ものづくりが盛んな大阪市東成区にある、プラスティック加工会社「旭電機化成」をご存知だろうか。直近では虫に直接触れずに外に逃がすことができる画期的な商品「触らず むしキャッチリー」がSNSをきっかけに大ヒット。

実はこの会社、『月曜から夜ふかし』(日本テレビ系)などでおなじみ、ユニークな発明で人気を博す「なにわのエジソン(おちゃっぱー)」こと木原健次さんが特別顧問を務める会社だ。

ほかにも「ふたがトングになる保存容器」「レモンしぼり革命」「しっぷ貼りひとりでペッタンコ」など、独特なセンスかつ痒いところに手が届く便利グッズが続々。そんな同社の商品開発には、学生や主婦ら一般の「発明家」によるアイデアが深く関わっている。そこで、同社の原守男専務に発明家にまつわるエピソードやものづくりのコツを訊いた。

■「なんとか作ったろ」の精神で…学生との商品開発

──「虫嫌いだけど殺したくないんだよね」「駆除ではなく逃がすという発想がすばらしい」などツイッターで話題となった「触らず むしキャッチリー」は、学生さんのアイデアなんですよね。

そうなんです。全国の大学生が参加する商品企画コンテスト『Sカレ』の優勝アイデアで、日本大学商学部の学生さん4人が開発しました。『Sカレ』ではただアイデアを出すだけじゃなく、イチからコンセプトを考えて、製造から販売、宣伝までするんですが、学生さんが卒業すると生産や販路も無くなるし、販売終了になってしまうんですね。

『Sカレ』に参加されている知り合いの企業さんから、「むしキャッチリー、なんとかできないか?」と話が来まして。で、話を一通り聞いてみるとウチのコンセプトとも合いますし「ほなやらしてもらいますわ」と返事させてもらいました。

──そんな経緯があったんですね。学生のアイデアを商品化することはよくあるんですか?

「ねこのコンセントカバー」「迷惑電話お断りピンポン」などは学生さんのアイデアです。大阪商業大学で開催されている『ビジネス・アイデアコンテスト』で入賞した案を商品化しました。

ウチは8年前から協力企業としてコンテストに参加してますが、大学側は開発に関していっさい口を出さずに、僕らと学生さんに委ねてくれています。ウチが参加するまでは、コンテストで優勝しても商品化まで進まなかったそうなんですけど、ウチではもう5、6点は商品化してます。

──そんなに商品化ってできるものなのですか?

いえ、リスクの大きさを考えたら簡単にはできないですけど、それはもう「なんとか作ったろ」という精神で(笑)。商品化に向けて学生さんと20回以上の打ち合わせを重ねるんですけど、最初は緊張していた学生さんとも次第に職場の仲間のような距離感になって、アイデアや改善策をどんどん出してくれるんですよ。

■ 一般人からの持ち込みも、ひとまず話を聞いてみる

──学生以外にも、一般の発明家によるアイデア商品も多いとか。

ウチに持ち込みに来る人は多いですよ。特にテレビ出演のあとは、会社に資料を送ってくる人や、「特許を取った発明品がある!」と電話がかかってきたり・・・とにかく「見てくれ」「聞いてくれ」という問い合わせが増えますね。まずは話を聞いてみようということで打ち合わせをしますけど、一筋縄ではいかん人ばかりです(笑)。

──たしかに「発明家」というと、情熱がすごいイメージがあります。

福岡県から、はるばる車で10時間かけてアイデアを持ち込んできた発明家もいました。「飛び出さない!ラップホルダー」という、ラップの箱に差し込んで本体が飛び出さないようにできるストッパーなんですけど。普通、アイデアを思いついたらそこで満足してしまうんです。

でもその人は金型も注文して、商品化まで1人で進めてしまったんですよ。出来上がった商品は息子さんが細々とインターネットで販売してたそうですけど、なかなか売れなかったみたいでね。

──ええ! 商品化のノウハウも無い一般の方ですよね?

本業は理髪店の店主さんでした。理髪店って、時間帯によってはお客さんが来ず、暇な時間も多いそうで。ヘアカラーでラップを使うこともありますし、暇な時間にアイデアが浮かんだんちゃうかなぁ。

──すごい行動力ですね。

でも、完成品を持ち込まれることなんて本当に珍しいですよ。投資も終わった状態なので、売れ行きが悪くてもリスクは少ないんです。とはいえ、そのまま引き取るわけにもいかないので、問屋や小売店で「どのラップにも当てはまるサイズなのか」「売れる見込みはあるのか」と調べる時間をもらって。

最終的にどの会社のラップにも当てはまることが分かったので、在庫や金型も買い取らせてもらい、ウチで扱うことになりました。それまでお店に在庫の段ボールが積まれていたそうで、深く感謝されましたね(笑)。

──そういうケースもあるんですね。

力を入れずにレモンを絞ることができる「レモンしぼり革命」のアイデアを持ち込んだ発明家は、主婦の方でした。家事のかたわら15年も研究し続けて、ある日「どうしても見てほしい」とウチに木製の試作品を持ち込んできたんです。

家族の力も借りてさまざまな形の試作品を30〜40個作って、普通の山型タイプより弱い力で汁が絞れる「剣山型」にたどり着いたそうです。「私が考えたのはここまで。あとを商品化してくれませんか」とのことで・・・特許まですでに取っていたんですね。

普段はどれだけ見込みがあるアイデアでも一度は「検討します」と返すんですが、「レモンしぼり革命」は持ち込みの段階で「これやりますわ!」と返事をさせてもらいました。

■ 発明家の人は、ほんまにしぶとい!

──同じシリーズで「ごますり革命」という商品がありますが、これも同じ方のアイデアですか?

「ごますり革命」は、その人のお友だちがアイデアを持ち込んできたんですよ。すり鉢を使わず、お茶碗やどんぶりでごまをすることができる道具なんですけど、この人も原型まで完成させてました。思わず「何年温めてたアイデアなん?」と聞いたら、その人も「15年くらい」と答えてましたね。

──その方も15年! しかも「レモンしぼり革命」の方のお友だちなんですね。

たぶん、発明家仲間なんでしょうね。ほんま、発明家の人はしぶといです。その人は、メイン部分のごまをする部分だけを研究していたんですけど、それだけ商品化するのは味気ないので、薬味をまぜられるスプーンに、しょうがやにんにくをおろす突起部分、計量用のラインを加えて。1本4役の商品に仕上げさせてもらいました。

──「〜革命」という名前もまたインパクトがあって覚えやすいです。

それは発明家直々の命名ですね。レモンしぼり器の形は、100年ほど山型のままだったそうです。でも剣山型のしぼり器を発明したということで「これはレモンを絞る革命が起きたからレモン革命や!」と熱弁されてました。僕らも圧倒されて「ほな革命シリーズでいこか!」とネーミングを採用しました。

発明家のアイデアを商品化するときはいつもそうなんですけど、パッケージのデザインを決める会議にも参加してもらいます。こちらで作ったデザイン案をいくつか見せて、何回も打ち合わせを重ねるんですよ。

──やっぱり商品化するには、アイデアをそのまま採用するわけじゃなく、旭電機化成さんのリサーチや改良が重要なんですね。

そうですね。「ごますり革命」もですが、そのまま商品化するにはもうひとアイデアが必要なものもありますし、料理で使う商品の場合は熱に強い素材を選ばないといけないです。基本的なアイデア部分は出してもらって、細かい部分や素材、パッケージなどはウチに任せてもらうことがほとんどです。

でもなるべく発明家には参加してもらって、「よかったら一緒にあれこれ頭をひねって、発明を楽しんでください」と声をかけて意見をもらうようにしています。そうすると、やっぱり思い入れがすごいから、少しでも良いものにしようと一生懸命意見を言ってくれるんですよ。

■ 発明家の思いを応援し、繋げていきたい

──発明家と会社で二人三脚で作っていくんですね。やっぱりアイデアをもらって、商品化まで進めるのは難しいことなんでしょうか。

すぐ商品化できるようなアイデアが舞い込むことはなかなか無くて、ほとんど断ってます。「1000の商品のうち、成功するのはわずか3つ」という「千三つ」っていう言葉があるんですけど、僕らはその「3つ」を見つけ出すために持ち込みに対応し続けています。

──それは旭電機化成さんの方でもかなりの労力ですよね・・・。

正直、あとで権利関係で訴訟される危険性もありますし、1人1人に対応する時間も取れないんで、どこの会社でもアイデアの持ち込みなんて受けないのがほとんどです。

だけどウチの場合は逆で、誰からの持ち込みも受け入れようと。「行き過ぎた人が来たらどうしよう」と怖くなることもありますよ。でも、彼らの情熱はすごいですからね。

やっぱり、発明家の思いを応援して繋げていきたいです。発明家のみなさんが一生のうちに思いつくアイデアを1つや2つ商品化できたら、僕らにとってもありがたい話です。

──そこまで熱意を持って発明家のアイデアを受け付けるのは、なにか理由があるのでしょうか。

最初は、僕も含めて社内でアイデアを出してたんですけど、15年くらい前からだんだんとネタ切れしてきて。そこで、発明家や学生さんからもアイデアをもらうことにして、とにかくネタの入り口を増やしていくことにしました。

僕らみたいなものづくりの世界でやっている人間が考えると、その延長線のアイデアばかりが出てくるんです。ところが発明家や学生さんから出てくるのは、まったくちがう角度のアイデアなんですよ。それこそ「むしキャッチリー」なんて、とても考えつきませんね。

──なるほど。職業や立場ごとに思いつくアイデアもありそうですよね。

お風呂屋の番頭さんがアイデアを持ち込んだこともありました。銭湯って、開店時間から2時間くらいはお客さんが来ず暇な時間があるそうで、その時に考えたアイデアらしいんです。散髪屋さんのパターンと同じですね。自由で練りこまれた発想を出してくれるんですよ。

忙しい人は考える時間がないので、アイデアを思いつくことができない。「心の余裕や暇が、新しいものを生み出す」と気づいてからは、僕もなるべく暇な時間を作るようにしています。なので、考える心の余裕があれば、誰でも発明家になれるんですよ。

取材・文・写真/つちだ四郎