振り抜け!」といわれたほうが力を発揮しやすいのではないでしょうか。

それはビジネスの現場でも同じで、お客様からクレームがきたときに上司から、「なにか問題が起こったらしいね。どうしていつも問題ばかりなんだ」と文句をいわれるより、「これは、もっといいサービスにしていくチャンスだ」と前向きな言葉を投げかけてもらえたほうがやる気になるわけです。

つまり「ポジティブな言葉を使う」ことは、相手の不安や緊張を取り除くためには絶対に必要な要素だということ。(87ページより)

ペップトークのルール2:短い言葉を使う

ペップトークは「励ます言葉」であるだけに、これから本番がはじまる、直前のあまり時間を取れない場面で使われることが多いもの。そのため、短い言葉で伝えると効果的だと著者はいいます。

長々とした言葉だと、どうしても不必要な情報や意味のない繰り返しの表現が多くなってしまいます。しかしそれは、本番前の貴重な時間を浪費してしまうことになります。また、言葉を聞くことに集中力を使わせてしまうというデメリットもあるそうです。

一方、短い言葉は、相手の心にすっと入っていくもの。そのため、話す際には言葉の断捨離が必要になるのだと著者は主張しています。たとえば伝わりづらい例が、次のような長い話。

「相手チームの攻撃は相当強い。かなり攻め込まれることが予想だれる。攻め込まれたときこそ我々はしっかり耐える必要がある。とにかく耐えるんだ。そしてがっちり守っていれば、必ずチャンスが訪れる。きついかもしれないが、そのチャンスをしっかり待って…」(88ページより)

これだと聞いているほうは話の的を絞ることができず、頭にも入っていかなくて当然。それを、もっと伝わりやすくするためには短い言葉が有効だということです。

「俺たちらしく、がっちり守って、ワンチャンスをものにしよう!」(89ページより)

このほうが、「耐えてチャンスをものにしよう」というメッセージが、聞き手にもスッと入っていくということ。(88ページより)

ペップトークのルール3:わかりやすい言葉を使う

緊張していたり、不安になっていたり、気持ちが高ぶっている相手に対してわかりづらい言葉を使うと、励ましのチャンスが意味不明で残念なものになってしまうといいます。だからこそ、普段から使っている「相手がわかる言葉」を使う必要があるというのです。

ちなみにこの考え方の背後には、ペップトークがアメリカで発展したという背景も影響しているのだとか。多国籍国家であるアメリカには、さまざまな言語を話す人たちがいます。必ずしも英語が堪能な人だけとは限らないため、みんながわかるシンプルな言葉で伝える必要があったということです。

日本語で考えてみましょう。たとえば「勝負の世界は優勝劣敗とは限らないぞ!」と発言した場合、発言者当人はかっこよく思えるかもしれません。ところが聞いている側の立場に立った場合、「優勝劣敗」の意味がわからなければ、頭にも心にも入ってこないことになってしまいます。

そこでこうした場合は、「優勝劣敗」を日常的に使っている言葉に置き換え、「強いものが勝つんじゃない、勝ったものが強いんだ!」と発言したほうが伝わりやすいということです。(89ページより)

ペップトークのルール4:相手が一番言ってほしい言葉を使う

私たちは伝える側の立場でものをいいがちですが、大切なのは、相手の立場になりきってその人の精神状態を理解し、寄り添った言葉がけをすること。ペップトークとは自分がいいたいことをいうのではなく、「相手がいってほしいこと」を伝えることだという考え方です。

そこで重要なのは、本番を前に、どんな立場、状況、精神状態なのかを相手の立場に立って受け入れること。そして、本来の力を発揮できるだけのやる気を引き出し、なにに意識を向け、なにをしたらよいかを的確にアドバイスするべきなのだといいます。つまりペップトークとは、相手のやる気のスイッチを押す言葉だということ。

やる気のスイッチは人それぞれ。スポーツの現場であれビジネスシーンであれ、誰もが同じ言葉でやる気のスイッチが入るとは限らないわけです。そのため、「人によって一番いってほしい言葉は違う」ということを頭に入れておき、相手に適した言葉を考えることが重要だというのです。(90ページより)

ペップトークのルール5:相手の心に火をつける本気の関わり

前向きな言葉、あるいはやる気を引き出す言葉も、本気の関わりがあるからこそ相手に伝わるもの。相手を「本気で応援する」「本気で成功してほしい」という思いを持つことが大切だということです。

そのため、普段から信頼関係をつくることが重要。「この人にいわれたら絶対にやりたい」と思われる人であるからこそ、本番前にかける言葉の切れ味が増すという発想です。(91ページより)

本書を読むと、スポーツにおける励ましの言葉と、ビジネスの現場でのそれとの間には共通点があることがはっきりわかります。つまり著者の考え方を柔軟に吸収すれば、それを自身のパフォーマンス向上に活用できるということ。相手との関係性を改善させたい人は、ぜひとも読んでおきたいところです。