平成の始まりと共に雪組トップスターに就任し、旧宝塚大劇場の最終公演となった『忠臣蔵』(1992年〜1993年)で宝塚歌劇団を卒業した杜けあき。現在女優として幅広く活躍する彼女が、「宝塚のモーツァルト」と謳われた作曲家・寺田瀧雄のメロディを歌い継ぐ、『寺田瀧雄 没後20年メモリアルコンサート All His Dreams“愛”』(6月26日開幕)に出演する。

下級生の頃から指導を受けた寺田氏との思い出や、歌との新たな向き合い方、ホームページや著書で披露している「愛言葉」についてなど、リモートインタビューで訊いた。

取材・文/小野寺亜紀 撮影/岩田えり

「ロマンティックな『寺田メロディ』に、心をわしづかみにされる」

──寺田瀧雄先生は『ノバ・ボサ・ノバ』『ベルサイユのばら』など数々の作品で、約3000曲もの名曲を残されました。先生の没後20年メモリアルコンサートへのご出演を前にした、いまの心境は?

このコンサートは2020年上演の予定でしたが延期になり、開催できるのだろうかと不安になる日々もありましたが、タカラジェンヌは運の強い人が多いので、今年こそはと信じています!

あらためて寺田先生の数々の名曲と向き合い、素晴らしい先生だったのだなと実感すると同時に、心から寂しくなりました。もし生きてらっしゃったら、5000曲、6000曲という名曲が生まれたのだろうなって。本当にどの曲も素晴らしいです。

──2000年の3月におこなわれた寺田先生の作曲家40周年記念コンサートの際には、杜さんもご出演され、先生はステージ上で音楽指揮をされていましたね。

そうです、あの年の7月にお亡くなりになられたんですよね・・・。私が現役のときも、先生自ら指揮を振ってくださることがたくさんありました。

私たちの時代の『TMP音楽祭』(現在の「タカラヅカスペシャル」)もそうですし、ディナーショーや先生のコンサートなど大小問わず色々な場で。そのたびに、先生がどれだけ曲を愛し、私たちタカラジェンヌを大切にしてくださっているかを感じました。

──特に思い出されることはありますか?

実は今回のコンサートで、眞帆志ぶきさんが歌われた「愛!」という曲を、安奈淳さん、剣幸さんと3人で歌わせていただくのですが、ちょうど卒業前の最後の『TMP音楽祭』で、「愛!」をソロで歌ったんです。

そのときも寺田先生がステージで指揮を振っていらしたのですが、最近「タカラヅカ・スカイ・ステージ」でその映像を偶然観て、もう鳥肌が立ちました。先生が私の息遣いや曲の雰囲気を最大限に活かしながら振ってくださっているのが分かって、震えるほど感動したんです。あらためてそういうのを思い出しますね。

──寺田先生のメロディが杜さんの包容力ある男役像など、いろんなものを引き出されていたように感じますが、あらためて寺田先生が生み出すメロディの魅力とは?

確かに寺田先生は、作曲をしていると主役の生徒の顔が出てくると言っていました。「カリンチョ(杜)の顔とともに、曲が降ってきた! 3分で創った!」と持ってきてくださった曲もありましたが、それが驚くぐらい名曲だったりするわけですよ!

先生は「天才」と呼ばれるのは好きではなく、自分のことを「職人」と仰っていましたが、それは努力を重ねて作曲していたからだと思います。

宝塚の舞台はお芝居もショーもあり、和洋ジャンルを問わないですし、まして女が男を演じる世界ですから大変な作業が多かったはず。でも今回のコンサートの楽曲を見渡しても、同じテイストのものが全くないんですよ。

ショーの曲も独特の世界観があって、「寺田メロディ」と言えるような、非常にときめくロマンティックな要素が、ポンポンと出てくるので心をわしづかみにされます。先生はやっぱり天才、と思いますね。

──今回のコンサートは、第1部がショー作品、第2部は寺田先生と縁の深い演出家の植田紳爾さん、柴田侑宏さんの作品の曲を日替わりで届けられるとのことで、杜さんは「愛!」以外にどんな曲を歌われますか?

ショーの方では、私がトップだったときの「パラダイス・トロピカーナ」や「スイート・タイフーン」を。お芝居の曲からは、源義経を演じた『この恋は雲の涯まで』の主題歌、『忠臣蔵』の「花に散り雪に散り」を歌わせていただきます。そして私が入団する前の歌、「僕は君」も歌う機会をいただきました。

──「花に散り雪に散り」は、杜さんの卒業公演に寺田先生が書き下ろされた名曲で、旧宝塚大劇場を包み込むような深い歌声がとても心に残っています。杜さんにとってはどのような1曲なのでしょうか。

ひと言で言ったら「集大成の曲」ですね。卒業という意味でも、私が演じた大石内蔵助はじめ赤穂四十七士が本懐を遂げたという意味でも──。

全員で歌うときの充実感はもちろん、ひとりで歌うときは男としての大きな決意、内に秘めた強さ、ナイーブさ、いろんなものを意識していましたが、それらを寺田先生の音楽が細やかに表現されていたなと思います。

──今回のコンサートではたくさんの宝塚OGの方と共演されますが、何か楽しみにされていることはありますか?

私が宝塚にあこがれ、入団するきっかけとなった初演の『ベルサイユのばら』に出演された方々が、当時の歌を歌ってくださるので私自身もファン時代に戻ったような気持ちになります。

それに私も結構歳を重ねてきたけれど、まだまだ自分が下級生だと思えることが素敵だなと。そういう気持ちをいつまでも忘れないでいられるのが宝塚の良さでもあるし、100年以上の伝統や誇りをこういうコンサートで感じられるのがうれしいです。

──現役生としては専科の轟悠さんがご出演(大阪公演のみ)されます。轟さんは新人公演で杜さんのお役をされるなど、在団時からご縁がありますね。

そう、とても懐かしいです! とうとう宝塚を卒業されると聞いて本当に寂しいけれど、よく頑張ったトドちゃん(轟)に心からの拍手を送りたいです。

宝塚は素晴らしい世界だと、離れてみてますます宝塚の良さが分かったり、また卒業後の生活の素晴らしさも感じたりするので、「これからも楽しいことがたくさんあるよ! 頑張れ!」と伝えたいです。

「自分としてはまだまだ、心だけは120%込めて」

──いま、コンサートに向けて稽古されるなかで感じることは?

私は宝塚を離れて28年目ですが、女優の仕事をしていると、まずあの声で歌うことはないわけですよ。当時は練りに練った男としての声、ときにつぶしたりもして創り込んだ「声」を土台に歌っていましたし、そんなに歌自体を掘り下げるというよりも、深く考えずにすごく気持ちよく歌っていたなーと思います(笑)。

いま歌稽古をしていると、ショーの歌はそうでもないのですが、お芝居の歌はやはり男らしい義経や内蔵助など、役の背景まで入らないと男役の声にならないので大変です。

──役を入れ込んで歌う感じなのですね。

そうです、あのときこういう気持ちだったなと、義経の品や内蔵助の心を思い出さないといけない。また、発声も音程の高い女優の声と男役の声とでは違います。

宝塚OGの方の中には、どちらも同じような声帯で歌われている方がいらっしゃると思うのですが、私の場合は全く違うので、自分の声を蘇らせるのに苦労します。

──でも卒業後に何度か歌われているのを聴かせていただいても、そのようなご苦労を感じさせない歌声だと思いました。

いえいえ、自分としてはまだまだで・・・! 寺田先生に叱られそうなのですが、心だけは120%込めて、と思っています。いまになって、男役の主題歌ってこんなにパワーがいるのだなと感じますね。

──実際、杜さんはどのように歌の力をつけていかれたのでしょうか。

もともと歌うことは好きだったのですが、テクニックがあるわけではなかったんです。これは下級生時代の話なのですが、大勢の歌稽古で寺田先生が私に「カリンチョ、歌に大切なことはなんやと思う?」と訊かれて、「心です!」と答えたら、先生は「違う、歌は音程や!」と(笑)。明るく仰られたのですが、深いお言葉でした。

──寺田先生からも色々なことを教わられたのですね。

はい。ただ、宝塚を辞めてから歌とは遠ざかっていた時期があり、やはり喉の筋肉はほかの筋肉と同じで使わないと衰えるんですね。男役の声は、毎日あのような発声をしているから出るのであって、また歌うとなると苦労しました。

今回も稽古しながら「うわー、大変!」と思うのですが、やっぱり男役のときにいただいた歌は私の宝だなと実感しました。本当に名曲ばかりで、歌い続けなければもったいない。昨年からコロナ禍で結構時間ができたので、歌と向き合う時間が増えたこともあり、よく歌っています。

──ご自宅で歌われるのですか?

そうです。こんなふうに稽古などの目的もなく、ただ歌いたいと思って歌ったことは、これまであまりなかったです。歌えば歌うほど、おもしろくも難しい。

宝塚の歌から、出演してきたミュージカルの歌までいろいろ歌うのですが、高い音程の歌と男役の歌を続けて歌うと、喉がびっくりします(笑)。全く発声が違うので、両立する大変さはありますが、逆に両立していける醍醐味もあるわけです。できれば両方の声を失わずにやっていけたらいいな、という「欲」がいまは出てきました。

──杜さんの前向きなスタンスは、著書『人生アドリブ活用術ー88の「愛言葉」ー』などで披露されている「愛言葉」からも感じます。

自分でも「前向きだな!」って思うことがよくあります(笑)。私のなかでは「生きる」ということは「前へ進むこと」というイメージがあって・・・。一歩でも半歩でも3cmでも前に進みたい。それは歌に関しても同じです。昨日より良くなっている自分を感じるとすごく喜びがあります。

──特にいま、心にとめている言葉はありますか?

一日たりとも同じ日はないなかで、「普通は尊い」ということを感じます。これまで長年、私は普通じゃない生活をしてきたと思うんですね。女性でありながら男性を演じることもそうですし、女優としてさまざまな女性を演じることもそう。

刺激的な日々が長かったなか、コロナ禍で必然的に家族と普通の時間を過ごすことがとても増えて、非常に幸せを感じました。このコンサートでも、普通に歌えることがなんて幸せなんだと感じるはず。劇場にお客さまがいらしてくださるのはとてもありがたいことなので、心を込めて務めたいと思います。 

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同コンサートは「梅田芸術劇場メインホール」にて6月26日〜27日、「Bunkamura オーチャードホール」にて7月1日〜2日に開催される。出演者は日替わりで、杜は6月26日17時、27日12時、7月1日17時、2日17時の回に出演。チケットはS席12000円ほか、6月5日発売開始。