女性野球選手がプロ入りを目指して奮闘する映画『野球少女』。韓国ドラマ『梨泰院クラス』(2020年)で大ブレイクを果たしたイ・ジュヨンが主演する同作は、主人公であるスイン投手が男性選手との力差を前にもがきながら、前に進もうとする物語だ。

この映画の内容に「自分を重ね合わせた」と語るのは、栃木県のエイジェック女子硬式野球部で選手兼コーチをつとめる吉田えり選手。2008年、16歳のときにプロ野球関西独立リーグのチーム「神戸9クルーズ」にドラフト指名され、日本初の女性プロ野球選手となるなど話題を集めた吉田選手だが、注目度があがるたびに葛藤も生まれたという。

「映画のなかでスイン選手は幼なじみのジョンホ選手から取材記者を紹介されますよね。そこでジョンホは『この子は130キロ投げられる』と言います。確かに女の子で130キロはすごいけど、野球選手としては決して速いわけではない。スインは、『チヤホヤされるものではない』と取材を断る。自分もその気持ちが分かるんです」と、吉田選手は印象的な場面を挙げて振りかえる。

そして「女性野球選手は、『女子だから』という目で見られるのはうれしくないはず。私も、メディアに取り上げていただけることはありがたかった反面、満足いく結果が残せていないにも関わらず、女子選手という部分ばかり話題が先行したことに苦しさがありました」と当時の複雑な心境を打ち明けた。

男性選手と一緒に競技をしている以上、たとえ力や体格の差があったとしても、それを言い訳にはしたくない。それでもスインに次々と突きつけられる、シビアな現実。そこでの彼女の気持ちにも吉田選手は共感を示す。

「スイン選手が、幼なじみのジョンホ選手と手を合わせるシーンが心に残っています。昔はスイン選手の方が手も大きくて、野球も上手だった。だけど成長するにつれて男子の方が力が強くなって、球も速くなる。男子のなかでプレーをすると力の差がはっきり出てくる。スイン選手はそれを受け入れづらかったはず。手を合わせるシーンを観て『分かる』と言うか、胸がキュッと締め付けられました」。

そんななか、スインは魔球と呼ばれるナックルボールを習得し、輝きを取り戻していく。ただナックルは、「爪で弾くように投げる」とされているだけに、指先への負担が大きい。映画には、爪の保護のためにスインがジョンホからマニキュアをプレゼントされるシーンも描かれている。「ナックル姫」と称されるなど、投手としてナックルボールを武器にしていた吉田選手も同じ悩みを抱えたそうだ。

「乾燥する時期は爪も割れやすいので、私は接着剤を塗っていました。自分の場合はマニキュアだと、塗ったときの厚みの違いで投げる際の感覚が変わったりしたんです。ある日、接着剤が乾く前に左手で触っちゃって、くっついたこともありましたけど(笑)、それくらいのことはやらなきゃいけませんでした」。

あきらめず、目標に向かっていくスインの姿は、野球に詳しくなくてもグッとくるものがあるはず。吉田選手も「老若男女問わず、スイン選手が結果をつかんでいくところは、観ていて嬉しくなるはず」と見どころを語った、映画『野球少女』は3月5日より「大阪ステーションシティシネマ」ほかにて全国公開される。

取材・文/田辺ユウキ