数々の映画メディアで活躍し、本サイトLmaga.jpの映画ブレーンでもある評論家・ミルクマン斉藤。映画の枠に収まらず多方面に広く精通する彼は、NHK連続テレビ小説(朝ドラ)も注意深くチェックするという。この春スタートした『エール』について、第3週(4月13日〜17日放送)を観て思うところを訊いた。

第3週「いばらの道」

前週の終わりで時代はワープ、3年後の大正15年(1926年)、関東大震災後の福島。

窪田正孝へと配役をチェンジした主人公の古山裕一は、二度目の商業学校4年生。つまり留年したわけである。何故かというと、授業中、算盤の玉ではなくずっとオタマジャクシ=音符を書いていたから。もう音楽にずっぽしである。

いやもう、とにかく窪田くん流石、としか言いようがない。

もともと人を恨まぬ鷹揚さ。音楽が好きで好きで没頭したら周りが見えなくなる、他人から見れば浮世離れした滑稽さ(まあ、オタク、ギークといったものに近い)。すでに傾いている実家の商売に、長男なのに何もできない、やる気も起きない、やるつもりもない自分という役立たずな存在の後ろめたさ。

そんな裕一を変に深刻になることなく軽妙に演じてしまっていて、その演技スキルの安定感が良い意味でスゴい。

「オリジナル曲はなかなかの考古学的再現度」

当時の学生音楽界はハーモニカが大流行。裕一も地元の「福島ハーモニカ倶楽部」に誘われることになる。

そこには小学校時代にさんざ苛められた2人組の、「デブじゃないほう」の楠田くん(かつて山下敦弘の『リンダリンダリンダ』や『天然コケッコー』に出ていた俳優・大津尋葵)がバス・パートで在籍していたが、昔のことなどなかったようにマトモになっている。

ちなみに大正〜昭和初期の学生アマチュア音楽層を支えたのはハーモニカ部とマンドリン部。いっぽうのマンドリン界から現れた歌謡界の至宝が『影を慕いて』の古賀政男であるから、やがて裕而≒裕一との関わりも描かれるのだろうと推測できるのだ。

それはともかく、勢いに任せて月曜の第11話、週明けのたった1話のうちに裕一は定期コンサートのための書き下ろし曲を命じられることになるが、東京の音楽学校出の舘林会長(演出家・蜷川幸雄門下の俳優・川口覚)に「ちゃんとした理論も学んでないのに本気で音楽家になるつもりだったのか? 身のほどを知ることも大切だよ」と上から目線で一笑に伏されて俄然奮起。

しかし翌日、火曜の第12話で裕一の父(唐沢寿明)は京都のペテン師(田口浩正)に騙されて大金を失い、仕方なく母方の実業家・権藤家を頼らざるを得なくなり、代価として裕一は権藤家の養子に・・・というまさに怒涛すぎる展開に!

伯父の権藤茂兵衛(風間杜夫)はどこまでもプラグマティック(実用主義)な性格であるから、あちらの家に行けば音楽への道は閉ざされるに等しく、裕一は退部を決心したうえでハーモニカ倶楽部のコンサートに臨む。

舘林会長にも才能を認められ、自作『想ひ出の徑(みち)』を指揮する息子の姿に、観客席で号泣する父・・・というドラマティックな展開なんだけれど、僕としては正直それより気になるのが窪田くんの指揮姿。よく映像作品では「こんなん演奏できるかい!」ってほど下手クソな指揮演技を見せられることがあるが、窪田指揮はまず大丈夫。

さらにドラマで音楽を担当する作曲家・瀬川英史のオリジナルであろう『想ひ出の徑』が、メロディはまったく古関裕而っぽいものの、当時彼が心酔していたフランス音楽ふうの特異な転調と和声が不意に噴出する、まさに若書きの「才気走った」感じがする作品で、なかなかの考古学的再現度なのだ。

福田雄一作品の座付き作曲家というイメージのある瀬川だが、福田作品のなかでも『アオイホノオ』で聴かせたマニアックな時代再現感覚が今後も発揮されるのでは、と期待させる。

「恋にのめりこむ、芸術家にもっとも重要」

ところで、この週のサブタイトルは「いばらの道」である。なのであるが・・・。

裕一は正式に養子になる前にその資質を見極める猶予期間として権藤家傘下の「川俣銀行」に勤めることになる(これも史実)。部屋は銀行の2階、ところが銀行は世界恐慌で超ヒマヒマ。

相島一之、堀内敬子、松尾諭、望月歩(映画『ソロモンの偽証』や本作の演出・吉田照幸が監督の『疾風ロンド』などに出演)と、同僚はそろってなんとものんびり暢気な面々なのだ。なにが「いばら」やねん、と笑ってしまう能天気さ。

おまけに裕一はダンスホールに連れて行かれ、なんといちばんの売れっ子・志津に見初められる。悪魔の同僚たちに面白半分にそそのかされるうち、すっかり本気に。その恋情が頂点に達して告白しようとしたとき、実は彼女の正体は小学校時代、裕一を相撲で投げ飛ばした超ネガティヴ思考の少女だったと判明!

一瞬にして裕一の初恋は散るのであるが、志津を演じた堀田真由がまた巧い。朝ドラ『わろてんか』や映画『36.8C°』『殺さない彼と死なない彼女』など、結構彼女の仕事は充実しているが、裕一にしっぺ返し(?)してみせるときの豹変ぶりはちょっとした見ものであった。

ちなみにダンスホールで「ちょうどいい女」扱いされる踊り子として椎名琴音が現れたのにも驚いた。山下敦弘&今泉力哉のガイナックス製作深夜ドラマ『エアーズロック』に主演したり、岩井俊二らと音楽ユニット「ヘクとパスカル」を組む異色女優である。

ところで志津にうつつを抜かしてる裕一の姿を見てしまったのが、かつての乃木大将こと鉄男(中村蒼)。

父親に殴られているのを目撃されたとき「しがみつけば必ず叶う」と言ってくれた裕一の言葉を糧にのし上がってきたらしく、今や福島日民新聞の駆け出し記者だ。片や、養子に遣られて音楽の道が閉ざされたとか以前に、ただの女ボケと化してしまった妄想童貞・裕一は、はてさてどうなるのか?

ま、恋にのめりこむって、芸術家にはもっとも重要なことなんだけどね。

【今週出てきた曲】
●ビゼー/歌劇『カルメン』序曲(ハーモニカ倶楽部アレンジで)
●ヨハン・シュトラウスII世/『皇帝円舞曲』(ハーモニカ倶楽部アレンジで)
●ちなみに、今や古山家よりも羽振りがいいらしい楠田が持ってくるSPレコードはモーツァルトの『魔笛』

文/ミルクマン斉藤