昨年から続くコロナ禍で公開が延期された作品が多数あった2021年上半期。泣く泣く劇場での鑑賞を諦めた作品がある人も多いのではないだろうか。

そんな困難に見舞われながらも、今期の邦画は良作揃い。「Lmaga.jp」の映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人がトークし、例年ベスト3を決める同鼎談だが、豊作の今期は「3つじゃ足りない!」とのことで、それぞれのマイベスト3をピックアップする。

文/田辺ユウキ

「つまりは究極の恋愛映画」(斉藤)

田辺:日本映画は上半期、俳優の顔ぶれとして新しい幕が開いた感がすごくありました。

斉藤:特に恋愛映画ね。まずは今年1番の大傑作『猿楽町で会いましょう』。金子大地の終始受けの芝居がめちゃくちゃ上手い! 相手の石川瑠華をちゃんと立てていく。行定勲監督の『ナラタージュ』(2017年)でも、恋人が死んじゃう男性役が抜群だった。今回は、まだ何も成し遂げていないフリーのカメラマンの役でね。

※編集部注/『猿楽町で会いましょう』・・・芸能界を目指し男性を頼って生きるユカと、駆け出しのカメラマン・修司の複雑な恋模様を描く恋愛映画

田辺:劇中の金子は、石川が何かやらかしたとき、怒りはあるけどやっぱり結局許しちゃう。むしろ「どうして彼女のことを僕は許せないんだろ」と自責の念まで抱えるという。

斉藤:そうそう、この映画のテーマがそこなんだよ。つまりは究極の恋愛映画なんですよ。

春岡:つらいよなあ、物分かりの良い男ってのは。

田辺:金子は「ちょっと気になるコとデキちゃった、うれしい」となるんだけど、石川には同棲している男がいて。で、「怪しいぞ」と金子が張ってたら、別の男と同棲している家から石川がゴミを捨てに出てきて、突入する。あの石川の、びっくりする間もない「ほっといてよ!」の返事がまた絶妙。「こういう生き方をしなければならない女性」という立場の臨場感がありました。

斉藤:石川瑠華は『くまもと復興映画祭』のときにじっくりお話をする機会があって。とても理知的な役者なんですよ。あと、彼女のライバル的な役割を担う小西桜子。

春岡:小西桜子は怖い役者だよなぁ。もちろん良い意味で。

斉藤:小西の役は要するに、石川演じる主人公にとって「こういう人間になりたい」という形を先に実現していく女性。ともに、やたらと金をむしりとる俳優学校の生徒なんだけど。

田辺:金子に仕事を渡す雑誌編集者に前野健太をチョイスしたのも見事。下心がにおいたつ、下っ腹がベルトの上にちょっと乗るような中年男の厭らしさがありました、さすがですね。

「何と言っても素晴らしいのは、ブチギレる前田敦子」(田辺)

斉藤:同じく恋愛映画では、今泉力哉監督の『街の上で』ね。本当は2020年公開予定だったけどコロナで延期になっちゃって、その間、中田青渚、古川琴音が一気に売れた。若葉竜也もさらにランクを上げたし。

※編集部注/『街の上で』・・・彼女と別れ傷心中な古着屋の店員・青(若葉)が、突如舞い込んできた「自主映画への出演依頼」がきっかけで出会う女性たちとのストーリー

田辺:『街の上で』で何が良かったかって、下北沢が舞台の物語で、関西弁のキャラクターがサラッと出てくるところ。現実としては当たり前のことだけど、こと東京の映画になると途端に関西弁の登場人物って浮いたキャラクターにされがち。この映画には関西弁がふたり出てきますけど、そういうことを特殊なようには捉えていない、だってそれが当たり前の東京だから。関西弁キャラのひとりはカフェの客で、(ドイツの映画監督)ヴィム・ヴェンダースの映画について喋ってる男の子。あの場面がすばらしかったです。

斉藤:今泉監督にインタビューしたけど、もともと中田青渚の役は標準語でやらせるつもりやったんやって。そうしたらホン読みで彼女が関西弁で喋り始めたらしくて。兵庫県出身なんだよね、彼女は。そこで全部、関西弁で書き直したと。

春岡:今泉監督は『アイネクライネナハトムジーク』(2019年)、『愛がなんだ』(2019年)と商業映画としてちゃんと売れるものを作っているところが素晴らしいよね。でも完成度や洗練という部分では『街の上で』が1番に感じた。上半期は松坂桃李主演の『あの頃。』も今泉監督らしさがあったね。

斉藤:もちろん良い映画なんだけど、『あの頃。』は僕のオタク心をそんなに刺激しなかったんだよね。

田辺:僕は逆で、初期のモー娘。にハマりまくっていたのでかなりシビれました。結構、アイドル現場の地下的な温度感がうまくあらわされていましたね。

斉藤:男の子たちの映画としては、松居大悟監督の『くれなずめ』が強烈だった。『街の上で』にも出ている成田凌が核となる役割を演じていて。松居映画ってハズレがないんだけど、なかでも1番じゃないかな。人によってはこれが生涯の1本になる可能性のある映画。

※編集部注/『くれなずめ』・・・高校時代の帰宅部仲間6人が、久しぶりに友人の結婚式で再会。友人の死を受け入れられない仲間たちの物語

田辺:男性陣ももちろん素晴らしいんですけど、何と言っても焼却炉の前でブチギレる前田敦子ですよ。キレすぎて声のキーがおかしくなっている。

春岡:あの高良健吾がバランスをとる役回りに徹しているところがまず驚きで、そこに成田凌、若葉竜也、藤原季節、浜野謙太、目次立樹が重なってくる。「すげえな、これは」となった。

斉藤:高良くんは普段の彼に近い感じなのよ。それぞれの個性に合わせた役を与えられている感じなんですよね。この絶妙なアンサンブルキャストにはまとめてなにかの賞をあげてほしいよ。これは松居くん自身の戯曲が原作ですよね。舞台なら死んだ人間が普通に仲間たちと行動しているという設定は、まあ、ありがちだったりするんだけど、それを映画でやると様相が異なってくる。リアリズムのあり方というかね。

春岡:全然、映画になっている。そこが良いところだよな。あと、この映画の城田優が最高なんだよ。

田辺:彼の出現によって成田凌らが結束する、「あいつを倒せ」みたいな。いわば序盤に出てくるボスなんですよね。

「ドキュメンタリーを超えたドキュメンタリーみたい」(春岡)

春岡:個人的にすごく好きな映画なんだけど、いわゆる「絶対1位」みたいな映画でいくと西川美和監督の『すばらしき世界』。役所広司はいま1番良い時季にいるんじゃないかな、役者として。あと、この映画の仲野太賀が良いんだよなぁ。

※編集部注/『すばらしき世界』・・・社会復帰を試みる、刑務所から出所したばかりの元殺人犯・三上(役所)。その様子を番組にしようと企てるテレビマンが近寄り、ある事件が起こるというストーリー。

斉藤:太賀は自分のスタイル決めていなくて、映画によってどんどん変えてくる。それこそ『あの頃。』とか。彼がいなければ日本映画が回らないような、そんな役者になってきた。役所広司は走りながら「シャブより気持ちいい!」なんて思わず口走っちゃう(笑)。つまり、覚醒剤漬けのヤクザ・五味(役所)を描いたヤクザ映画『シャブ極道』(1996年)の成れの果て感があるのよね。

田辺:この映画は終盤はちょっとわざとらしさがあるじゃないですか。お葬式が終わって、みんなが集まって違う方を見るとか。あと、出てくる人がみんなやさしいところとか。でも「人のことを見捨てない」という内容がとても良いんですよね。六角精児、北村有起哉とか。

春岡:この映画の役所広司は、改心する人じゃない。あの人は悪いことをしている意識がないんだから。それでいて決して悪い人でもない。法律に触れることをやってしまうけど、1番真っ当だったりする。

斉藤:刑務所に入ることになる事件とか、勤務先の施設で障害者をあざける同僚を見てムラムラ怒りがこみ上げるとか、すべて正義漢的動機なんだよね。だから、見ていて燃えるところがある。だけどアンガーマネジメントがきかないんだなあ。

春岡:橋爪功、梶芽衣子の夫婦も良い。役所広司の身元引受けをするけど、孫がやって来たら当然、そちらの方を優先してしまう。そういうくだりをちゃんとやりよるんだよ、西川美和監督は。

田辺:『すばらしき世界』のように善悪として括れない世界を描いた作品として、傑作だったのが『海辺の彼女たち』(藤元明緒監督)。あれだけの長回しなのに無駄がない。在留カードを偽造してもらってお金がなくなり、線路沿いに歩いて帰るシーンなど、どの画にも力がある。

※編集部注/『海辺の彼女たち』・・・日本で働く3人のベトナム人の女性たちが主人公。パスポートを失ってしまった彼女たちは不法就労となり、切実な問題に直面する・・・という社会問題を描いた作品。

在留カードや保険証の偽造で金を要求されるけど、それだって決して悪いわけではなく。いや、悪いことなんですけど(笑)。そういうものを作る側としては特急作業で追加料金をもらうのは間違っていない。主人公たちの目線で見たらそりゃ苦しい事情になるけど。

斉藤:この映画には基本的には悪人が出てこない。主人公たちを追い詰めた、姿を現さないブラック企業のやつらを除いてはね。姿を見せる人間のなかには悪人がいなくて、裏の仕事している人間もそれなりに理由がある。

春岡:悪人としては、主人公の女性のひとりを妊娠させてほったらかしにしてる、故郷の男もいるよな。まあ悪人というよりダメな奴なんだろうけど。あれだけ電話でやり取りをしているんだから、そこは見過ごせなかったけどね。それにしても藤元監督は一気に進化してびっくりした。前作の『僕の帰る場所』(2018年)も良い出来だったけど、「こうなったか!」と。ものすごく上手い映画だよ。

斉藤:映画を作るチームががっちり出来ている。だから鰯を選別するシーンも、実際にその時間へ行って、現地の人たちが実際に作業しているなかで撮り切ることができる。藤元監督に聞いたけど、ちょっとでも変な動きしたら漁港の人に怒られるんやって、魚は鮮度が大事だからね。音声さんとか大変だと思うのよ。そこはチームワークができているから、なるべく怒られないように進行できるとか。

田辺:満員の地下鉄に乗る場面もよく撮れていますよね。カメラを引いて撮っちゃうと周りの反応が映り込んでリアリティが失われるから、あの密集度のなかでかなり寄って撮ってるんですね。

春岡:全体的に、ドキュメンタリーを超えたドキュメンタリーみたいなドラマになっている。あとね、主人公の女性たちが可哀想には描かれていなくて、一生懸命生きているように映し出されている。可哀想なんてのは感傷でしかないし、大きなお世話なんだよね。

斉藤:入管制度問題とかちゃんと突いてくるけどさ、『僕の帰る場所』もそうだけどすべてちゃんと下調べしたうえで、問題意識も入れながら、しかしただ可哀想な女性の話にはしたくない意思が伝わってくる。

春岡:『僕の帰る場所』は、監督個人が自分を置き換えていたようなところもあった。もちろんそれもすごくおもしろかった。でも今回はかなり客観的に、東南アジアから日本へやって来て一生懸命働いている女性たちを捉えていて。それは現場でちゃんと撮っているから。今年は『海辺の彼女たち』を差し置いては語れないところがある。

「上半期は『もし人生が二度あれば』って話が多かった」(春岡)

田辺:あと、僕は『コントラ』をベストに推したい。「俳優の顔ぶれとして新しい幕が開いた」という意味では、主演の円井わんですよ! 終始、不機嫌な女性、そして劇中の行動が伴っている。序盤、こいでいる自転車を川原へと投げ捨てる。この自転車の使い方が素晴らしく、円井わんはスタンドを立てずにそのまま地面へ倒して置いて、家に入ったりする。自転車の車輪など円を描くもの、動作がこの映画は重要で。

※編集部注/『コントラ』・・・祖父が第二次世界大戦中に記した日記にある宝に関する記述を見つけ、宝探しをする女子高生・ソラ(円井)と、後ろを向いて歩く不可思議な男との交流を描く。

斉藤:そうそう。だから『猿楽町』の石川瑠華、金子大地、『街の上で』の穂志もえか、中田青渚、古川琴音、そして『コントラ』の円井わんだよね。

田辺:ずっと不機嫌なんだけど、飯を食べているときとかちょっと機嫌が良かったりして。その都度、顔つきが良い。インタビューしましたけど、過去の自分があんな感じだったそうで。あと監督と役についてかなり話を詰めていったみたいですね。

斉藤:インド出身のアンシュル・チョウハン監督ね。『東京不穏詩』(2020年)も抜群だった。今回は、間瀬英正演じる後ろ向きで歩く謎の男がヒロインに絡んできて。彼は第二次世界大戦の亡霊みたいなもの、つまりマジックリアリズムなんですよ。そして円井わんが祖父の遺品を見つけて、宝探しの要素も出てきて、しかし田舎のどうしようもない人たちの欲に振りまわされたり。

田辺:若手俳優では、『いとみち』の駒井蓮も外せません。横浜聡子監督は『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』(2005年)、『ジャーマン+雨』(2006年)、『ウルトラミラクルラブストーリー』(2009年)など怪物みたいな映画がありましたけど、ついに商業の代表作がついにできた感があります。

※編集部注/『いとみち』・・・津軽弁の強い訛りと人見知りで人と話すことが苦手な女子高生・いと(駒井)が、自分を変えるべくメイド喫茶で働きはじめ、離れていた津軽三味線とも再び向き合うようになる。

斉藤:駒井蓮が津軽弁を喋っているけど何を言っているか本当に分からなくて。大阪アジアン映画祭で観たときは、気がついたら英語字幕を読んでいた(笑)。

春岡:いや、あれが分かるのよ。最初は分からないけど、分かるようになってくる、それがすごいよね。

田辺:というか、間違いなく映画における言語について一石を投じた作品だと思います。

春岡:『ニッポン国、古屋敷村』(1982年・小川紳介監督)で山形弁に字幕が入っていて画期的だと言われていたことを思い出した。あの映画は傑作だと思うけど、『いとみち』を観たとき、ひょっとすると字幕は必要なかったかもしれないと思った。観ている方の耳が慣れてきて、音に慣れて、言葉の意味が分かってくることの凄み。

斉藤:つまり、映画に関して言語は実は大した問題ではないんですよ。イタリア映画のような感覚。僕はもともと、映画サイレント完成論を唱え続けているんだけどさ。

春岡:サイレントが1番完成された形なんだから。俺らが大阪芸大在学中、宮川一夫先生にどれだけ言われたことか。「モノクロ、サイレントこそが映画なんです。音や色のついているものはダメです」って(笑)。

田辺:駒井蓮が家で過ごしているとき、靴下が半分脱げながらダラダラしていたりして。そういうところからキャラクターの人柄を見せるところもうまい。横浜監督にそのことを尋ねたら、「あれは私が実際にやってることなんです」と。

斉藤:ジョナゴールド(ダンス&ボーカルグループ・りんご娘のメンバー)の家に駒井蓮が遊びに行く場面も、横浜さんの個性が爆発していたね。あのジョナゴールドもさ、「いつも何聴いている?」と聞かれて、「人間椅子」とかさ。で、人間椅子の曲のリフを三味線でやりはじめたり(笑)。

春岡:ジョナゴールドの部屋での長録りはワクワクしたな。あとさ、上半期は「もし人生が二度あれば」って話が多かったのも特徴。まず『夏への扉−キミのいる未来へ−』(三木孝浩監督)。時間軸はひとつしかなくて、同じ世界に、自分がふたりいてもかまわない。山崎賢人が清原果那を助けるために戻ってくるという、このストーリーだけが大事で、そこに多元性は必要ない。

※編集部注/『夏への扉−キミのいる未来へ−』・・・優秀な科学者である宗一郎が、30年の時を超えて謎の死を遂げた大切な人・璃子(清原果耶)を救おうと試みる、SFラブストーリー。

斉藤:原作は日本ではオールタイムベストSFの常連ではあるんだけど、さすがにタイム・パラドックスに関してはざっくりしすぎてる(笑)。でも恋愛にシフトするとこれくらいがちょうどイイというね。公開日の6月25日は芳根京子主演の『Ark アーク』(石川慶監督)もあって、日本のSF界にとって特記すべき日でもある。

田辺:僕は前衛演劇的で変態的な前半はすごく好きでした。あと石川慶監督は『愚行録』(2016年)、『蜜蜂と遠雷』(2019年)然り、人物を移す際の構図の空間の使い方がやはり異質。ただ物語としては、不老不死が実現して、「どうして子どもを産むのか」という意図がかなり変わってしまって、そこが腑に落ちなかったんです。それと、足音で年齢が分かるという風吹ジュンの重要な言葉も生かしきれていなくて。

春岡:せっかく円弧というタイトルなのに、それをもうちょっと感じさせてほしいところもあった。

斉藤:確かにそうだけど、でもうまく回収できていて泣いちゃったけどね。プラスティネーション化した死体を紐で動かしてポージングする、ってのはイサム・ノグチのバレエ作品ぽくもあるし。僕の大好きなケン・リュウの小説のなかでもこれを映画の原作にもってくるとは思わなかった。

ケン・リュウはエグゼクティブプロデューサーでクレジットも入っているけど、いろいろ納得ずくやったんやろなぁ。だって本当はあのプラスティネーションも、原作では皮を剥いで血管繊維だけになった、「人体の不思議展」みたいな博物学的なものだったから。それどうするのかなと思っていたんだけど、そこは映画としては避けた感じで。

「あんな実力みなぎる俳優が同時代に」(斉藤)

斉藤:ファンタジー系では『ブレイブ−群青戦記−』。本広克行監督のあの路線ではぶっちぎりでおもしろい。桶狭間の戦いに高校生たちがタイムスリップして、武器を持っていないからそれぞれ部活動での能力を活かして戦っていく。アメフト部がタックルをまず仕掛けて、当時の兵士は剣しか使わないから野球部はボールを投げて、相手が弱ったところにボクシング部が突っ込んでいく。

春岡:化学部の連中はタイムスリップせずに現代に残っていて、仲間を現代へ連れ戻すために勉強をするとか。部活版『戦国自衛隊』(1979年)なんだよね。

田辺:時代劇では『るろうに剣心 最終章 The Final/The Beginning』がさすがでした。『ブレイブ−群青戦記−』に出ていた新田真剣佑が良い。だって彼は、剣心(佐藤健)と闘うために強くなったわけじゃないですか、その努力が泣かせる。お姉ちゃん(有村架純)を殺された復讐のために僕は強くなる、という。だって出だしは普通の男の子だったんだから。

※編集部注/『るろうに剣心 最終章 The Final』:映画『るろうに剣心』シリーズの4作目。主人公・剣心と、上海のマフィアで剣心にある恨みを持つ縁(新田真剣佑)の闘いを描く。

斉藤:真剣佑は最初の列車のシーンが唖然とするすごさ。そして伊勢谷友介、土屋太凰の殺陣の腕がまた上がっていた。『The Beginning』で、囚われた剣心が縛られながらも逃れる殺陣はなかなか新しい殺陣だったな。

なによりシリアスなんだよね。「ござる」をまず使わない(笑)。血みどろであまりにも残酷な話。ラスト近く、桂小五郎(高橋一生)に「お前みたいな人斬りを見つけた。裏切者を探しに行かせてる」みたいなこと言われるんだけど、多分あれは(人斬りとして恐れられた)岡田以蔵のことでしょ。大友啓史監督の大河ドラマ『龍馬伝』(2010年)では、佐藤健が以蔵をやっていたからね。

田辺:有村架純といえば、菅田将暉と共演の『花束みたいな恋をした』ですね。サブカルネタをずっと引っ張るのではなく、それが恋愛化することの地獄性なんですよね。

斉藤:花束ってのはすぐに枯れるもの、贈り物としてはうれしいんだけど。つまりそういう意味の話なんだよ。なにより今、菅田くんと架純ちゃんが日本映画界にいることはとても大きなこと。あんなにスター性があって実力みなぎる俳優が同時代にいるなんて。

春岡:日本映画に欠かせないといえば柄本兄弟だよ。柄本佑が主演した『痛くない死に方』は、高橋伴明監督の「今」をあらわす映画として意識しておかなければならない。伴明作品をこれまで見てきた人間はみんな思うところがあるわけだよ。

出演者の宇崎竜童はメジャーだけど、前半に出てくる下元史朗は一般的には知る人しか知らない。でも堪らんぜ、なんたって伴明さんのピンク映画にずっと出てた俳優だから。そんな下元さんがいい芝居すんのよ、紙おむつをずっとつけて。あれは下元さんだからやってくれたって伴明さんが感謝してはった。

編集部注/『痛くない死に方』:在宅医療に従事する医師・河田(柄本佑)が、その在り方について葛藤、模索する作品

斉藤:ピンク映画時代の伴明こそもっともおもしろいと考える僕にとっては、これは確かにたまんなかった。春岡さんのおっしゃるように「ああ、伴明さんもそろそろ映画人生の終わりかな」というところで下元史朗を連れてきて実質的メインに据えるのが格好良い。

しかも後半は、その位置に宇崎竜童を持ってくる。ピンクから一般映画に乗り込んだ最初の映画が宇崎主演の『TATTO〈刺青〉あり』(1982年)だったしね。あと原作者の長尾和宏さんは、『けったいな町医者』という自身のドキュメンタリーもあって、これも抜群に面白い。佑くんの主演なら『心の傷を癒やすということ』も良くってね。

春岡:『痛くない死に方』『けったいな町医者』『心の傷を癒やすということ』はおもしろい流れの3本。在宅医の終末医療の緩和ケアは、今の日本映画が1番描こうとしてる題材なのがよく分かる。吉永小百合の『いのちの停車場』もあったけどさ。で、そういう話が進んでいくと、『アーク』『夏への扉』に繋がっていくんだろうけど。

田辺:柄本兄弟の弟、時生が良い味を出していた『BLUE/ブルー』も、吉田恵輔監督の映画として見ると意地悪さは足りないけど、パンチを打ち合ってのKOとかではなく、カッティングで負けるとか、これまでのボクシング映画にはないことをやっていますね。

※編集部注/『BLUE/ブルー』:ボクシングを愛するも負けが続く瓜田(松山ケンイチ)。一方、ライバルの小川(東出昌大)は瓜田が持っていないものをすべて手に入れていた。やがて彼らの関係が変わり始めて・・・というストーリー。

春岡:ボクシングを通すと、吉田恵輔というひねくれ者もここまで正直になるんやなという(笑)。柄本時生は、いかにも彼らしい役割だった。松山ケンイチもさ、負けていても「ボクシングが好き」というだけでずっとやっているとか。愛を感じるよ、ボクシングに対する吉田監督のさ。あと個人的には『椿の庭』の富司純子が良かったんだよ。今年公開の台湾映画『夏時間』みたいに「親の家をどうするか」って話で、個人的に刺さってくる内容だった。

3人がそれぞれ選ぶベスト3は?

斉藤:アニメもすさまじいものが多くて、まず『映画大好きポンポさん』。キャラクターの動き、背景の画づくり、さらにアニメーションでロジャー・コーマン論をやっている。しかもプロデューサーのポンポさんが「90分で人を感動させられないとダメ」という、実はちゃんとした映画論を持っている。

田辺:ひとりの女優が水たまりを飛び越えるシーンなどの画のすばらしさ、そして映像編集という作業に焦点をあてた目の付けどころが本当におもしろかった。

斉藤:アニメーションとしての質が高いといえば、さすがSTUDIO4℃と思わせたのが、明石家さんまプロデュースの『漁港の肉子ちゃん』ですよ。2020年公開の『えんとつ町のプペル』もすごく頑張ってたけど、画、動き、どれも美しい。肉子ちゃんだけカートゥーンキャラで、あとはジブリ1期生のリアルさで固める、これは参った。

田辺:『シン・エヴァンゲリオン劇場版:II』はすべてきっちり回収して決着をつけた。よくぞここまで、と感動しましたよ。そして強烈だったのが『名探偵コナン 緋色の弾丸』。最高時速1000キロの真空超電導リニアの車内でアクションをやるとか、アニメでしかできない運動表現になっている。しかも、スマホなど電子機器をつかったやりとりもちゃんとアクション的になっていて、ずっと興奮しっぱなし(笑)。

斉藤:まさに『大陸横断超特急』(1976年)だったね、オリンピックを意識した大パニック。本来なら2020年公開予定だったというのに驚く。これをオリンピック前に公開するってケンカ腰やん(笑)。そしてパペットアニメ『JUNK HEAD』(堀貴秀監督)。あれをひとりで長年に渡り作り続けたなんて狂気の沙汰でね。

春岡:あれはすごかった。小さいキャラクターが伸びるところなど、表現がどれもおもしろい。

斉藤:あとね、SNSで話題になっているから『劇場版 少女☆歌劇レヴュースタァライト』(古川知宏監督)を観たけど、ちょっとぶっ飛んでる。T字型の表象がやたら出てくるんだけど、これってミュージカルなど舞台の立ち位置を示すバミリの形。話は、舞台女優になりたい女の子たちが競い合っているだけの話なんだけど。『幕が上がる』の最後の公演を2時間やったって感じ。

壮大なオーケストラ音楽のなかでキリンがずっと砂漠を走るとか、そのキリンが彼女らの想念や現在への橋渡しになったり。みんなが乗った地下鉄が突然ステージになってそこで彼女らのレヴューが始まる。ヘンではあるけど、1960〜70年代前衛演劇の憧れに満ちてるよなあ。

田辺:・・・さて、それぞれのベストですけど、日本映画は上半期、大豊作なので難しいですね・・・。いつもは3人の総括で3本選んでましたけど、今回は1人3本にしましょう。僕は『コントラ』『くれなずめ』『猿楽町で会いましょう』かな。そしてこれからのキーパソンとしては、円井わんを推したい。

斉藤:僕は、『猿楽町で会いましょう』『街の上で』『海辺の彼女たち』かな。石川瑠華、金子大地、中田青渚というバケモノが出てきた。ここに円井わんを加えたら、なんだか現在を象徴する感じがするよな。

春岡:僕はじゃあ『すばらしき世界』『海辺の彼女たち』『いとみち』かな。で、これはよく見る俳優ではあるんだけど『街の上で』の芹沢興人や、『痛くない死に方』の柄本佑をあらためて評価したいね。