ボクサー時代「浪速のロッキー」の異名をとった赤井英和。1985年2月の世界前哨戦で敗れ、生命の危機に陥る大怪我を負いながらも奇跡的に目を覚まし、俳優として再起。以降は『どついたるねん』(1989年)ほか数々の映画、ドラマに出演している。そんな赤井にぴったりの主演映画が7月16日から公開される『ねばぎば 新世界』だ。

約1年以上のロングランヒットを記録する映画『ひとくず』の上西雄大監督がメガホンをとった同作は、元荒くれ者・村上勝太郎が、不屈の精神でトラブルに立ち向かう人情物語。今回は赤井に、映画の話はもちろんのこと、真偽不明の「赤井英和伝説」などについても話を訊いた。

取材・文/田辺ユウキ 写真/バンリ 撮影協力/高津宮

「主人公と自分は重なるかもしれません」

──今回演じられた勝太郎はかつて荒くれ者で元ボクサーの男。赤井さんの経歴と重なるところが多いです。

脚本を読んだとき、お腹のなかに役がストンと入りました。台詞も腹の底から出る感じだったんです。それくらいなじみが良かったですね。アクションシーンもテイク1でオッケーが続きましたし、自分としては気持ちの良い役でした。

──物語としては、まさに「浪花節」です。

見知らぬ子どもをインチキ宗教から守るために男気を出す話ですが、物語の舞台である西成、新世界は私の地元なので参加できたことが本当に幸せでした。

──赤井さんありきの企画だったんですよね。

そうなんです。約45年の付き合いがある串カツチェーン「だるま」の上山勝也会長が発起人となり、「赤井先輩で新世界を舞台にした映画を撮りたい」という話から始まって。そして上西雄大監督が1日半で脚本を書き上げてくださったんです。

──演じられた勝太郎は心意気で動くタイプ。このあたりの情の深さも赤井さんご本人に近いんじゃないかなと思います。

「気持ちで行動する」というのは上西監督が伝えたかったメッセージのひとつではないでしょうか。実際に私自身、そういう部分があります。私が名誉監督をつとめている母校・近畿大学のボクシング部はかつて名門でしたが、不祥事が続いてしまいました。今もう一度、立て直そうとしています。

その活動はお金でもなんでもなく、お世話になった先生方、先輩方への恩返しなんです。自分はボクシングを通して多くの仲間ができたし、今でもそれは財産。そういう経験を若者たちにもしてほしいので。

──映画のなかの勝太郎はまさに、ボクシングを経験して筋の通った男になりますよね。

縄跳び、シャドーボクシング、サンドバッグ打ちなど、ひとりでやることが多いスポーツですけど、でもそうじゃない。仲間が支えてくれるんです。勝太郎もボクシングをやっていたから仲間に恵まれた。だから強くなれた。そこは自分と重なるかもしれません。

「諦めたらあかんのです、そんなメッセージを」

──赤井さんの息子・英五郎さんも今年、プロボクサーに転向されました。ただ、赤井さんはかつて命の危険に陥りましたし、そんなプロボクシングの世界に英五郎さんが挑まれることに抵抗はありませんでしたか。

赤井の息子ということで、彼は小さい頃から「ボクシングをやるのか」と言われ続けてきたはず。「ボクシングは絶対にやらない」と言っていたから、私もてっきりそのつもりだと思っていました。

で、彼は小学6年からアメリカで生活をしているのですが、ハタチになったとき「ボクシングをしたい」とアメリカの私の恩師を訪ねたそうなんです。ただ「父はこのことを知りません」と言ったらしく、「ちゃんとお父さんに許可をもらってきなさい」と。連絡があってびっくりしましたね。

──ご自身が果たせなかった世界王者の夢を託したい気持ちはありますか。

「パパを超える」という強い気持ちで頑張っているのはうれしいです。彼にはすごく期待しています。真面目な男ですし、コツコツと朝から走り込んでジムに通い、やるべきことをちゃんとやっていますから。

──劇中の勝太郎はかつて札付きのワルだったけどボクシングで改心した。そこは赤井さんの背景と重なります。ちなみに赤井さんには嘘か誠か分からないヤンチャ伝説がたくさんあります。たとえば「学生時代のライバルは前田日明さん(格闘家)だった」とか。これは前田さんご本人が先日、否定していらっしゃいましたが。

そうなんです。前田さんは大阪の北陽高校出身で、年齢も1歳上だったから噂が流れたんでしょうね。接点は全然ないんです。噂がひとり歩きしたかたち。後々に聞いた話では、前田さんは学生時代から真面目に空手に取り組んでいらっしゃり、スポーツマンだったそうなんです。

──噂話では、赤井さんと前田さんがバトルになりかけたとき、元阪神タイガースの岡田彰布さんが仲裁に入ったと言われていました。

ああ、それも聞いたことがあります(笑)。あれも岡田さんとは年齢が近いと言うだけ。当時、面識もなかったですから。なんでそんな話になったのか知らんのですけどね。

──そういえば、現在はYouTuberとしてもご活躍中の亀田史郎さんとやりあった噂もありますね。

亀田史郎さんは、暴れん坊だった三兄弟の末っ子でした。一番上のお兄さんが私の1歳下で、その彼が私が通っていた中学の隣の学校に転校してきたんですけど、「赤井に勝つ」と言っていたんです。私はそれを聞いて彼の学校へ行き、「亀田、出てこい」と長男さんを呼び出し、全校生徒が窓から見ているなかで戦いました。ですので、相手は違いますが、亀田家と過去があったのは、紛れもなく事実でございます。

──ハハハハ(笑)。

ただ亀田史郎さんは当時、小学生くらいだったので関係ないんです。史郎さんを殴ったりはしたことはありません。しかも彼は息子たちをチャンピオンへ育て上げ、今はジムもやっていらっしゃる。本当にすばらしいと思います。

──伝説が多い赤井さんだけに、『ねばぎば 新世界』も赤井さんの姿を重ねながら観てしまいますよね。

この映画のテーマはネバーギブアップ。私自身、ボクシングの試合に敗れて、急性硬膜外血腫、脳挫傷、深昏睡となり、親は「8、9割、命はあきらめてくれ」と告げられていました。そんななか目を覚ますことができて、こうやって今の仕事と出合い、現在にいたります。諦めたらあかんのです。そういうメッセージを受け取ってほしいですね。