関西で活躍するお笑いコンビ「見取り図」が、アニメ映画『ジョゼと虎と魚たち』の声優に初挑戦。2003年の実写映画で大ヒットを記録した、田辺聖子原作の同名作で関西が舞台となっている。

中川大志が主人公の恒夫、清原果耶がジョゼを、ツッコミ担当・盛山晋太郎は、主人公のバイト先の店長役、ボケ担当・リリーは駅員役をつとめている。12月25日公開の同作でのアフレコの感想、大阪にまつわる思い出などについても訊いた。

取材・文/田辺ユウキ

リリー「東京の仕事は求められているものが大阪とは違う」

──『ジョゼと虎と魚たち』では盛山さんはかなり目立つ役でしたが、リリーさんは「駅員」と言われないと気づきにくい役でしたね。この台詞量の差はなんだったんでしょうか。

盛山「まあ、リリーがザコ過ぎるからでしょうね。こいつは本当に大根。セクシー大根ですね」

リリー「セクシーな大根とか、貶してるんか褒めてるんか分からへんな」

──部屋に閉じこもっていた主人公・ジョゼは、恒夫という青年と出会うことで外に出るようになり、海の味を知ったり、図書館の利用カードを作ったり、いろんな初めての体験をしていきます。おふたりは、初めてお笑いのステージに上がったときの感触を覚えていますか。

リリー「NSCの発表会だったんですけど、まぐれでめっちゃウケたんです。『余裕で1年目から売れるわ」って思いましたね。そして卒業してからオーディションを受けたら、どれも激スベりしまくった。現実と理想を知って結構つらかったです」

盛山「ただ、舞台でウケる気持ち良さをそのとき知りました。なんばグランド花月でウケたときなんて、本当にすごい。あの場所でウケたときの感覚は言葉になりませんからね」

──初ステージはどんなネタだったんですか。

リリー「どんなんやったかな。でもツカミで『おい、かに道楽を取ってきてくれ』みたいなことを言ったらウケた」

盛山「『業者かお前』って感じやったな。そこでウケたから『人を笑わせるのって簡単やな』となったんです。だけどそれが、NSC生が陥る最初の罠。初ステージでウケると勘違いしちゃう。今振りかえったらあれは漫才でもなんでもなかった。NSC生の発表会という下がりきったハードルのなかだったし、プロの芸人でも何でもないから、今とは全然違う」

リリー「卒業してからが本当の芸人の世界ですからね」

──映画のなかでも、ジョゼは恒夫と出会うまで、ほとんど外に出ていなかった。一緒に暮らす祖母・チヅから「外には猛獣がいる」と教えられていたから。おふたりも大阪以外でも仕事が増えてきて、外の世界をたくさん見ていると思いますが。

リリー「お笑いという意味ではどこへ行っても基本的には同じだけど、東京での仕事は、確かに求められているものが大阪とはまたちょっと違うかな」

盛山「東京は、タレントとしてどう立ち回れるかが大事な気がする。その点、僕らはタレント力がないから大変なんですよ」

リリー「東京では『朝日奈央力』が必要ですね。僕らは今、朝日奈央さんのような立ち回り方を身に付けたいんです」

盛山「そうそう、朝日奈央さんとか、みちょぱさんとかね。ワイプに抜かれたときに、どうやってうまくやれるかとか。だって、今の僕らが東京に進出しても昼の番組に出てる画が一切想像できないでしょ?」

──ハハハ(笑)。

リリー「朝日奈央さんって、関西の僕らの番組『EVERGREEN』にゲストで来てもらったとき、自分たちにはない発想で振舞っていたんです。『すごい』というリアクションひとつでも全然違う。芸人とは違う脳が働いている気がしました」

盛山「『テレビがうまい』って感じ。番組に出たら必ず司令塔になる」

リリー「ジダンとか遠藤保仁みたいやんな」

盛山「何かが突出してすごいのではなくてトータル力がある。フィールドをちゃんと見ている。ヒデ(中田英寿)みたいな感じ。テレビのディレクターが何を求めているか、ちゃんと分かって動いている。尊敬しています」

盛山「こんなヤツは運命でも何でもない」

──おふたりにとってのお笑い界での猛獣って、どんな人が思い浮かびますか。

リリー「虎のように緊張感がある人は、中田カウス師匠ですね。一緒に楽屋へ入らせてもらったらピリッとします。すごく良くしていただいている師匠ですけど、それでもお会いしたら今でも緊張します。あの笑顔の向こう側にある、お笑いに対する厳しさを感じるんです」

盛山「あと、ナダル(コロコロチキチキペッパーズ)は猛獣感があります。天才的におもしろい。僕は自分のなかで『お笑いとはこうするべき、エピソードトーク、大喜利、モノボケはこうあるべき』みたいなものも持っているけど、ナダルはそういうものにまったく当てはまらない」

──ナダルさんは確かにそうですよね。

盛山「予測不可能なナチュラルモンスター。天才とはこういうこと。山奥から下りてきたすごいヤツって感じ。ナダルって芸人からしたらものすごいのに、テレビを見ている人の意見はまた違うじゃないですか。なぜか『嫌いな芸人』のような扱いをされていて(笑)。そうやってみんなに石を投げられているところも猛獣っぽさがある」

──2019年の『M-1グランプリ』では終盤まで3位をキープしていたけど、凄まじい猛獣に捲られてファイナルに進めませんでしたね。

盛山「エグかった。ネタが始まって20、30秒で『あ、俺らアカンわ』ってなりました。まあ、ミルクボーイさんがおもしろいのは分かりきっていたことだし、そもそもM-1は芸人同士の闘いというより、対M-1なんですよ。M-1自体が猛獣で、それにどう打ち勝てるか」

──2019年大会では盛山さんがネタ中に噛んで「爆竹をお昼ご飯に食べてきた」という名言が出ましたけど、あれも猛獣の仕業ですか。

盛山「そうそう、めちゃくちゃ噛みましたね。っていうか今回の映画のアフレコでもちょいちょい噛んでいました。20回くらい録り直しましたから。僕ね、通常の成人男性に比べて5本くらい歯が少なくて。歯がなくなってから噛むようになったんです。舌が変なところに入ったりするから。爆竹の噛みすぎですね。でも、ダウンタウンの松本さんが『今、噛んだ!』という、噛むおもしろさを作ってくださったおかげで、それ自体が笑いにできるようになったんですよね」

リリー「でも俺は映画の台詞も一切噛まんかったから。実力の差かな」

盛山「いやいや、あの台詞の量で噛むわけないやろ!」

リリー「僕も10回くらい録り直したけど、それもきっとタムラコータロー監督のこだわりなんですよね。僕のことをよく見ていて、『さすがだな』って感じ」

──映画ではジョゼと恒夫の運命の出会いのシーンも印象的ですけど、盛山さんとリリーさんは初めて出会ったとき、どんな感じでしたか。

盛山「こんなヤツは運命でも何でもない」

リリー「でも同じ年に生まれて、同じ学校のクラスメイトやったんやで。それって運命やと思ってますけどね」

盛山「気持ち悪いな、やめてくれ。っていうか運命が薄いねん。クラスメイトでコンビ結成とか、そんなんいっぱいおるやろ」

リリー「地球上に75億人いるなかで、同じ時間、同じ学校を受験したふたりがコンビを組んだんやで? これは運命でしょ」

盛山「いやいや、内容が薄いねん。そういえば、僕の部屋の向かいに住んでいたナカモトさんというおっちゃんの話なんですけど、1998年にフランスワールドカップを現地まで観に行かはったんです。ただ、日本戦のチケットが取れなくって、全然関係ない試合を観て帰ってきたんです。そのときのナカモトさんの隣の席が、隣の部屋に住んでるハラさんやったんですって。日本戦でも何でもない試合に隣人同士が隣り合うとか、ありえないでしょ。さすがに『運命ちゃいますの』って思いましたね」

リリー「そうやねん。運命の出会いって、すべてが奇跡ですからね。今日、インタビュアーさんとも出会えたことも運命。地球が誕生して46億年。同じ惑星に生まれて、こうやって出会えるなんて運命ですね」

盛山「75億とか46億とか言いたいだけやろ。あとこれは前に付き合った彼女の話なんですけど。僕、大阪の天神祭で紙に電話番号を書いて女の子に渡しまくっていた時期があったんです。号外のように」

──いわゆるナンパですね!

盛山「100枚くらい紙に書いて渡していたんです。そこで返事があったコと5年くらい付き合いました。コツがあるんですよ。レシートの裏に殴り書きのように電話番号を書くんです。「すれ違った瞬間、あなたにトキめきました」みたいな感を出すために。もちろん家で必死にそういう風に書いているんですけど。5年付き合いましたが、今は着信拒否されていますね」

リリー「悲しい運命やなあ・・・」

【見取り図】

 大阪・難波の「よしもと漫才劇場」に所属、2018年・19年の『M−1グランプリ』ファイナリスト。盛山はラップ講師をつとめ、月刊誌『小説幻灯』でエッセイを連載。リリーは美術の教員免許の資格を活かしアート連載を持ち、ブランドとコラボしたイラストやデザインなども手掛けるなど、2人とも幅広く活躍。今年は年間100本目指してYouTube『見取り図ディスカバリーチャンネル』で更新中。