数々の映画メディアで活躍し、本サイトLmaga.jpの映画ブレーンでもある評論家ミルクマン斉藤。映画の枠に収まらず多方面に広く精通する彼は、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)も注意深くチェックするという。今期の『スカーレット』についてどう観ているのか、第16週(1月20日〜25日放送)までを鑑賞して思うところを訊いた。

なんとも突然、編集部から持ちかけられた朝ドラレヴュー。僕のように映画評論を主にしている者にとっても、ここ数年見逃せないTVドラマの筆頭格が朝ドラなのである。

とりわけ新人女優発掘の目利きは結構なもので、近年では『あまちゃん』の能年玲奈に橋本愛に松岡茉優、『あさが来た』の吉岡里帆に清原果耶、『ひよっこ』の松本穂香などは大金星。

朝ドラ出演以前に印象に残る作品はあったものの、それ以降一般の注目を集めることになった女優となれば、土屋太鳳やら有村架純やら芳根京子やら伊藤沙莉やら枚挙にいとまがない。

で、今期の『スカーレット』だが、今のところそういった新味がまだ見受けられないのが残念。あえていえば大島優子なのかも知れないが、彼女はAKB48卒業後、すでに映画の世界で着実に実績を積んでいる。

しかし、彼女のように「華のある」存在が今回のような作品にはいかに貴重なことか。なんせ全体的に「華」が決定的に欠けているのである。

その筆頭が八郎役の松下洸平。出演歴を眺めるとけっこう観ている作品はあるのだけれど彼のことはまったく記憶にないことが(僕的には)証明するように、メインキャストなのに地味すぎる・・・というか、まさに華がないのが致命的。

確かに演技は拙くないが表情が数種類しかなく観ていて飽きる。まあ、ツイッターなど眺めると彼に「色気」を感じる女性は多々いるようだけど、ただ意思の弱さを感じるばかりで、僕にはてんで解らないなあ。

戸田恵梨香との夫婦漫才ふうな掛け合いは悪くないが、楽しいというまでには至らず、まったりと冗長。推進力というものが全然ないのだ。そもそもドラマにダイナミズムを欠いたまま、半年過ぎてきて困っているのだが。

キャラクターがウザ過ぎるのも問題だ。なんだかんだ言って家族に愛されていたらしいお父ちゃんは、僕にはただ横暴で理不尽な男にしか見えなかったし、戦火のトラウマを抱えているらしい次女・直子も、同情には値するが妙齢に達するともはやサイコ。信作くんも優柔不断でちゃらんぽらんな、あまりにも軽い男でしかない。

つまりかわいげがないのだが、それぞれを演じる北村一輝、桜庭ななみ、林遣都は「そういうキャラ」を巧みに演っているだけなのだからさほど罪はない。ほとんどは脚本・演出のせいである。

もっとも信作くんは、三女・百合子というこのドラマにしては貴重なニュートラル的存在によって、このところかわいさが増しているが。百合子役の福田麻由子は子役時代から確かな演技力を持つチャーミングな女優で、今回のような混沌のなか、しっかり脇を固めていて頼もしい。

そういえば肝心のヒロイン・川原喜美子=戸田恵梨香に触れてこなかった。主役なのになんせ見せ場がないんだもの。周囲に流されるだけのヒロインの、どこに魅力があるのか。そこそこ華があった大阪時代のエピソードも水野美紀や三林京子や木本武宏に見せ場を奪われっぱなしだったし。

しかし今週、いささか変動があった。ついに彼女が我を剥き出しはじめたのである。

第16週「熱くなる瞬間」

喜美子のモデルである神山清子については、高橋伴明監督の映画『火火』(2004年、演じるは『おしん』の演技怪獣・田中裕子!)でしか知らないのだけれど、ようやくその世界に近づいてきた。

ま、朝ドラにおける「モデル」はあくまでも「モデル」に過ぎないのであって、伝記どおりに進んだためしがないから、この後の展開は知ったこっちゃない。

ただ、この16週でようやく陶芸の世界に本格的にヒロインが打ちこむようになったのは、遅きに失したものの面白みが増してきたってものだ。

その導火線となったのが、八郎の弟子となった松永三津(黒島結菜)である。彼女によって八郎は変わった。

兆候は感じられたものの、いきなり妻の陶芸家的才能への嫉妬と敗北をぺーぺーの弟子に吐露してすっきりしたのか(このいきなりさはドラマ的には問題あるけど)、「芸術は喜美子に任した」とあっさり表明もして、彼は芸術陶芸からレディメイド的陶芸へと移行するのだろう。

また三津も、お互い二流にしかなれない才能である師匠に対するシンパシーもありロリータ的ファム・ファタル(魔性の女)の本性を加速的にあらわしてくる。穴窯の炎に必死の喜美子を横目に、傍らで眠る師匠にキスしようとする黒島結菜にはニヤニヤだ(彼女は大河ドラマ『いだてん』も、映画の『カツベン!』も素晴らしかったねえ)。

でもこの展開じゃあ、僕が知るところ朝ドラ史上最高傑作『カーネーション』の尾野真千子と綾野剛みたいな次元までは踏み込まないんだろうけどね。三津もまた一般的にはウザいキャラだろうし、それは僕も認めるが、黒島結菜はただそれを絶妙に演じているに過ぎない。

とにかく八郎は妻のために穴窯を造る。喜美子がまだ子ども時代のエピソードでいい味出してた村上ショージの設計図と試案を基にして・・・、というのはちょっといい伏線だ。

ここから喜美子がどんな作品を造りあげていくのか、それを朝ドラという市場で、作品の芸術的価値が万人に判るように示していけるのかは興味あるところ。また三津と百合子がちょいとシスターフッド的な関係を築きはじめたのも楽しみではある。

文/ミルクマン斉藤

(本稿は16週の放送終了直後に寄稿されたものです)

喜美子が思い描く作陶のため、穴窯作りに奮闘した第16週。続く第17週(1月27日〜2月1日)では、穴窯の炎に苦戦する喜美子が描かれる。