『天城越え』『津軽海峡・冬景色』といった世代を超える名曲、『NHK紅白歌合戦』43回出場という紅組史上最多記録、2022年3月には歌手デビュー50周年・・・という数々の輝かしいキャリアを誇る歌手・石川さゆり。演歌ファンだけにとどまらない縦横無尽な音楽活動もまた、彼女の魅力でもある。

「ラップで突入するアルバムにしたいなぁ」(石川さゆり)

──これまでも、杉真理作曲の『ウイスキーが、お好きでしょ?』(SAYURI名義)をはじめ、奥田民生や椎名林檎らが楽曲提供したコラボアルバム『X−Cross−』シリーズ、亀田誠治や菅野よう子がアレンジャーで参加した日本を綴る三部作など、演歌以外の活動も興味深いものがたくさんあります。

私、演歌も大好きなんですよ。なにも否定しないし、大好きなんですよ。

──それは重々承知しております。今日は、あえて演歌以外の活動についてお聞したいのですが、さすがにKREVA、MIYAVIと一緒に作った『火事と喧嘩は江戸の華』(2020年のアルバム『粋〜Iki〜』に収録)でのラップとの絡みは驚きました。

もともと、日本を綴るアルバムシリーズとして、童謡を歌った『童〜Warashi〜』を昭和の最後に、民謡の『民〜Tami〜』を平成に、そして、江戸の小唄と端唄を収めた『粋〜Iki〜』を令和に、という3時代にわたって、日本人の心意気、音楽を作りたいと思っていて。

そのときに、小唄、端唄を面白がってやってても、さあ、どこから現代に繋げていこうかと思ったときに、そうだ、私たちの暮らしているこの地面だって、ずっと江戸の時代から、明治、大正、昭和、平成、令和と繋がってきてて、そこで日本人が生きてたわけじゃないですか。今はビルが建ち並んでいるけど、忘れちゃいけない日本人の心意気、粋な世界があるよね!って、「ラップで突入するアルバムにしたいなぁ」と。

そしたらプロデュースをお手伝いくださった亀田誠治さんがKREVAを紹介してくださったんです。いろんな話をして、彼も江戸資料館とかに足を運んでくださって。いっぱいディスカッションして、こういうときMIYAVIのギターも面白いから、とMIYAVIにも参加してもらいました。みなさん、まさに粋で。いいメンバーが揃いましたね。

──このアルバムが発売されたのが2020年2月ですから、ちょうど世界中で新型コロナの感染拡大が言われた頃ですよね。レコーディングされているときは、まだコロナの影響もなかったと思うんですが。

そうですね。2020年は、東京オリンピックが開催されるはずだった年なんですよね。私、自分が海外旅行したときは、必ずその土地で流行っている最新の音楽と、トラディッショナルな音楽と、2枚のアルバムを買うんです。海外の方が日本に来られて、「日本の音楽ってなに?」って聞かれたときに、それですべては語れないけれど、「日本には、こういう文化と音楽があるんです」ってものをちゃんと作っておきたいなと思って。

「私はやっぱり歌いたいんですね」(石川さゆり)

──その後、新型コロナによって多くのミュージシャンが活動を制限されることになりました。そんななか、2020年5月に公式YouTubeチャンネルを開設されましたね。普段着で、自宅から、音楽仲間とともに。

コンサートはできないし、私たちもずっとステイ、ステイって感じだったんだけど、そのときもやっぱり歌は止めないで、音楽を届けないといけないよねと。そのとき、YouTubeだったら届けられるんじゃないかって。でも、大勢集まるわけにはいかないから、まずは私のおうちに来てもらって、ピアノやチェロ、ギター、少人数ながら距離をとって、それ以外のパートはリモートで参加してもらいました。

最初はカラオケで・・・と言われてたんだけど、「いや、カラオケは違うわよ。やっぱり人と人が何かを作っていくというところをみなさんに届けることが今、私たちが『みんな頑張ろうね!』って伝えられることなんじゃないか」って。やってみたら、結構書き込みなんかもいただいたりして。それがすごくうれしくって! そのとき、完璧じゃなくても、探していこうって思ったんです。そこで、今までとは違う「音楽の届け方」を見つけたというか。

──そこがいちばんお伺いしたかったところで、歌うこと、音楽を作ることに関してはデビュー以降、ずっといろんなトライアルされてきたわけですが、コロナ禍によって音楽をどうやって届けるかを意識せざる得なくなったと思うんですね。

そうですね。まもなく50周年なんですけど、みなさんに歌を歌って、届けることって、当たり前の日常だったんです、私にとって。でも、日常ってこんなに脆くて、簡単に消えてしまうんだなって。でも、私はやっぱり歌いたいんですね。音楽を届けたいとか、そんな格好いいことじゃなくて。だから、「なにかできることがあるんじゃない?」って探して、そこでYouTubeチャンネルを開設しようと。

──コンサートでは拍手やコール&レスポンスという客席からの立体的なリアクションはありますが、YouTubeではまた違った反応がありますよね。

コメントを書き込んでくださったり、「いいね」を押してくださったり、ホントいろいろ。今まで思いもしなかったことなんですけど、今まで私の歌を聴いたことない方々と出会えるのがすごく面白かった。コメントでも、今度初めてコンサート行ってみようかな、とか。これまでいろんな方々と会ってきたと思ったけど、まだまだだなと。

こないだなんて、YouTubeでフランスの方の動画を観てたんですけど、すごくおもしろくって。フランス人の作曲家なのかな、日本語はわからないみたいなんだけど、「石川さゆり、大好き!」って言ってくれて、私についてずっとフランス語で語っているの(笑)。ホント、YouTubeっておもしろいツールですね。

──これまで視聴することは多々あったと思うんですけども、自ら配信するにあって、また違う面白さはありましたか?

お約束がないですから、なんでもOKじゃないですか。着物じゃなくてもいいし。ましてや、おうちでやってるわけですから、ホントにカジュアル。好きなことをしゃべって、今日はこれ歌いたいって。でも、やっぱり自由であるとともに、去年やってるときはなんも怖くなかったけど、どんな方がどんな風に聴いてるか分からないんだから、ちゃんと考えないといけないかも。まぁでも、私はYouTuberではないからね(笑)。

「私がラップしてみてもいいかなって(笑)」

──そのYouTube配信のなかで、アコースティック編成にチャレンジされました。

そうですね。ああ、こういう届け方もあるんだなって。発見しましたね。

──これが、最近再開されたコンサートのひとつのスタイルになっているわけですね。フル編成のほか、アコースティック編成によるコンサートがスタートしました。

そう。でも、うちのメンバーって3人とか4人じゃないので、AチームとBチームに分けることにしたんです。そうすると、チームごとに楽曲も変わるだろし、構成も全然違ってくる。その面白さがありますね。片やバイオリンやチェロだし、片やリード楽器とピアノとか。きっと楽しんでいただけると思います。

もともと、「おうちでライブ」と言ってYouTubeを始めたんだから、石川さゆり=着物のイメージがあるけど、今度のコンサートではお洋服でもいいんじゃない?って思っていて。まぁこのご時世ですから、換気もしっかりしなきゃいけないから、前半と後半に分けてね。前半は好きな格好、後半は着物で登場したり。

──8月15日には大阪「フェスティバルホール」(昼1時/夕方5時の2回公演)が控えていて、こちらはフル編成のコンサートですね。その後、9月から11月にかけて、プレミアム・アコースティック・ライブがおこなわれます。

そうですね。大阪公演では、『火事と喧嘩は江戸の華』でKREVAがやっていたパートを私がラップしてみてもいいかなって(笑)。YouTubeチャンネルでやった楽曲を、今日はちょっとアコースティックでやってみますね、というコーナーがあったり。

去年、あまりにも延期、中止があって、その度にみんなでスタジオに入って、構成を考えていたんです。で、中止って言われるたびにガックシ、はしごを外されるような感じだったんですけど、「ええい、負けないぞ! 次はもっと楽しいことしちゃうぞ」ってみんなと言いながら(笑)。構成もどんどん変わってきたので、さらに楽しんでいただけると思います。

──そのアグレッシヴさには感服します。まもなくデビュー50周年ですが、ここまで石川さんを突き動かしているものは何なんでしょう。

そんな、突き動かすなんてことはなにもないんですけど、素敵なこと、面白そうなことっていっぱいあるじゃないですか。「いのち短し 恋せよなんとか」じゃないですけど、100年歌えるわけじゃないんだから、今こそ自分たちの音楽をやろうよっていう。素敵な出会いがあって、音楽ができて、それでみんなが元気になれればね。

──50周年って金字塔ではあるんですが、石川さんにとってはそこすら通過点に感じます。

私自身もそうだし、誰も石川さゆりが50周年に到達するなんて考えてなかったと思いますよ。そもそも、そういうタイプでもないですしね(笑)。「これ、楽しそう」「やってみない?」って言いながら、右、左、右、左って、ひとつずつ足を運んで階段をのぼってきたら、「あら? そうなのかしら」という感じですね。